更新履歴・日記



誰も知らない
萌え 2021/11/15 19:52


・景光さん同居シリーズ
・麻衣兄さん視点





 ハロウィンのコスプレと言えば、渋谷と池袋がぱっと思い浮かぶ。個人的な印象ではあるが、池袋の方は“コスプレ慣れ”しているというか、コスプレイヤーがイベントに参加しているというイメージで、渋谷の方は幅広い層が寄り集まっているというイメージがある。敷居が低いのは渋谷の方だが、それだけにコスプレというよりただ騒いで楽しみたい類の者も集まってくるような感じだ。そういう場所に行きたいというクラスメイトの話を聞いて心配になったというのが、彼女たちのお誘いに乗った本当の理由であった。

 普段、アルバイト三昧で付き合いの悪い俺にいつも声を掛けてくれるだけあり、恵子、祐梨ちゃん、ミチルの三人娘は、性格はそれぞれ違えどとても優しくお行儀も良い。バイト後に渋谷駅で三人と落ち合った俺は、案の定渋谷の雰囲気に触れて腰が引けている彼女たちに内心で苦笑した。駅前にいるだけでも、和やかな雰囲気で楽しんでいるグループから、大声を上げて騒いでいるグループまで様々な集まりが目に入る。騒がしいグループの方が目に付きやすいせいか、私服姿の三人は困った顔で身を寄せ合っていた。真っ先に俺に気付いた恵子は、こちらに向けて手を振った。

「あ、麻衣! 見付かって良かったぁ」

「待たせてごめん。早く移動しようか」

 俺がそう言うと、三人ともほっとしたような顔をした。

 持参したコスプレに着替える場所はカラオケ店だ。事前に店員に確認し、更衣室で着替えても大丈夫と許可をもらってある。まずはそこで2時間程カラオケを楽しんでから、それぞれの衣装に着替えた。ちなみに、軽食もいくつか頼んできちんとカラオケ店にお金を落としている。

 恵子は魔女、祐梨ちゃんは黒猫、ミチルはシャーロックホームズの衣装である。ミチルだけ路線が違うのは、俺が競走馬とは言え明らかに怪盗キッド寄りのコスプレをすると聞いて合わせてくれたのだ。ちなみに恵子と祐梨ちゃんは魔女とその使い魔の黒猫なのでこちらもセットである。退店する際に店員が、店を出るなり馬とシルクハット(ひまわり付き)を被った俺を二度見したのは気のせいではあるまい。今の俺はキッドザサンフラワーちゃん、軽率に渋谷を(気持ちだけ)駆ける競走馬である。だがしかしミチル、何故シャーロックホームズが乗馬鞭のようなものを持っているのか分かりかねる。例え馬であろうと、鞭を前に自発的に尻を差し出すようなキッドザサンフラワーちゃんではない。というか馬の中の人の中の人である俺は立派な成人男性なので、それをやったら両手が後ろに回る。

 すると、乗馬鞭をチラチラと気にしている俺に気付いたミチルがニヤリとした。

「ふふふ、今日は麻衣のご主人様ね」

 ありがとうございますブヒー間違ったヒヒーン! じゃない、訂正する部分を盛大に間違った気がする。でもまあ、なんやかんやと言っても女の子の尻に敷かれるのは割と好きなので歓迎です。男の尻? 知るか肥溜めに落ちろ。

 ところで今更ながら弁解するが、わざわざ馬を被っているのはただのネタではない。変態対策である。大変に不愉快であるが今まで俺に絡んできた数々の変態共の傾向を鑑みるに、どうやら見た目が幼い顔立ちの文学少女っぽいのがアカンらしい。ちょっと手を出しても騒がれなさそうで、初心な反応をしてくれそうだったとか何とか(通報して締め上げた変態の証言)。実際は大声で騒がずとも秒で通報できるし、言葉で心を折るのも慣れてきたプロの被害者だが。過剰防衛判定されないギリギリを攻めていきたい所存であるが、あまりやらかすと唯さんに心配かけるのでそれなりに控えてはいる。

 ともかく、可愛いコスプレ女子高生三人組の中に一人馬が混ざっていたら声を掛けづらくなりそう、という要は虫よけ目的も兼ねている。いかなる変態やナンパ野郎でも、馬相手では足踏みをするのではなかろうか。なお、馬()に熱を上げるトレーナーさん達は考慮していない。彼らの興味の対象は競馬場か画面の中なので。そんな思惑が功を奏したのか、その後も妙な野郎に絡まれることはなかった。絡もうとしていた連中は、どいつもこいつも聳え立つ馬を二度見して踵を変えていた。ざまあみろヒヒーン。

 変に絡まれる心配が減ったので、残る俺の仕事は恵子たちの誘導である。彼女たちは少し怖がりながらも好奇心のままに歩き回るので、本当によろしくなさそうな場所を上手く避けるように誘導する。ヤバそうなところはちらほらあるが、純粋に仮装を楽しんでいる人たちも多いので、場所を間違えなければ問題はない。……怪盗キッド率がそこそこ高いのはさすがコナン世界といったところだろうか。競走馬とキッドの謎ハイブリッドは見当たらないが。

 ウインドウショッピングしつつあちこちを見て回り、渋谷駅の辺りに戻ってくると、若いカップルの会話が耳に入って来た。その二人の声は妙に耳によく届く。

「面白いけど、人が多いしなんかちょっと怖いね」

「だから言っただろ? 近所にしとけって」

 ちらりとそちらに視線をやると、高校生カップルが目に入った。

「青子には合わねぇよ」

「快斗の言う通りかも。キッドのコスプレが多いし」

(ほ、本物がいる……本物の怪盗キッドが彼女連れで江古田から出張してきてやがる……)

 嘘やろ工藤。いや工藤君関係ないけど。アルトリア顔ならぬ工藤顔以外は。

 視線の数メートル先で、怪盗キッドの中の人――黒羽快斗君とその幼馴染の女の子がイチャイチャ(はた目から見ると)していた。怪盗キッドが山手線に乗って渋谷に来るとか想像するだけでシュール過ぎて辛い。なおあの二人、ついカップル扱いしたが恐らくあれでまだ付き合っていないと思われる。早く結婚しとけ。

「いいじゃねぇか、怪盗キッド! カッコイイだろ?」

「お父さんみたいな刑事の方がカッコいいもん!」

 黒羽君は彼女(仮)の中森青子ちゃんと痴話喧嘩でお忙しいようなので、俺はそそくさと退散することにした。さすがに本家の前で馬の面を晒す勇気はないわ。黒羽君は既に気付いているかもしれないが、青子ちゃんに気付かれていなければセーフなはずだ。いや「馬かよ……」という呟きが聞こえたので黒羽君はマジで手遅れ。仕方がないのでシルクハットを脱いで胸元にあて、ご本家様に紳士的なご挨拶をしてみると、快斗君は急に「それよりあっちに行こうぜ」といきなり俺とは正反対に移動し始めた。どうやら馬キッド様は解釈違いだったらしい。気障な黒羽君に怪盗キッドザサンフラワーちゃんは向かないようだ。

 その後、俺たちは何事もなく無事に帰宅の途に就いた。家では唯さんがカボチャをふんだんに使った料理を作って待っててくれたので、有難くいただく。食事をしながら「怪盗キッドに会った」と報告すると、唯さんは「楽しそうで良かったな」とにこにこしていた。うん、コスプレキッド様じゃなくてガチの方だけどな。



+ + +



兄さん、初の接触でキッド様から避けられるの巻。
景光さんからは報連相しましょうねと口を酸っぱくして言われているので、報告だけはしている模様。



prev | next


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -