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チャレンジャーは若白髪ではない
萌え 2021/10/11 23:48


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・スパイクタウンの現地住民とお話しするだけ





 辿り着いたスパイクタウンは、今までの町とはなかなか雰囲気が違っていた。

(ヨークシンの繁華街から一歩外れた所みたいだな)

 平たく言えば治安悪そう。そもそも町の入口が大型シャッターで開閉できる作りの時点で、どこか物々しい。町全体が高い壁で覆われていることも関係しているのか、場所によっては昼間でも薄暗く、ネオンが輝いている看板があったりする。普通の人が歩いているかと思えば、赤と黒を身に纏ったロック風というのかパンク風というのか、そんな雰囲気の人が歩いていたりもする。後者については色とファッションが似通っているので、最早ユニフォームのようにすら見える。同じロックグループのファンだろうか。とはいえ、住人の顔つきを見るに殺伐とした場所ではなさそうだ。……未成年もチャレンジャーになり得るガラルリーグの舞台として、本気で治安の悪い町を選定するはずもないか。

(この街の名前はスパイクタウン……)

 スパイクといえば靴底やタイヤにつける滑り止めだ。他にも、いわゆる釘バットに刺されている釘もスパイクである。あるいは、ロック風・パンク風ファッションの一つとして用いられるあのトゲトゲなスタッズもスパイクだ。

(あぁ〜〜なるほどね。ガラ悪いっつーかロックを信望してるのか)

 納得はしたが、一見さんお断りの空気感がすごい。ス●モの住みやすい街ランキングで下の方にランクインしそう。少なくとも子育てには圧倒的に向いてなさそうである。見るからに靴底がベタベタしそうな空気と言えば分かってもらえるだろうか。いや、そう見えるだけで別に道はべた付いてないし、デザインセンスが突き抜けているだけで意外と清潔ではあるのだが(ただし場所によってはチラシっぽいものが落ちていたりする)。ロックがコンセプトというだけなのかもしれない。ロックという一神教を掲げる町というか何と言うか。

 そういえばイギリスといえばかの有名なザ・ビートルズやクイーン、ザ・ローリング・ストーンズを輩出した国でもあるので、その辺りから誕生した町なのかもしれない。

 それにしても、町全体が他の場所と比べるとどこか閑散とした印象を受ける。ところどころシャッターの下りた店があるのは閉店しているのか、あるいは夜間営業なのか。気にはなるが、一応目的であるジムチャレンジを達成するまでは夜遊びしないでおく。いや、いかがわしい意味ではなく。

 リーグ指定のホテルにチェックインした後、ふらっと町を散策してみるがどこもそんな感じだ。それどころか、スタジアム周辺が一番薄暗いというのが何とも言えない。男性の歌声がたまに聞こえるので、ポケモンのスタジアムというのかライブ会場というのか。なお、楽曲はロック系だった。どこか聞き覚えのある声なので、恐らくc.v.〇〇とかいうパターンだろう。なお、今更ではあるがキバナもそのクチである。あの人気出そうなイケメンにイケボ声優当ててこないわけないよな知ってる。どうせそのライバルであるダンデさんも同じだろ分かってる。

 ところで、道行くロック系の皆様(推定エール団)の俺に対する眼差しが妙に優しいのは何故だろうか。心当たりが無さ過ぎて居心地が悪い。俺は別にスパイクタウンに寄付したりした覚えはないのだが。首を傾げつつも、目に付いたレストランに足を延ばした。

 そのレストランは、地元のチェーン店といった風情のファミレスっぽい場所だった。各テーブルにはメニューと一緒に、ピンクっぽい赤と黒のPOPが揺れている。もちろん字は読めないが、その色の組み合わせがスパイクタウンジムのトレーナー集団・通称エール団関係のものであることくらいは分かった。俺のロトムがそんなことを言っていたので。多分、エール団関係のキャンペーンでもやっているのだろう。

 ファミレスのメニューのいいところは、写真と品名が一緒になっているものが多いことだ。語学苦手マンの俺にはとても注文しやすくて助かる。その点、マクワと一緒だと彼がメニューを読めるし美味しいものも知っているので、食べられるものの幅が広がって楽しい。まあ、いざとなればスマホロトム通訳に頼ればどうにでもなるのだが、通訳を挟まずささっと選べる方がストレスが少ないのは確かである。

 俺は備え付けのディップがやたらと幅広そうなフィッシュアンドチップスと、どうやらこの店舗限定らしい謎の赤黒色ドリンク、見た目スパイシーそうなローストチキンらしきものを注文してみた。“限定”に弱い日本人的特性ゆえか、文字は読めずとも限定を示す文字がどれかは何となく覚えてしまった。せっかく各地を巡るのだからご当地限定メシは重要である。

