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チャレンジャーはド派手に爆発する
萌え 2021/08/16 23:44


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・キルクスタウンジムにチャレンジする話





 キルクスタウンジムのジムチャレンジはダウジングだった。……何を言っているのかよく分からないと思うが、俺もよく分からない。だが事実である。チャレンジャーはL字に折れ曲がった金属棒二本を持たされ、両手に構えさせたそれの反応を頼りにフィールド上に隠された落とし穴を回避しつつゴールを目指すのである。これ、トレーナースキルに必要か? なお、キルクスタウンジムはエスパータイプ専門ではなくこおりタイプ専門である。例のクソダサユニフォームに身を包んだ俺は、胡散臭さ爆発しているL字ロッドを渡されて途方に暮れた。え、マジでやるの???

 身長よりも高い壁に囲まれたスケートリンクのあちこちに岩のような氷が生えた見た目のフィールドのあちこちには、数人のジムトレーナーも待機している。落とし穴を避けつつ、対面したトレーナーと対戦して勝ち抜くのだ。トレーナーだけでいいじゃんと思うが、チャレンジャーたる俺に発言権などない。やるしかないのだ。試しに穴の淵に近付いてみると、手にしているダウジングロッドが振動した。恐らくはダウジングロッドにモーターか何かが仕込まれていて、穴の淵に設置されたセンサーに反応して振動するのだろう。さすがにトレーナーのエスパー力で振動する仕組みだったらどうしようもなかった。いやそうだとしたらガラルリーグ狭き門過ぎるだろ。このジムチャレンジで見られているのは注意力、だろうか。

(いやまあ……真面目にやればダウジングロッドなしで穴の場所分かるけどさ)

 自分の足音の反響を感じ分け、床の状態を探る――要は反響定位(エコーロケーション)の真似事をすればいい。落とし穴がある場所だけ氷が薄いのか、集中すれば足場の違いが分かる。足場のように取り繕っているのは表面だけらしく、空洞部分の反響を察するのは結構簡単だった。俺にとってはむしろ、ダウジングロッドが反応する前に穴を避けてしまうので、普通に歩くとカンペでも持っているかのような不自然さになってしまう方が問題だ。程々にダウジングロッドを反応させつつ道を選ぶのがやたらと面倒なので、チャレンジの意図を無視してショートカットしてしまいたい。トレーナーが立っている足場と氷の岩がある場所は確実に穴がないと分かっているので、そこを足場に連続ジャンプでも決めてしまえば攻略に一分もかからないだろう。もちろん、空気を読んでやらないが。

 俺は程々に道を考えるふりをしつつ進み、たまにトレーナーと戦い、あっさりゴールに到達した。





 ジムリーダーとのバトルはやはりスタジアムだ。大勢の観衆に見守られるというのは何度経験しても違和感があるが、こればかりは仕方がない。俺と正反対の出入り口からスタジアムに入場したのは、見覚えのある雪のようなカラーリングの女性だった。もちろん、メロンさんである。

 真っ白でタイトなワンピース仕様のユニフォームは体のラインを全く隠そうとしていないので、豊満なわがままボディがよく分かる。大変に素晴らしい仕様だが、彼女は友人のカーチャンである。万に一つでもいかがわしい目を向けてはならない。友人の母親ネタはエロ同人の鉄板だが、ガチでやるものではない。俺はただ、目の前に広がる豊饒の大地を誰にも知られないように崇めるだけである。

(それにしても素晴らしい胸部装甲だよな。今のところガラル一では?)

 ルリナさんやサイトウさんはどちらかというと美脚派である。特に後者は眩しいほどの健康美だ。いや、性別を問わないならシャイニング農夫のヤローさんもなかなかの筋肉装甲だったのが思い返される。胸囲だけで言えば彼こそガラル一に違いない。俺の胸筋もそこそこだが、元の骨格というか体格は如何ともし難い。なんなら体格の良さではキバナに負けるレベル……いや何を考えているんだ俺は。筋肉はどうでもいいんだ、そんなことよりおっぱ……違った、ポケモンバトルに集中しなければ。

 ガラルの征服王(意味深)は俺を見ると、ニンマリと笑って口を開いた。

「うちの息子が随分お世話になってるみたいだねぇ」

(アッあぁ〜〜これはどう見ても肝っ玉母ちゃん!!)

