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遅刻したハロウィン文
萌え 2012/11/01 22:45


・どこかのマンションの一室
・兄さん←マチ
・この話の兄さんは吹っ切れてるのでマチが好き
・実際は兄さん→←マチ
・もうくっつけ





 念能力者になって得したことと言えば、力仕事が楽になったことだろうか。周をしてオーラをまとわせた包丁でゴリゴリとカボチャを抉りながら、俺はそんなことを考えた。

 カボチャという野菜は、加工用のもの以外の、要するに通常の目的である調理用の品種は、総じて皮が分厚く硬い。だから包丁で切る前にレンジで加熱して柔らかくするのがセオリーである。だが、念能力者になった俺は、オーラを使えば加熱前のカボチャでも簡単に切り刻める。仮にオーラを使わずとも、現代日本比較で怪力になった腕力なら、あっさりカボチャを解体できるだろう。今回は包丁を傷つけないためにオーラを使っているのだ。

 居住者が一身上の都合で失踪した(理由を深く考えてはいけない)マンションの一室で、俺がわざわざカボチャ相手に格闘しているのには理由がある。単純に、シズクとコルトピから「カボチャのパイが食べたい」とリクエストされたのだ。意外と食いしん坊(この2人の食いしん坊は可愛らしいレベルだ。強化系組の食いっぷりは最早災害級である)の彼女達から食べたいものをせがまれるのは珍しくない。特に嫌がる理由もなかった俺は、それに応じて料理しているのだ。……材料を買う途中で、ようやく今日がハロウィンであると気付いていたりする。

 あっさりリクエストを受けたものの、別に料理が趣味でもない俺がカボチャのパイの作り方なんて知るはずがない。そのため、材料を買う際に書店に寄り、料理本を軽く立ち読みしてから本番に臨む。どうせならその料理本を買えばよかったのかもしれないが、この先作るかわからないのにお菓子専門の料理本を買う気はしなかった。

(要所がわかっていれば、作るのは案外簡単なんだな)

 3回くらい面倒臭くなって、パイではなくスイートポテトもどきを作りそうになったが、数時間掛けて何とかパイが焼き上がった。創意工夫の精神がないため、見た目が地味で味も地味であろうシロモノだが、素人が作ったのだから十分だろう。まだオーブンから出したばかりなので粗熱を取る必要があるが、概ね完成とする。後はシズクやコルトピがこの部屋にやってくるのを待つだけだと思っていたその時、不意に誰かが部屋の中に入ってきた。

「あれ、マチ?」

 それはマチだった。彼女はどこから引っ張り出してきたのか、大きな黒い布を頭から羽織り、片手には草刈り用と思しき鎌を持っている。さらに何かを堪えるように俯いているので、はっきり言って、これから人殺しに行きますと言われても違和感がない。彼女の場合、殺人に武器は必要ないと知っているので、俺はこうして普通に応じていられるのだ。……まあ、応じられるだけで顔は思い切り引き攣りそうになったが。

 俺は俺と出くわすなりぴたりと静止して黙りこくったマチに、場をとりなそうとカボチャのパイを1つ切り分けた。まだ冷ましてはいないが食べられるので問題ない。

「マチもこれ、食べるか? まだ焼きあがったばかりだから熱いけど……」

「と……」

「と?」

 ようやく彼女が口にした単語の意味が分からず、俺は切り分けたパイを小皿に移しながら問い返す。するとマチは逡巡したものの、きっと決意したように顔を上げて叫んだ。

「Trick and Treat!」

「……ん?」

 一見すると、マチが入った言葉はハロウィンでの常套句だ。しかしよく聞いてみると、“or”の部分が“and”になっている。つまり「お菓子をくれても悪戯するぞ」? いやいやまさか「お菓子と悪戯をください」? とりあえずマチの異様な風体の理由が分かった。あれは死神の仮装のつもりか。

「……どっち?」

 俺はマチにそう尋ねた。お菓子なのか悪戯なのか分からない。マチは俺に問われると驚いたように(間違いに気付いていないのか、それとも問われるのが意外なのか)目を瞬かせた。

「どっちかなんてあるのかい?」

(え、つまり両方やれってか?)

 マチの言葉を俺はそう解釈した。お菓子も悪戯も両方くれと。なんだそれは、特に後者は俺に対する挑戦か?