 赤と黒の二層に分かれた謎ドリンクは、美味いと不味いの紙一重をタップダンスしているような味だった。そのカオスな味を、いわゆるパチパチ飴と炭酸水が「どうでもよかろ」とばかりに持っていくようなドリンクである。油断して一気飲みすると喉が痛い奴だ。でもその攻撃力が好きな人もいるかもしれない。フィッシュアンドチップスはマスタードのパンチが効いていたし、ローストチキンもスパイスがビリッと来る。ここの住人は刺激的な味を好む人が多いのだろうか。キルクスタウンで温かく優しい味の煮込み料理を食べた後だとなおさらガツンと効く。癖はあるがそれなりに美味しかった。ただし口の中は刺激的で忙しい。

 追加で水を注文してから魚の揚げ物を齧っていると、ちょうど俺の背面にあるボックス席に座っていたロック系のお姉さんに声を掛けられた。

「お兄さん、イカしてんじゃん」

 かなり濃いメイクをしているので実際の顔立ちが分かりにくいが、好意的な笑顔を向けられたことくらいは分かる。とりあえず笑顔を返すと、彼女はちょいちょいと俺のテーブルを指さした。

「それ、狙って無いやつだったらアタシのと交換してくれない?」

 彼女が示しているのは、赤黒ドリンクについてきたキーホルダーだった。スカンクに似たポケモンの絵柄である。特に欲しいキーホルダーがあるわけでもないので交換と言わずに贈呈すると、彼女はその代わりにフライドポテトを一皿くれた。串切りにされたそれはホクホクしていて美味しい。

「ありがとね! これでネズさんの手持ちが揃ったよ!」

 どうやら彼女はスパイクタウンジムのジムリーダー・ネズさんのファンらしく、彼の手持ちポケモンのキーホルダーを揃えようとこの店に通っては色々と飲み食いしていたらしい。聞き覚えがあるぞ……そのオタク行動。かつての俺の先輩はコンセプトカフェに行っては胃袋の限界に挑んでいたからな。食い物系もさることながら、各種キャラのドリンク系も杯を重ねる必要があれば当然胃袋に深刻なダメージを与える。しかしカフェ限定キャラグッズはランダム配布ゆえ、推しが出るまでは注文するしかない。グッズのために出された料理を残すのはもってのほか、従って挑まざるを得ない胃袋の容量や腹の冷えとの戦いは大変だとか。オタクが試されるのは十分な財布の貯蔵だけではないのである。

 お姉さんはグッズの進呈でだいぶ気を許してくれたのか、俺がスパイクタウンに訪れるのが初めてだと分かると色々と教えてくれた。

「住みやすいか住みにくいかで言えば、住みやすいよ」

 住みにくそうという感想を持っていた俺に反して、お姉さんはそう答えた。

「この街、身内に優しいんだ。見た目はまあこんなだけれど。ご近所付き合いとか、都会よりもしっかりしてる」

 お姉さんはシュートシティという大都会からこの街に移住して来たらしい。動機がネズさんが好きだからというのがすごい。サンタクロース髭のご老人の「愛じゃよ、愛」という言葉が頭をよぎったが、俺は即座になかったことにした。

「住めば都って奴ね。お兄さんもどう? ロックが好きそうだし、馴染めるんじゃない?」

 まあ、ロックな髪型してますからね……。白黒なのは地毛だし、長髪なのはキキョウママたってのお願いだからですが。

「あなた、ネズさんのファンなんでしょう?」

「えっ」

 素っ頓狂な声を上げる俺に意外そうな顔をしながら、お姉さんが俺の頭を指さす。そういえばネズさんも白黒ヘアでしたね。道理でエール団の眼差しが優しかったわけだ。

「いやあの……これ、地毛です」

「えっ」

 あの、若白髪かわいそうみたいな目で見るのやめてもらっていいですか。若いのに苦労してるのねみたいな顔で自分の皿からウインナーを一本差し出さないでもらっていいですか。実家(暗殺一家)とか体質(異世界トリップ)的な意味で苦労はしているかもしれませんが。キルアと同じ銀髪カッコイイだろ!!(実際は白か黒かどちらか一色が良かった)

 その後しばらくお姉さんが優しかったのはとても悲しいのだが、それでもネズさんのコスプレ(と思しき衣装)をスマホロトムで見せつつ勧めてくるのもどうかと思う。俺、一部が銀髪なだけでネズさん程ハッキリ二分されたカラーリングではないです。え、スパイクタウンジムのユニフォームセットが似合うって? 確かにチャレンジャー用のクソダサユニフォームよりは……いやどうだろう。少なくとも、女性用のユニフォームはお腹が出ていて可愛いと思います。



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