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チャレンジャーの最後は締まらない
萌え 2022/02/21 20:30


・ゾル兄さん:ガラルのすがた。
・予選リーグから本戦の間





 今年度のガラルリーグのジムチャレンジ完走者は、マクワが一番で俺が二番だったらしい。その後にも二人ほど完走したようだが、俺がキバナとバトルしてから結構時間が空いたようだ。その空いた時間に俺がしていたことと言えば、仕事である。バッジを完成させたことで知名度が上がり、マスコミのインタビューやモデルの仕事が増えたのだ。マクワはまだ未成年なので俺よりも取材が抑制されているらしいが、成人の俺には容赦ないとか。若干他人事のような表現をしているのは、そういう部分を上手く捌けるマネージャーのテオさんがいるからである。そもそもチャレンジャーになるためには推薦状が必要となるが、大抵はその推薦状を書いた人物がチャレンジャーのバックアップに回るらしい。マクワの場合は所属しているいわタイプジムの助けがあるとか。

 ちなみに、ドアマンのアルバイトは上司公認(むしろ推奨)で休みをもらっている。知名度が上がったせいで俺目当ての人が店を訪れるようになったからだ。普通の店舗ならばともかく、バイト先は高級服飾店。ただの物見遊山で客層にならない相手までぞろぞろ来られても利益に繋がらないばかりか、本来の客の迷惑になるだけだとか。とりあえずはほとぼりが冷めるまでという犯罪者のような口実をもらったが、今後の仕事の都合によってはやめることになるかもしれない。

 一時期困ったのはインタビューだ。名前も年齢も性別も身長体重も出身地もとにかく何でも聞いてくる。いや名前も年齢も性別も身長体重も構わないが、出身地を問い詰められるのは拙い。パドキア共和国とも日本とも言えるわけがないし、かと言ってカントー地方とか適当に言っても確実にボロが出る。何しろ原点にして頂点、トレーナー界の生けるレジェンド・レッドさんが旅をしていた頃の視点(ゲーム本編時代)でしかカントー地方を知らないので。しかしその辺りもテオさんがどうにかしてくれた。圧の強い笑顔で「年齢・出身地は不詳でお願いします!」と元気良く言われたら黙るしかない。出身地はともかく、俺の年齢が気になる奴なんてそういないと思うが。ところで、やたらとキバナとの関係性を聞かれるのは何故だ。聞かれる内容が明らかにジムバトルの時の友達ムーブのせいだけではないのだが。そういえばバトルカフェの客がキバナが俺を好き過ぎるとか何とか言っていたような。原因はキバナが何かやらかしてそうなそれか? なお、関係性は友達と言っておいた。

 ところで、ガラル地方で一定以上有名になったプロトレーナーは、二つ名(キャッチコピー)なるものを呼ばれるようになることが多い。アマチュアとプロの線引きは微妙なものかもしれないが、少なくともガラルリーグで予選を勝ち抜いた選手はプロと見做されるとか。ジムリーダークラスになるとあって当たり前だ。そんなわけで俺にも二つ名が付く可能性が出てきたわけだが、俺が有名になって嬉しいテオさんはそこで頭を抱えていた。

 ナックルシティのモデル事務所に呼び出された俺は、個室でそんなテオさんと対面していた。

「僕はね! 君のことを“ミステリアスガイ”とかそっち路線の二つ名でやりたかったんだよ!!」

「……はい」

 それは知ってる。俺の内面がそれと乖離していることも知ってる。要は無理ゲーである。

「でもルイ君、ネット上ではイロモノイケメンみたいな扱いになっちゃってるし! なんか筋肉キャラみたいな扱いもされてるし!」

「返す言葉もございません」

 クールでもミステリアスでもないが、イロモノ扱いされたのは何故だろうか。恐らくちょこちょこと行動がおかしいのだろうが、人前で不審者のような行動まではしていない。筋肉キャラ扱いについては……ハンター世界では筋肉キャラを名乗ると鼻で笑われるレベルだが、ポケモン世界では別ということだろう。首を傾げた奴は一度ウヴォーギンを見て欲しい。彼の隣に並べられた俺はモヤシでしかない。更に身近な例で言うと、今世の親父殿もだいぶムキムキである。ついでにビームとか撃てる(真顔)。