 お菓子はカボチャのパイで良いとして、悪戯はどうすればいいのだろう。背後から「わっ!」と驚かせるのは無理だ。マチはその程度で驚くわけがないし、そもそも気付かれずに彼女の背後を取れるわけがない。ならばくすぐりはどうだろうか……いやいや触りどころを間違えばセクハラで殺される。こう、軽ーく何かないだろうか、マチを驚かせるものが。

「……はい、“お菓子”」

 俺は何気なくマチに小皿を渡した。マチは妙にむっつりとした顔になってそれを受け取る。何かしら言いたいことを我慢しているのだろうと思う。“仕事”が絡まなければ、彼女はこういう表情もする。

「このカボチャのパイ、結構力作なんだ。ほら、ここのところをよく見てくれよ」

 俺がパイを指さしながらそう言うと、マチは素直に手元のパイに視線を落とした。俺は彼女に“何の創意工夫もない”パイの説明をするフリをして、自然に顔を近づける。どうやら近くに寄っても嫌がられないらしい。その事実に面映いような気持ちになりながら、俺は――マチの耳にふっと息を吹きかけた。途端、マチは陸に打ち上げられた魚のように跳ね上がり、鎌を捨てて俺から距離を取った。

「こっちが“悪戯”ってことで」

「なっなっ何で悪戯までするんだい!?」

「マチが自分で言ったんじゃないか。“Trick and Treat!”って」

 そう指摘すると、マチは片耳を押さえたままぱくぱくと口を開け閉めした。気付いていなかったらしい。

 普段はクールなマチだが、それが崩れた彼女は可愛いと思う。凛とした彼女も好きだが、慌てるマチを割りと頻繁に見ている気がするので、つい自惚れたくなる。マチは俺のことを特別に想ってくれているのではないか、なんて。……いやまあ、彼女は俺に対してだけあからさまに態度が違うので、高確率で俺に好意を持っていると思う。ただそれが違った場合のダメージが痛いので、こうして予防線を張っているだけだ。

「マチ。俺からもTrick or Treat?」

 じとりとした目つきで俺を見上げていたマチは、その言葉に目を見開いて硬直した。言い返されるとは思っていなかったらしい。マチは慌てて懐を探るが、見つからなかったようで、そっと手にしていた小皿をこちらに差し出してきた。

「それ、俺があげたやつだよな」

 そう言うと、マチは焦ったような顔をして、皿を持つ手とは逆の手で鎌を拾い上げて差し出す。

「いや、そういう旅団的なTreat(もてなし)はちょっと」

 わざわざ推測する必要もなく、マチはお菓子を用意していなかったらしい。俺はこれ幸いとにこりとして、再び彼女に近づいた。

「お菓子がないなら……もう1度悪戯してもいい?」

 マチは頬を朱に染め上げたが、唸るだけで否定の言葉を吐かない。それを都合良く肯定だと解釈した俺は、更に距離を詰めた。とりあえず鎌が怖いので、それを持つ手に自分の手を重ねる。それでも振り払われない。……これはもう、いただいちゃってOKという合図だろうか。俺も男なので、下心を完全に切り離すことなどできない。

 俺の手で鎌を再び床に捨てることとなったマチは、せめてもの抵抗とばかりに俺を睨み上げた。殺気やらオーラといった凶器的なものが含まれていないので、全く怖くないし痛くもない。

「あんた……見た目に反してガツガツしてんだね」

「俺、草食系じゃないし。それより……悪戯は?」

「〜〜、好きにしな!」

 彼女らしく威勢の良い返事に満足した俺は、寄り添うほどの距離まで近付いた。マチは腰が引けているものの、宣言した手前か、逃げたり抵抗したりする様子はない。いただきます、と内心で考えながら、俺は彼女の耳元で口を開いた。

「じゃあ、好きにする」

 俺は“もう1度悪戯する”とは言ったが、“同じ悪戯をする”とは言ってない。どんな反応をしてくれるかなとワクワクしながら、俺はマチの耳朶に優しく噛み付いた。





 前回の短文のシャルナークを持ってくるならこんな会話してるような。

シャル「何でマチ相手にこんなでろ甘なの」
兄さん「好きな女の子にはべたべたしたいから」
シャル「ねえねえオレはー?」
兄さん「は?」
シャル「…………」

 好きな女の子以外だと、現代日本の仲良しな友達にしかべたべたしません。異世界の時点でハードルが恐ろしく高い。実はポタ兄さんのリドルさんが例外という快挙。
 マチの行動はパクノダ辺りの入れ知恵だと思います。



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