更新履歴・日記



トレーナー志望は可愛さに弱い +メインページに今までのゾルポケ兄さん格納
萌え 2021/12/20 22:48


・ゾル兄さん:ガラルのすがた。
・ドラメシヤちゃんとモノズちゃんを拾った直後の話
・キバナお兄さんがレクするドラゴンポケモンの育て方





 何と言うか、キバナと出会った頃の俺はポケモンを飼い始めたばかりで、ポケモンに関する情報の大部分はポケモン自身のジェスチャーや自己申告(ロトム)という、都市部に住まう割に文明を投げ捨ててる情弱クソ飼い主であった。どこの世界に犬猫自身に世話の仕方を説明させる飼い主がいるというのか。ここにいたよ俺だよ。いやもちろん、ポケモンたちは俺の知る犬猫より遥かにコミュニケーションを取れる生き物ではあるが。

 ドラゴンポケモンはポケモンの中でも育てにくい部類の最たるものに位置しているらしく、正しい知識と根気とその他諸々が必要になるとか。要は飼い主レベルド底辺の俺には手に余るドラメシヤとモノズをまとめて拾ってしまったわけだが、非常にツイていることに、キバナはドラゴンポケモン大好きドラゴンポケモン厨もといドラポケのことならこいつが大体知ってると言われるほどの知識と経験の持ち主だった。後から知ったのだが、キバナはドラゴンタイプジムのジムリーダーだから当たり前である。俺の中ではドラゴンタイプのトレーナーといえばワタルさん一択なのだが、まあ確かに顔面の圧の強さがドラゴンタイプっぽいと思わないでもない(こじつけ)。ちなみに、キバナのあだ名の一つは顔面600族らしい。要は顔が強い。

 キバナはまずは健康診断ということでポケモンセンターにドラメシヤとモノズを預けさせると、今更ながらの自己紹介を交わしてから、俺に拾ったポケモンの説明を始めた。この男、初対面だというのにやたら親切だ。今まで他人に騙されたことがないのだろうか。世の中、大抵のものは誰かしらが欲しがっているので、自分は大丈夫と思っていると痛い目を見る。俺も自分は大丈夫と思っていたクチだが、人体収集家と数名ほど会話した経験の後に考えを改めた。たまに俺の虹彩が珍しいと眼球を欲しがる奴がいて、笑顔でこちらを騙くらかして失明させようとしてくるのである。土の中雲の中あの子のスカートの中にポケモンはいるかもしれないが、少なくとも俺の頭に搭載されているのは眼球であってモンスターボールではないし非売品である。まあこれはポケモンマスターではなくゲテモンマスターの話だ。

 脱線した話を戻す。キバナの距離感バグってるのかと思ったが、そもそもガラルで出会った9割が親切な人である。残りの1割はいるかも分からないロケット団的なお約束悪の組織だろう(なおいなかった)。それに夜中に飛行ポケモン乗り回してワイルドエリアを徘徊している野郎が一般市民なわけないので(自分のことは除く)、親切心と俺の身元確認を兼ねているのかもしれない。後から本人に聞いたところ、親切心8割で身元確認が2割だったらしい。警戒心は仕事してくれ。

 夜中でもやっているポケモンセンターのロビーで、デカい男二人がソファーに並んで座るのは何とも居心地が悪い。しかし、キバナがスマホロトムの画面を見せてきたので、その気持ちはあっさり吹き飛んだ。

「ほら、こいつがドラパルト。ちっこいのが二匹一緒にいるだろ? そっちがドラメシヤだ。ドラメシヤはドラパルトやドロンチに面倒を見られて成長するパターンと、群れで育つパターンがある、この様子だと……ドラパルトとはぐれたタイプかもな」

 ドラメシヤは恨めしやと言いながらその辺を徘徊している古典的幽霊っぽいドラゴンポケモンだ。鎌状の両手は胸の高さに持ち上げた手のようだし、足はなくにょろりとした蛇のようだ。しかしマスクの下の口がアカン所まで裂けてる幽霊さんとか浮気にキレ散らかしてる幽霊さんとかと違い、顔面はデフォルメ爬虫類系で愛らしい。幼体というだけあってあどけなさを感じられる。ゴーストタイプ持ちとは言えど、ポケモンという時点で幽霊ではなく生き物であるし。ともかく、そんな浮かぶ子蛇のようなポケモンを二匹頭に収納しているのが最終進化形のドラパルトらしい。……カタパルトめいた名前と幼体収納機能的にいい予感がしない。そして予感は的中。ドラパルトはドラメシヤを撃ち出すし、ドラメシヤはそれを心待ちにしていることが判明した。ポケモンの気持ちと生態はよく分からない。ミミッキュが俺大好きだというのは伝わるのだが。

 何にせよ問題は、ドラメシヤが一匹でふらついていることは野生ではあり得ないことで、あり得るとすればそれははぐれてしまった個体だということだった。そういう場合、大抵は考えなしに野生に帰せば死んでしまうものである。

 一方のモノズは四つ足の恐竜っぽいオオトカゲで、ドラメシヤよりも分かりやすくドラゴンらしい。頭に生えている髪の毛のような体毛のせいで目元が見えない(元々見えてないらしい)ので、古のエロゲ主人公っぽいのだがそれは言ってはならない。そのモノズもキバナから見ると少々問題児らしい。キバナはスマホの画像を動画に変えた。

