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ゾルディック四兄弟の楽しい語らい
萌え 2021/08/22 22:05


・ゾル兄さんの家族の話





 我が家の三男ことミルキ=ゾルディックはデブである。どう足掻いても言い逃れができないレベルのデブである。17歳で身長が182pというなかなかの高身長なのだが、体重が141sなので台無しだ。しかもこの情報は前世では全世界に拡散されている。何しろ漫画のキャラクターなので。つまり世界に名を轟かせるデブなのだ。ちなみにどうでもいいが、呼吸音は「コフー」である。馬鹿野郎、素顔の癖に某暗黒卿のような呼吸音を発するな。ミルキが身に付けているのは暗黒面のフォースではなく中性脂肪でしかないというのに。

 これだけボロクソ(地の文で)言っているが、俺とミルキの仲は良い。というより、逆に俺と仲の悪い家族はいない。それは単純に俺の家族大好きオーラが家族のみならず執事陣にまで伝わっているからだろうが、ミルキの場合はさらに趣味が合うということも加わる。奴はオタクである。ゲームやフィギュアを収集するタイプのオタクで、他に漫画やアニメも嗜む俺とは少々ジャンルが違うが重なる部分も多い。少なくともミルキが蒐集しているフィギュアの魅力を奴以外で一番理解しているのは俺だ。一度イルミがフィギュアをサバ折にしてミルキをギャン泣きさせた際には、イルミに懇々とフィギュアの素晴らしさを語って説教したことさえある(それ以来、イルミはフィギュアやゲームではなく本人を直接サバ折するようになった)。趣味の話が通じると楽しすぎるので、俺はミルキを大事にしているし、ミルキも俺には気軽に趣味の話を振ってくる。ある意味では家族の中で最も気安い仲と言えるだろう。

 しかしだ、そんな仲でも許せないことはある。ミルキのメタボ体質である。このままでは過食と運動不足からの糖尿病コンボを決めて早死に一直線と思われる弟に感じるところがないわけがない。俺は年若い弟の分厚い皮下脂肪にインスリンをぶち込む将来は御免である。それなのに、ゼノ爺ちゃんから「頭はいいのに馬鹿」と言われるだけあるミルキは、平然と俺の想いを無視したことを言い放つ。

「あーあ。兄貴はいいよなぁ、イケメンで。ハーレム主人公みたいなことできるんだろ」

「……ほぅ」

 これは最近異世界チーレムものにハマっているらしいミルキからの無神経なセリフである。執事から通販の荷物を受け取ってホクホク顔のミルキと、たまたま廊下で会った際の一言だ。これを聞き逃してやるほど俺の心は広くなかった。むしろデブ弟の健康管理については猫の額よりも激狭な心である。正直に言うと、恐らく家族で一番狭い。

 俺は部屋に引っ込もうとする弟の首根っこを掴み、にっこりと満面の笑顔を浮かべてみせた。ここに来てミルキはようやく自分がヤバい発言をしたと気付いたらしいが遅い。そういえば「いまさら遅い」はなろう系小説の流行りの一つだった気がする。

「お前も俺と同じ遺伝子持ってんだよ。イケメンでいいなぁ? 人のこと言う前に痩せろ」

 俺なんか元の中の人はフツメンである。それがゾルディックの遺伝子を貰ったお陰で見た目はクール系イケメンだ(ただしモテない)。ミルキもなんだかんだで目元がイルミと同じ形をしているので、痩せさえすればイケメンのはずである。そう、体重を二分の一くらいにすれば。

「ちょうどいい機会だ。その無駄な贅肉を削り落として我が家のイケメン遺伝子を証明してやろうじゃないか」

 俺がそう言うと、ミルキはポテチのカスが付いたむっちむちの頬を引き攣らせた。お、早速表情筋の運動か? いいぞもっとやれ。

「え、兄貴? 削るって嘘だよな? 冗談だよな?」

「物理で削りたいならイルミ呼んでくるぞ」

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 ミルキは途端に絹を裂くような悲鳴を上げた。お前はどこの生娘だ。すると、どこからともなくにゅっとイルミが顔を出した。

「呼んだ?」

「呼んでない!!」

 ミルキが全力で否定するが、俺はこの際イルミにもミルキのダイエットを伝えておこうと考えた。イルミはミルキを甘やかす性格ではないが、放置はする。ハイカロリーなお菓子を貪り食おうが、部屋にひたすら引きこもっていようがスルーし続ける。だがそんなことをしていてはそのうちミルキは自室から出られなくなるレベルで脂肪を蓄えることになるだろう。それでは困るのだ。

 俺はイルミに「今日からミルキにダイエットさせることにしたから」と本人の許可なく告げると、ミルキに向き直った。

「自分で燃やすか、人に削ってもらうか選べ」

「脂肪の話だよな!?」

「そういえば網焼きグリルで肉を焼くと、余分な脂肪が落ちるらしい」

「それ焼肉の話だよな? オレ関係ないよな?」

 関係ないといいな。なお、イルミはきちんと言い含めておかないと真面目に焼きかねないので注意が必要である。

 顔を熟れたトマトのように真っ赤にして騒ぎ立てるミルキの声にうんざりしたらしい。廊下の向こう側から今度はキルアが顔を出した。

「なぁ、うるさいんだけど」

 ちょうどいいとばかりに俺はキルアを手招きした。可愛くて素直な弟はひょこひょこと近寄ってきたので、俺はミルキの首根っこを掴む手と反対の手でその柔らかい銀髪を撫でた。

「キル。こいつの体重が3桁超えてたら牛でも豚でも好きに呼んでいいぞ」

「もう呼んでるよ」

「クッソこの野郎!」

 ミルキが不服そうに叫ぶが、お兄さんはお前の体重が不服である。

「その代わり、2桁を維持している間は人間扱いしてやりなさい」

「ちぇっ。仕方ないなぁ」

「兄貴!! この生意気なクソガキの曲がり切った根性は叩き直さないのかよ!?」

「お前はまず痩せて人権を確保することから始めなさい」

「鬼!!」

 俺を鬼にしたのはお前の堕落しきった生活態度で溜め込んだ脂肪である。いい加減に反省して欲しい。

 一方、いつもの真顔で話を聞いていたイルミが、当社比の朗らかな顔(表面上は変わらない)でしれっと告げた。

「お前も兄さんも殺人鬼だから大丈夫」

 いやそんなゾルディックジョークを飛ばされても(困惑)。見ろ、キルアがドン引きした顔でイルミを見ているじゃないか。つーかここにいる全員が殺人経験あるんだよ。さすがだなゾルディック嫌すぎる。

 何はともあれ、こうしてミルキは不定期に俺にケツを蹴られながらダイエットに勤しむこととなった。キルアはとてもイイ笑顔でミルキの部屋の前に体重計を設置してミルキに体重を測る努力をさせてくれたし、イルミもたまにミルキを部屋から引っ張り出すようになった。俺もミルキに、ポテチ一袋食うたびに青汁一杯を飲ませるようにしたところ、ほんの少しポテチの量が減ったので安心している。あくまで少しだけだが。最近は青汁をセンブリ茶に切り替えようかと考え中である。



+ + +



ゾル兄さんも最初は普通にミルキの体型を心配してそうですが、彼はどう考えても言って聞くような性格ではないので、最終的には実力行使になるのだろうなと思います。
141sもあればダイエット開始序盤でものすごく体重が減りそう。そして停滞期でリバウンドするに違いない。

きっと今までいろんな読者に言われるでしょうが、ミルキは痩せたらイケメンだと思います。イケメンじゃないはずがない。絶対イルミ似。


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