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視聴者は想像する
萌え 2021/09/28 00:10


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・剣盾主人公双子視点(マサル・ユウリ)
・キルクスの入り江で兄さんがうろうろしていた頃





 マサルの双子の妹は、ルイという青年のファンだ。マサルとしては、幼馴染のホップの兄であるダンデの方がカッコイイと思うのだが、双子でも趣味は分かれるらしい。ちなみに母親はカブのファンで、父親はメロンのファン……と言おうとして母親に睨まれ、ネズのファンになっている。父親はネズの楽曲が好きらしいので、まるっきり嘘というわけでもないらしいが。なお、ホップは聞くまでもなく実の兄の大ファンだが、そのライバルのキバナも気になるとか。

「えーっ、そんなぁ」

「どうしたんだ?」

 リビングのソファに座って携帯ゲーム機で遊んでいると、隣で動画を見ていたユウリが残念そうな声を上げた。マサルが理由を尋ねると、彼女は子どもっぽく頬を膨らませる。

「ルイさんがキルクスの入り江動画を流さないって言ってるの。楽しみにしてたのに」

「なんだ、またルイさんの動画見てるのか」

「うん。ルイさんカッコイイし、内容も私たちが行くときに参考になるよね」

 毎年開かれるガラルリーグだが、そのジムチャレンジに参加できるチャレンジャーは誰でもなれるわけではない。大会運営委員会に実力を認められたトレーナーの推薦が必要になる。実のところ、マサルはその点については他のアマチュアトレーナーよりも有利だと思っている。何しろ、身近に現チャンピオンを兄に持つ幼馴染がいるのだ。あとはチャレンジャーに見合う実力をきっちりと身に付ければ、挑戦権を得られる可能性は低くない。

「そうだけどさぁ。マクワさんだってたまに動画上げてるじゃん。なのにルイさんばっか見てるよな」

「マクワさんのはホントにファン向けって感じだからちょっと違うの」

「ふーん」

 その辺りの違いはマサルにはよく分からないのだが、妹の目には違って見えるのだろう。

「……マサル、チャレンジャーの動画って見てないの?」

「見てなくはないけど、カブさんのバトル動画見ることが多いなぁ。オレ、最初の相棒はほのおタイプのポケモンが欲しいんだ。カッコイイじゃん」

 カブのバトルは熱くてカッコイイ。それはダンデのリザードンにも言えるが、ほのおタイプのポケモンは分かりやすく派手で強くてカッコイイので、男は大体好きだと思っている。

「うーん。それならわたしはルリナさんみたいなみずタイプの子がいいなぁ。すっごくキレイだもん」

 一方のユウリはみずタイプの方が好きだ。女の子はユウリのようにみずタイプやフェアリータイプのポケモンが好きな子が多い気がする。一度ユウリにそう言ってみたところ、タイプというより可愛いポケモンが好きな子が多いらしい。そういえばピカチュウやワンパチはでんきタイプだった。

「ホップはいいよなぁ。ウールーがいるし。ずるいよなぁ〜」

「マサル、しつこい。そうやって何度も言うから、ホップのウールーにたいあたりされるんだよ」

「あれは本気じゃなかったからいいんだ! フワフワの体でクッションみたいだったし!」

 しつこいと言われても、マサルはホップが羨ましい。ホップにはウールーという相棒がいつも一緒にいるのだ。マサルの家にも飼っているポケモンはいるが、ホップのウールーのような相棒と言える間柄ではない。ゴンベはマサルよりも母が作るご飯の方に興味があるのだから。少なくともホップのウールーは、自分の食欲よりホップを選ぶだろうと思う。マサルもそんな相棒が欲しい。マサルが足元にいるゴンベをジト目で見ると、ゴンベは眠そうに大あくびをした。

