ジムトレーナーは新生活を始める
萌え 2022/06/01 00:45
・ゾル兄さん:ガラルのすがた。
・ガラルリーグ後
・兄さんはラテラルタウンに引っ越しました
ゴーストタイプ技はゴーストタイプのポケモンにそれはもうよく効く。そのため、ゴーストタイプ同士の戦いは先手必勝か搦め手かのどちらかに偏る。そんでもって軒並み素早さ重視の手持ちになっている俺は、開幕一発目で殴り倒す脳筋戦法が大体通ってしまう。搦め手を仕掛けられる前にしばき倒すという、身も蓋もない話である。対策されても、ある程度はその上から殴れる程度にはポケモンのレベルも高い。そんなわけで、俺はゴーストタイプジムのご老人トレーナーを入会初日に倒しまくっていた。老人虐待ではないので通報しないで欲しい。
「ルイ君は強いのねぇ。リーグ初参加で本戦に行けるわけだわ」
「ホホホ、あんまりにも速いものだから、ワシらも仕事をさせてもらえんのぅ」
(……これ、長期戦にもつれ込むとこっちが不利になるやつでは?)
ぽやぽやと笑うおじいちゃんおばあちゃんに囲まれた俺はニコニコ笑顔を返すが、加齢により反射神経の衰えたご老人相手に電撃戦を仕掛けて勝っているだけで、盤上遊戯のように腰を据えて戦うルールなら負ける気がしてならない。内心でビビり散らす俺のことなど知らないオニオンは、野外に設置されているバトルフィールドの隅で、ミミッキュを抱っこしながらニコニコと笑っていた。可愛い。
リーグが終了してから早一ヶ月。俺はナックルシティからラテラルタウンへ引っ越ししていた。キバナとは送別会という名の酒盛り(いつもの)をやった。そして引っ越しに際してジャラランガをワイルドエリアにリリースしようか悩んだが、まだサイトウさんが戦いたそうにしていたのでもうしばらく一緒に過ごすこととなった。ジャラランガもやる気満々だったので問題はなさそうだ。
なお、モデルの仕事は相変わらず続けている。テオさんとのやり取りはスマホでもPCでも出来るし、アーマーガアタクシー……を使うには少々距離が遠いが、それでも公共交通機関や飛行ポケモンの力でナックルシティとの行き来も苦ではない。しかし仕事のメインはジムトレーナー業となり、モデルは副業となった。どうやらテオさんとしてはプロトレーナーとモデルの兼業は大歓迎らしく、これからも俺のマネージャーをしてくれるのだという。以前にもポケモントレーナーとの兼業モデルの担当をしていたことがあるようで、プロトレーナー業の手伝いもしてくれることになった。一から人間関係を築かなくても良いので、テオさんには頭が上がらない。感謝の気持ちで「頑張ってイケメンの顔作ります」と申し出たところ、そうじゃないと嘆かれたが。
ジムというのは、ポケモンのタイプの数だけある。しかしガラルリーグで活躍するのはその中の一部だけだ。スポーツと同じようにメジャーリーグとマイナーリーグが存在し、メジャーのジムだけがガラルリーグに参戦できるのだ。そしてラテラルタウンではサイトウさんのかくとうタイプジムがメジャーとしてラテラルスタジアムの使用権を持っており、ゴーストタイプジムはマイナーリーグに甘んじている。マイナーリーグのジムが使う場所はサブスタジアムもあれば公民館もあり、そこは環境や資金の差が大きいようだ。そしてガラルでも田舎に分類されるラテラルタウンにおいては、マイナーリーグのジムが使う場所は公民館寄りであった。ゴーストタイプジムの所属トレーナーは軒並み高齢者が多いため、傍から見ると町内会の集まりに見えなくもない。やっていることはだいぶ血の気が多いが。
一通りの高齢ドライバーならぬトレーナーをなぎ倒した俺は、他のトレーナー同士のバトルを眺めながら、サブリーダーのおじいちゃんと茶をしばくことになった。オニオンはというと、手持ちのミミッキュを携えておばあちゃんトレーナーとバトルしていた。彼は幼いが、10歳を迎えたらすぐにプロ登録を行う予定の実力派トレーナーらしい。
「プロトレーナーは実力主義。このままルイ君の実力が揺らがなければ、ゆくゆくはゴーストタイプジムの代表者をお願いするかもしれないのぅ」
「俺がですか? 新参者には荷が重いですよ」
「本当に荷が重いかどうかは、これから分かることじゃよ」
いや結構重荷です。実家の正門的な意味ではなく。臨時の事務仕事ならやぶさかではないが、ジムの看板を背負って公の場に出るのはハードルが高い。トレーナーの顔をしている時のキバナを見ていると本当にそう思う。画面の向こう側にいるキバナは本当に芸能人にしか見えないし、更にその向こう側にいるチャンピオン・ダンデは存在そのものの格が違う。まさにチャンピオンに君臨するために生まれたような男だ。あそこまで威厳のある白タイツとスポンサー祭りの赤マントを俺は見たことがない。
「それに、今代表をやっているのが腰をやってのぅ。いい加減若いのに引き継ぎたいと泣きが入っとるんじゃ」
「お、お大事に……」
寄る年波ネタには無難な言葉しか返せない。じゃあ俺が代わりにやりまーすなど、気軽に口にできる奴は心臓の毛がアマゾンだ。しかしサブリーダーはしわを深くして笑った。
「頑張るのじゃぞ、若いの」
「俺ですか」
「オニオン坊の次に若いのはルイ君を除けば40代じゃ」
予想以上に高齢化が極まってた。もうちょっと30代とか20代がいてもいいのではなかろうか。求む、ゴースト推し。
「十分にお若いですよ」
しかしガラル地方での公式最高齢プロトレーナーは、かのジブリ系魔女もといフェアリータイプ専門トレーナーのポプラ女史である。御年八十以下略だとか。それを思えば40代ならあと40年現役ですね! というのはさすがに無責任だが、それでもまだまだ先は長い。しかしサブリーダーは首を横に振った。
「あやつは嫁と一緒に農家をやっとるから忙しい」
「農家の方に有休なんてないですしね……」
ガラル地方の食料自給率を支えるので忙しいなら仕方がない。
ちなみに、トレーナーの兼業は俺に限ったことではなく、むしろ30代以上でトレーナーをやっている人間は大半が兼業らしい。ポケモントレーナーだけでは人生も社会も回らないということである。警察官やワイルドエリアを巡回するレンジャーなどは、むしろトレーナースキルが必須技能だとか。良いことにも悪いことにもポケモンが関わっているのだから、当然と言えば当然である。
「オニオン坊も、あと二年もすれば正式にプロ登録できる年齢になるんじゃがの」
「期待の星、ですね」
案外、オニオンが最年少ジムリーダーとして台頭する時代が訪れるのではなかろうか。まあ、本人とご両親次第だろう。
+ + +
そのうちなる予定。
原作主人公がガラルリーグに挑戦する頃には、オニオン君とマクワさんがジムリーダーやってると思います。剣盾両バージョン混ざってる状態。
ゾル兄さんがジムリーダーやるのは中継ぎ。
prev | next