「ところでリンゴ潰せる? ネット上で出来そうって書かれてたけど」

「潰せます」

「潰せるんだ……」

「縦に」

「縦に!?!?」

 ゾルディックの筋力を舐めないで欲しい。クソ重い正門(試しの門)の時点でお察しである。サボって勝手口から出入りしようとした奴は頭から丸かじり(ガチ)されるという、筋肉を鍛えざるを得ないような家庭環境だ。侵入者どころかお友達すら拒む分厚すぎる壁が我が家の観光名所である。ちなみに今のところ、お友達が家に遊びに来たゾルディックは一人もいな……いや待てゴン君たち来てたな!? さすがキルア自慢の弟。俺の友達? キバナが〇年ぶりの友達だよ悪いか。あとマクワとも頑張れば友達になれる気がする。ありがとうガラル、余所の暗殺者にも懐が深いカレー大国。暗殺者って言ってねーけど。

「レモン絞るのも得意なので、唐揚げ食べる時は呼んでください。最後の一滴まで絞り出します」

「ありがとう! でもレモンは絞らない派なんだ!」

「今度から唐揚げの皿は分けましょう」

 こうして唐揚げにレモンかける派とかけない派の戦争は未然に防がれたのである。

 唐揚げ戦争はさておき、俺の二つ名である。正直なところ、ただただ恥ずかしいのでやめて欲しい。そもそもぽっと出の俺にそんなものが付くとは思えないと訴えたが、テオさんは首を横に振った。既にネットで遊ばれてる時点で付く可能性の方が高いとか。……我が家の自称サイバーゴーストポケモン・ロトムの力でどうにかならないだろうか。どうにもならないよな知ってる。

「二つ名と言われても……そういうのって、当人が考えるものじゃなさそうなんですが」

「そうだね。そうだけど……このまま君の二つ名がゴーストハーレム野郎とかナイトメア筋肉バスターとかになってもいいの!?」

「それはちょっと」

 特に後者はあらぬものが混ざっているようにしか聞こえないので、非常によろしくないと思う。キン肉バスターを再現できる程度の身体能力は持っているがそれはそれである。それにしてもセンスねー二つ名しかないのは何故だ。……俺がイロモノだからですかそうですか。とはいえ、俺にネーミングセンスなどあるはずもなく、最終的にはテオさんによきに計らっていただくというか丸投げして終了した。よきに計らうも何も、実際はせめて気が狂った二つ名が付かないように行動に気を付けるだとか、あまりにも酷そうなものが雑誌に載りそうになったら事前に差し止めるくらいらしいが。つまりそれは出来ることがほぼないということでは?

 しかしそれから一週間後。とある雑誌のチャレンジャー特集で、“ハードロック・クラッシャー”と称されたマクワの後に“ファントムアサシン”との名目で俺の記事が載っていてギョッとした。ガチの暗殺者と白状した覚えは一ミリもないのだが。あとやっぱり恥ずかしいからやめて欲しい。え? 俺の背番号(チャレンジャー登録時に自分で決めさせられる)が000ですごく亡霊っぽい? それは思い浮かばなかったから全部0にしただけです。ゲームでデフォルト名が決まってない主人公の名前を求められると困るタイプなんだよ俺は!

