更新履歴・日記



運び屋をしているジムリーダー
萌え 2022/06/07 22:27


・ゾル兄さん:ヒスイのすがた。





 コトブキムラから山と山に挟まれた狭い道を抜けた先にある黒曜の原野は、ヒスイ地方の中でも比較的穏やかな気候で過ごしやすい。コトブキムラからも近いため、ギンガ団を頭とした開拓団が生存域を広げていくのは黒曜の原野からが最適であった。最初に通りかかる大志坂も、強大なポケモンがうろつかない割と安全な場所だ。割と、というだけで完全に安全とは言い難いが。なにせ、ヒスイ地方のポケモンは草むらに潜むどころかその辺を闊歩しているので。地球上の生き物でも同じことが言えるが、動物というのは天敵から逃れるためにのしのしと足音を立てて歩かない。その辺を平然と歩いていたり、そればかりか足音さえ悠然と鳴らしているポケモンたちは、人間など恐れていない。むしろ、人間こそがポケモンたちから身を隠す立場だった。

 それにしても大志坂という命名はなかなか洒落ている。開拓の始まりを思わせる名前だと思う。そういえばヒスイ地方の原典である北海道にも、“少年よ大志を抱け”の明言で有名なクラーク博士が……あれ、もしかして北海道のクラーク博士像とヒスイ地方の大志坂の場所って同じか? さすがだゲームフリーク、俺がこの場にいなければ手放しで感動できた。

 大志坂に差し掛かると、右手には高台、左手には蹄鉄ヶ原(羊蹄山から名前を取ったのだろうか?)が広がる。左手の方を見やると、遠目に純白の体と炎のたてがみを持つ美しい馬が見えた。……遠近法がおかしい。何キロ先にいるんだあの馬。あいつ一頭で馬刺し何人分だろうか。

(でっっっか)

 まあ、ガラル地方でもワイルドエリアに巨大なポケモンが点在していた。むしろ、巨大さ加減は確実にキョダイマックスした野生のポケモンの方に軍配が上がるし、彼らとのバトルはMMOのレイド戦のように複数のトレーナーで挑まなければ太刀打ちできない。ただし、ガラル地方でポケモンが巨大化していたのは、その地方特有のガラル粒子によるものであり、あくまで一時的な状態だ。そして野生下では、ガラル粒子が集まるポイントである巣穴以外ではお目に掛かれない。一方のヒスイ地方では、オヤブン個体と呼ばれている彼らはガラル粒子と一切関係なくデカい。そして群れを率いるボスを兼ねることも多いので、彼らの傍には大抵同種族のポケモンがわらわらいる。ガラル地方では巣穴から全力で逃げればどうにかなるが、ヒスイ地方では執拗なポケモンにぶち当たるとひたすら追いかけてくる。遭遇した時にどちらがヤバいかと言えば、俺は後者だと思う。ヒスイ地方のポケモンは平気でリンチしてくる。ガラル地方なんて……いやワイルドエリアでも似たようなことになったことあるな???

「ルイさん……」

 俺が同行しているギンガ団員の青年が特盛馬刺し――もといオヤブン個体のギャロップに気付いて不安げな声を上げた。

「あっちの馬は無視して大丈夫です。こっちのことは興味ないみたいなので。それよりも逆方向の高台側の方が良くないですね。あれは……」

 ちらりと横目で見上げた先には、親指ほどの大きさに見える青い獅子がいた。彼だか彼女だかは、じっと用心深くこちらを見つめている。名前はなんだったか……。

「ルクシオロト」

「そう、ルクシオ。オヤブン個体のようです。あちらは少々こちらを気にして観察しているので、刺激しないように移動してください」

 懐からロトムの補足が入るのに頷く。ネットが使えないため更新されないものの、電子版のポケモン図鑑が搭載されているロトムの知識には非常に助けられる。……俺が言う前にロトムが勝手にダウンロードしていたのである。ロトムには金がかかるものと法律に違反するものとエロ関係のダウンロードは事前に相談しろと言っているので、電子版のポケモン図鑑は実は無料アプリである。ヤバくない? といっても、ロトムがデータを落としたのはWikiのようなものらしいが。なお、ロトムがダウンロードした初めてのエロ動画は、乾電池の直列繋ぎと並列繋ぎ、ショート回路だった。ロトムには48手にでも見えるのかもしれないが、俺が理解するには時代が早すぎた。