「それはともかくさ、入り江の越え方ならオレも興味あったなぁ」

「でしょ? でも、ルイさんが“スマホが水濡れしそうだからカット”って」

「……ロトムなら割と平気そうだけど」

 そもそもロトムが入る機種は耐水性完備のため、ちょっとした雨や水しぶき程度では何の影響も受けないものである。しかしマサルは知らなかった。ルイが野生の生きが良いロトムをスカウトし、媒体となるスマホを再安値で購入していたことを。当然、スペックはさほど高くない。スマホに入り込んだロトムの類まれなるバイタリティにより、スペック差がどうにかなっているだけである。そしてパケット通信料は犠牲になり、トレーナーの懐にダメージを与えている。当のトレーナーはこれをコラテラル・ダメージ(政治的にやむを得ない犠牲)として涙を堪えていたが、未来のあるチャンピオン候補にとっては知る必要もない些末事に過ぎないのであった。

「せっかく寒いところにいるなら、ユキメノコと会うルイさんが見たかったなぁ」

「ルイさんに死んで欲しいのか?」

「ルイさんなら死なないもん」

 ユキメノコは、人間の女性に近い形をしたメスしかいないポケモンだ。彼女たちは気に入った人間を氷漬けにして持ち帰る悪癖があるので、ルイと遭遇したら間違いなく凍らせに掛かってくるとマサルは確信している。何故かルイは平気なのではないかという奇妙な信頼感もあるが。何しろこの男、ネット上の一部では“立てばイケメン座れば天然、歩く姿はリザードン”などという謎の呼ばれ方をしているくらいだ。要は見た目と中身と行動が一致しないし、しれっとトレーナー本人が強い。そしてさらには何故か、ナックルシティのジムリーダー・キバナからSNSで「リザードンじゃなくてドラパルト」というどうでもいい訂正が入ったことにより、認知度が斜め上の上がり方をしている(それに対してはネット民から“どっちもキバナの手持ちじゃなくて草”とのツッコミが相次いでいる。キバナはジュラルドンのセクシーショットで対抗し、現場はカオスと化した)。なんかもう、そう簡単に世間から消えなさそうな男になりつつあるのだ。

「マサルー、ユウリー! そろそろご飯の時間よー」

「はーい!」

 母親の呼ぶ声で、マサルとユウリは顔を上げた。そんな二人よりも先に、ゴンベがこういう時だけ俊敏性を発揮してキッチンに飛び込んでいく。現金な奴だ。やはり相棒に選ぶならほのおタイプでかっこよくて、食欲に負けないポケモンがいい。

 なお、キルクスの入り江カット事件は、動画視聴者の間で様々な憶測を呼んだ。スマホを買い替える金もない説から手持ちに飛行ポケモンがいてそれでズルをした説(目撃情報がないのですぐに消えた)、実は水面を歩ける説、全裸で泳いで越えた説、ダダリン(ゴーストタイプのポケモン)がナンパしに来た説と、途中から大喜利の様相であった。少なくとも通常のイケメンの扱いをされていないことは火を見るよりも明らかであったため、どこぞの某マネージャーは枕を涙で濡らした。一方、ナックルシティのジムリーダーは大爆笑した後に自身も大喜利大会に参加し、正気を疑われた後に“ドラゴンストームはルイが好き過ぎ説”を打ち立てて物議を醸していた。……が、やはり将来のチャンピオン候補双子は知る由もなかったのである。





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なお、キバナについては後で真相をゾル兄さんの口から聞いて「そりゃ動画流せねぇわ……」と納得するまでがセット。そもそもキルクスの入り江ロッククライムチャレンジする奴はいないので、リーグ運営委員会でも禁止はされていない設定。規則に追加されたら確実にゾル兄さんのせい。

考えてみると、一人でも強い剣盾主人公(才能の塊)が二人がかりで数年後にホップの前に立ち塞がるという恐怖設定。ホップはただでさえ自分と主人公と兄貴との才能の差で思い悩んでいたので大変なことになりそう。頑張れ。


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