 何はともあれ、そんなこんなでキバナとのバトル後に思っていたより忙しくなったことと、キバナと俺のスケジュールがなかなか合わなかったので、俺が彼とプライベートで会うことが出来たのはバトルから一ヶ月近く経った頃だった。

 酒とつまみを持ち寄ってキバナの自宅で酒盛りとなったその晩、ビールとワインをそれなりに空けたタイミングで、神妙な顔をしたキバナが俺に話を切り出した。

「それでだな、今日はルイに大事なことを言うために来たんだよ」

「大事なこと?」

「お前、オレさまのジムに来ないか?」

 冗談ではなさそうな顔をしていたので、俺も真面目に答えた。

「悪い。俺、もうゴーストタイプジムに参加するって返事したわ」

「マジか」

 そう、俺はゴーストタイプジムから勧誘を受けていた。そのジムはあのオニオン君も所属しているらしい。どうやら俺の手持ちの大半がゴーストタイプだったことで適正ありと見做されたようだ。ゴーストタイプのポケモンと相性が良いトレーナーは比較的高齢者に多いらしく、所属トレーナーの高齢者率がとても高かった。その中で幼くも才能を示すオニオン君は期待の星であり、ついでにまだ二十代と思しき俺も是非来て欲しい貴重な若手だとか。特定のジムに所属するデメリットは特にないよう(ジムの本拠地がラテラルタウンなので引っ越す必要が出てくるが、移動手段も通信手段もあるので許容範囲内である)で、テオさんからも勧められたのでリーグ期間終了後に加盟することにした。……ので、キバナの勧誘はありがたいが応えられない。そもそもジャラランガは区切りの良いところでリリース予定なので、手持ちのドラゴンタイプは過半数を割る。ドラゴンタイプ専門とは言い難いだろう。

 ジム同士でも順位を決めるバトルリーグがあるらしく、勝ち抜いた上位ジムがガラルリーグでチャレンジャーを待ち受けるスタジアム持ちのジムとなれるようだ。メジャーリーグとマイナーリーグのようなものだろう。ちなみに俺は勘違いしていたが、スパイクタウンのネズさんは専用スタジアムを持っておらず、俺がバトルしたのもスタジアムではなくバスケットコートだったらしい。ジムリーダーは全員スタジアムにいるものだと思い込んでいたので、随分あくタイプっぽい雰囲気のある特殊な改装をしたものだと考えていたのだが……この赤っ恥確定の勘違い、誰にも言わなくて良かった。

「それならしょうがねぇか。同じジムならバトルし放題だと思ったんだけどよ」

「でもジムバッジを制覇したから、堂々とキバナの友達って言えるな」

「お前……何だよめっちゃいい奴じゃねぇか」

 俺の言葉にキバナがきらりと目を輝かせてこちらにワインボトルの口を向けたので、手元のグラスを空にしてから差し出した。これ何杯目だっけ。

「だからジムバトルの時に堂々と友達臭出されてビビった」

「もういいかと思ってフライングしたんだよ!」

 俺はせめてキバナと対等なバトルを見せてからかなと思ってたんだよ。だが結果オーライだったのでそこまで気にはしていない。だがキバナ。お前、俺の知らないところで俺関係の何かを仕出かしているだろう。

 俺はキバナのグラスにビールを並々と注いで口を割らせようとしたのだが、イマイチ分からないことを言われただけでその晩は終わってしまった。リザードンじゃなくてドラパルトって何の話だ? 傍で丸くなっているサダイジャに聞いてみたが、大きな蛇は呆れたような顔でとぐろを巻くだけだった。

 そんなやり取りからさらに二週間後。

 キレたキバナが突如、仕事帰りの俺を襲撃しにやって来た。彼はモデル事務所から出てきた俺の首根っこを掴んで路地裏に引き摺り込んだ。誘拐は犯罪なのでやめてください。え? 誰がお前を誘拐できるんだって? ……幻影旅団とか……?