 一方、ルクシオの姿に気付いた三度笠のオッサンが、蒼褪めた顔をして背負子の紐を握り直す。緊張も行き過ぎれば逆に相手の警戒を煽るので良くない。人員不足的な理由で俺を含めて四人という少人数で移動しているが、多かろうが少なかろうが、行動を誤れば野生のポケモンは容易く牙をむくだろう。

「大きな音を立てたり、無暗に視線を合わせなければいいと思います。小さなコリンクが周りに何匹もいるようなので、こちらに敵意がないと分かれば無理に襲ってはこないでしょう」

 などと講釈しながらゆったりとした足取りで歩いていると、木陰からのっそりと紫色の球体が顔を覗かせた。

「ひっ」

「大丈夫。フワンテです。俺がいる時はゴーストタイプは基本的に襲って来ないので。……相性がいいんでしょうね」

 まさに風船のような見た目のフワンテは、俺がリーグ時代にガラルを巡っていた時もふよふよと寄って来ていた。ヒスイ地方のフワンテもその辺りは変わらないようで、ふよんとした頭を俺が上げた手に擦り付けてくる。だが眠そうな辺り、夜行性なのに真昼間に無理して起きてきたのだろう。いいから寝なさい。少し撫でてやってから木陰の方に押しやると、フワンテはふよふよと元居たねぐらに戻った。やはり眠いらしい。

 そうこうしていると、今度は茂みからぴょこんとムックル……どこか太ったスズメっぽい真ん丸な体型をした小鳥が飛び出してきた。ムックルはこちらに気付くと、慌てた様子でぴょこぴょこと逃げていく。ムックルはこちらを襲うどころかすぐに逃げていくので面倒がなくて良い。ビッパという寸詰まりのビーバーのようなポケモンや、たまにいるコリンクの方が少々手がかかる。

 ビッパは人間を見付けると、好奇心旺盛なのか躊躇なく突っ込んでくる。俺は嵩張る大荷物を背負っておりあまりしゃがみたくないので、ビッパを足だけで適当に相手してやり過ごしていた。いわば蹴飛ばしてはいけないサッカーボールのようなものである。ただしボールは勝手にじゃれ付いてくる。同行者の一人が俺の真似をしようとして派手に素っ転んで尻を痛めてからは、ビッパが突っ込んできても全部俺任せにされていた。ビッパの方も、適当に相手をしてやるとそのうち満足して帰って行く。彼らは肉食ではなく雑食なので、わざわざデカくて面倒臭い人間を食べなくてもいいのだ。

 コリンクは一番手がかかる。なにせ、電撃が使える。ビッパの様に足だけでどうにかしようとしたら電気ショックの餌食だ(あの程度なら受けても平気だが、ホイホイ受けるものでもない)。しかも下手に危害を加えようものなら、近くの高台に陣取っているコリンクの進化形がキレて突っ込んでくる。そのため、コリンク相手の場合は餌付けをしている。こちらに向けて毛を逆立てて警戒し出したら、さっさと豆やらキノコやらを投げてやるのだ。コリンクは「えっ、なに?」と言いたげな顔をするが、こっちが視線を合わせずに無視してやると、やがてちみちみと餌を食み始める。その間に通り過ぎるのが一番楽な方法だ。

 とはいえ、ポケモンには個体差もあるので、たまに容赦なく襲い掛かってくる奴もいる。その時は他の団員の盾になりつつ、程々にミミッキュで相手をあしらってどうにかなっていた。うちのミミッキュは出会った頃から既にレベル60、最後に確認した時には80をしれっと超えていたヤベーお嬢さんである。先手必勝で一発ぶちかませば相手を大体沈められるジェノサイドガールだ。このトンデモ娘に勝てるのは恐らく、今は遠方住まいの滅茶苦茶見覚えのあった鉄道員(仮)くらいではなかろうか。……あの人、雑誌に載っていたイッシュ地方の廃人トレーナーで、イケメンシャンデラ使いな気がする。

 俺以外にもいそうな被害者はともかく、こんな感じで俺は日夜荷物運び兼護衛として働いているのである。





+ + +





兄さんはガラル本島にいるので、鎧の孤島に生息しているコリンクとは縁がないです。

私はアルセウスでもダイパでもお世話になりまくりでした。困ったらレントラー先輩出してどうにかしてる。



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