「モノズがここまで臆病な性格だと、野生でやってくのは難しい。せめて進化で力を付けさせないと、すぐに食われちまう」

 画面の中のモノズは、随分と元気に……だいぶ乱ぼ、いややんちゃに暴れ回っていた。周囲にあるものを手当たり次第に頭突きし、噛み付き、食べられると判断したものを飲み込んでいる。誤飲待ったなしの様子だが、これが普通らしい。しかし俺が見つけたモノズはキュンキュンと鳴きながらドラメシヤの尻尾を甘噛みしたりじゃれ付いたりする程度で、抱き上げた俺の手を噛んでも食い千切るほどではなかった。もしかすると、ドラメシヤと会う前に他の野生ポケモンに痛い目に遭わされたのかもしれない。あの情けなく鳴いてじゃれる様子を思い出せば、野生でやっていけそうもないのは間違いないだろう。弱肉強食と言ってしまえばそれまでだが、一度拾ってしまっているのだからこのまま野生に帰すのは気が引ける。仲間からはぐれたドラメシヤと臆病なモノズ。二匹揃って団子になっていたのはそれなりの理由と巡り会わせがあったということだ。

「ドラメシヤとモノズの性格と境遇が奇跡的に合ったんだろうよ。――で、だ」

 そこまで話すと、キバナは俺を見た。

「あのままあいつらを野生に帰すのは難しいわけだが、本気で引き取るのか?」

 垂れ目がちで愛嬌のある目つきだった青年が、不意に目の色を変えた。

「乗り掛かった舟だ。引き取るなら協力するぜ。ただし、途中下車なんざ認めねぇし、放り出すならただじゃおかねぇ」

 キバナの手から浮かんだスマホロトムがくるりと回転し、俺に目が付いた背面を向けた。意志を持つ板から、主人と同じような視線を感じる。

「あの二匹はそこまでバトルに向いてない。根気強く育てれば戦えるようになるだろうけどな。それでも引き取るか?」

 バトルするには手持ちがないからポケモンを探しているというのはキバナも知るところだ。その目的から考えると、ドラメシヤとモノズは即戦力にはならないし、バトル向きの性格とも言えないので育成も大変だろう。育てたところで、彼らがバトルをしたがらない可能性もある。

「別に無理するもんじゃねぇよ。オレが引き取ったっていい。オレは幸せにする自信があるからな」

(えっ何このイケメン)

 嫁でも取るのか言わんばかりのセリフである。プロの育て屋さんでもそうそう言わない決め台詞であろう。そういえば育て屋さんといえばポケモンの卵を孵化させたり世話したりしているのだろうが、忙しさがヤバそうである。孵化についてはさすがに自動孵卵器を使っているのだろうが、この世界は鳥だけではなく様々なポケモンの卵を扱う。当然ポケモンの種類によって温度や湿度、転卵時間など全て違うのだろうから、全て機械任せには出来なさそうだ。さらには生まれたポケモンの世話もしなければならないだろうし、計画性なしに片っ端から孵化させれば大変なことになる。多頭飼育崩壊という闇が深い単語すら思い浮かぶ。それに他人からポケモンを預かる都合上、好き嫌いも出来ない。犬系ポケモンは好きだけど虫系は苦手とか言っていられない。おまけに日中活発なポケモンと夜間活発なポケモンの両方がいるだろう。一年365日毎日毎日卵の世話にポケモンの餌やり掃除遊び相手接客以下略。余程の愛と人手がなければ発狂必至である。つまり育て屋さんは至高。異論は認めない。

 育て屋さんがスゲーことはさておき、キバナの問いかけはごもっともだ。今のところ俺にこの世界で永住する気がまるでないので、手持ちにするなら基本はお別れ前提である。ミミッキュは現状では何とも言えないが、ヒトモシやロトムについては、彼らの性格的に他の人への譲渡や野生へ帰すことに問題はないと考えている。しかしドラメシヤとモノズについては幼すぎて先が読めない。それこそ、引き取るならば俺の育て方に掛かってくる要素が強いと言える。安全マージンを取るならば、引き取らずにキバナに委ねることも一つの正解だろう。なし崩しで引き取ることにストップを掛けた時点で、この手のことに関してキバナは信用できると思われる。

 俺とキバナの間に沈黙が落ちたタイミングで、ジョーイさんとまるでぬいぐるみのようなグレーのポケモンが現れた。頭の両側にクロワッサンのようなツインテールがあり、どこかメイド服のような雰囲気の姿のポケモンは、優しげな様子でストレッチャーに乗ったドラメシヤとモノズをあやしている。ドラメシヤはモノズにひっつき、モノズは与えられたらしいピッピ人形を齧っていた。ジョーイさんの説明によると、どちらも健康状態には問題がないようだが、空腹で少し弱っているらしい。幼体用の流動食を与えていればじきに元気になると聞き安心した。

 俺とキバナがストレッチャーに近付くと、まず反応したのはドラメシヤだ。ドラメシヤは俺に気付くと、蛇のような下半身を俺の腕に絡みつかせた。よほど気に入ったのか、わざわざ俺の指を探し出すと咥えて吸ったりして甘えてくる。一方のモノズはピッピ人形を咥えたまま、まず俺の腹に頭突きする勢いで頭を擦り付けて甘えてくる。ドラメシヤの動きで俺に気付いたのだろう。その甘ったれな二匹の様子がまあ可愛くて仕方がない。俺の父性だか兄性だかを鷲掴みにされて即堕ちだった。お兄さん、二匹のチビたちを幸せにします。

 俺とチビたちの様子を見たキバナはニヤッと笑い、「まずは流動食の作り方からだな!」と言うのであった。



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