「ルゥゥゥゥイィィィィ!! お前はっ、お前って奴はァァァァ!!」

「キバナ、さすがに近所迷惑だぞ」

「うるさくもなるわ!」

 路地裏で待機していたらしいフライゴンが、心配そうな顔でソワソワしている。フライゴンの短い手がてちてちとパーカーの背中をつつくのにも構わず、キバナは俺に噛み付いた。

「お前、本戦の準備はどうした!? メンバーのエントリーは今日までだぞ!?」

「え? やるの?」

「やるの!?!?」

 キバナが素っ頓狂な声を上げた。そんなに芸人のような様子を見せられてもお兄さん困ります。漫才コンビはテオさんに怒られるから組めないんだ。

「やるんだよバァァァァカ!! やるに決まってるだろ!! お前何言ってんだ!? むしろこっからだろ!?」

 力強く言われても、キバナに勝利した時点で俺の脳内では第三部完のナレーションが流れたので完全に終わっていた。

「オレさま、試合の時に“これから楽しみだぜ”って言っただろ! それで本戦にお前がいなかったらどんな顔すりゃいいんだ!?」

 いつも通りの顔で良いのではなかろうか。それをスマホロトムに撮影してもらえばいいと思う。

「いやでも、バッジ全部揃ったら満足したっつーか」

「すんな!!!!」

 そうは言われても結構本気で満足してしまっている。なんなら、ジャラランガをどのタイミングでワイルドエリアに帰そうか考え始めていたくらいには満足していた。

「ホラ行くぞ! すぐ行くぞ!」

「ちょ、待っ、おげぇぇぇ」

 埒が明かないと考えたのか、キバナは俺を俵担ぎするとそのままフライゴンの背に飛び乗った。いややめろよ目立つだろ!?

 案の定、“キバナがチャレンジャーを拉致”というニュースが光の速さでSNSを駆け巡ったらしい。そのせいで俺もキバナもリーグ運営委員会から呼び出しを食らって事情聴取される羽目になった。そしてほぼ逆さ吊りの様相でフライゴンに乗せられる俺の画像を見たテオさんは、「みす……てり……」と呟きながら崩れ落ちたらしい。ミステリアスとは。むしろミステリーが起きそう。俺が落下死しても犯人モロバレなのでミステリーもクソもない上、俺なら全力を出せばワンチャン高所落下しても生き残れそうだが。

 なお、本戦のトーナメントは二回戦で負けましたありがとうございます。本気出したジムリーダーの皆さん超怖い。決勝まで勝ち進んだキバナとはかすりもせず、俺はチャンピオンのダンデさんとバトルする彼を温かく見守ったのである。ちなみにキバナは負けたので、来年また頑張りましょう会という酒盛りの理由ができた。仮に勝っていたとしてもチャンピオンおめでとう会として酒盛りはしていたと思われる。





+ + +





ゾル兄さんの友達:基本的に、一般人相手は巻き添えにするのが怖いので踏み込んで友達にはならない(なれない)。多分、大学生やってる時に普通の女の子を好きになって死なせかけた経験がある。
幻影旅団のシャルナークとは割と仲が良いが、友達と言っていいかは分からないような間柄(シャルナークの方は友達と思っている=友達の定義が兄さんよりドライ)。クロロはビジネスライクでヒソカは苦手。弟にちょっかい出すのをやめて欲しいと思ってる。もしかしたら受験勉強中のレオリオと仲良くなれる可能性があるかもしれない(受験勉強の経験がある貴重なゾルディック)。
友達では全然ないが、フェイタンから脅迫の仕方を教わったことはある。

キバナ戦後〜本戦まで時間が長い:複数のチャレンジャーが挑んでいるのでチャレンジ期間がそれなりに長い+兄さんの旅程が徒歩にあるまじきハイペースだから。マクワさんはそのゾル兄さんより早いですが、彼は時々手持ちにライドしている設定(飛行ポケモンではない)。通常のチャレンジャーは手持ちの消耗を避けたいのであまりライドしないのではと勝手に考えてます。兄さんはゲームの常識で考えてるのでしれっと6体フルメンバーですが、アマチュアトレーナーはそこまで管理しきれなさそう=手持ちが少ないのでは。マクワさんは実力者なのでどうにかなる。



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