 そしてお節介属性持ちに違いない。俺は内心で膝から崩れ落ちた。キバナの言っていた「親子関係が微妙」の意味が薄っすらと理解できた気がする。このお母様に菓子折り持ってったらマクワ君激おこですわ。「恥ずかしいことするな!!」になるやつ。時間が解決しそうな気がするも、少なくとも今はその時ではないだろう。

「いえ……マクワさんとは仲良くさせていただいています」

 多分本人は嫌がるだろうなぁと思いながら、俺は大人の回答をした。思春期の奴は場合によっては恥ずかしすぎてキレるやり取りである。俺が苦笑しているのを見て何か察したのだろう、メロンさんは早々に会話を切り上げるとモンスターボールを取り出した。

「行っておいで、モスノウ!」

「シャンデラ、行こう」

 メロンさんが繰り出したのは一抱えもある巨大な……蛾である。雪国らしい真っ白な体色に首周りのモフモフした毛はなかなかに愛くるしい、が……それでも蛾である。現代日本に出没したら俺は悲鳴を上げて逃げる自信がある。むしタイプ全般に言えることだが、巨大な虫は駄目だろ……どう足掻いてもリアル巨大虫は可愛くないどころか恐怖の対象だ。想像してみて欲しい。自分の生活圏内に生息している虫たちが一抱えするほどの大きさに巨大化した姿を。泣くぞ俺は。ポケモン世界だから可愛さ割り増しの姿だが、現実でやられるとただのホラーだ。

 しかし、しかしだ。虫である以上、どうしようもない弱点がある。そう、火である。俺はシャンデラに指示を飛ばして火炎放射で燃やした。案の定、滅茶苦茶弱点だったのでとても可哀想な結果になった。そうか、これが4倍弱点という奴か。覚えておこう。巨大蛾(モスノウ)は炎にクッソ弱い。

 メロンさんの二体目は、ガラルヒヒダルマというガラル地方特有の進化を遂げたポケモンである。全身が真っ白で、雪が積もったサルのような見た目をしている。つまり見るからに火に弱そうであった。モスノウほどではないが弱かった。シャンデラの素早さとタイプ相性の良さのお陰で、相手に仕事をさせずにバトルを進められている。加えてまだレベル差があるので、リーグ初期のようなワンサイドゲームだ。

「まだまだ行くよ、コオリッポ!」

(……生きてる?)

 死んでるように見える。三体目のポケモンは、頭部を巨大なブロック氷に覆われているペンギンらしき生き物だった。野生で見かけたら普通に死亡判定すると思われる。どうやって息してるんだよ。分厚い氷で顔も見えなければ未来も見えない。氷から一本だけ飛び出た某波平さんのような毛が寂しすぎて毛根の未来も終わってる。やっぱり死んでそう。いや、ちゃんと羽も足も胸も動いているので生きているのは分かる。何故生きているのか分からないだけだ。ポケモンは本当に奥が深いというか深すぎてたまに深淵。俺の専門(にいつの間にかなっている)ゴーストタイプなんて闇の筆頭格だしな。†ゴーストタイプ†とか書くとすごく……アレです……。

 そんな闇深そうなペンギンだが、言うまでもないが燃やした。氷が溶けてコンパクトな頭部が現れたので、もう一度燃やした。身も蓋もなくて本当に申し訳ない。同じ戦法はつまらんとテオさんに詰られ済みではあるが、火炎放射ぶっぱするのが手っ取り早くてつい。ちなみに後から調べて知ったのだが、コオリッポの顔が氷に覆われている状態をアイスフェイス、氷が溶けている状態をナイスフェイスというらしい。中身のお顔はなんとも悩まし気な表情だったが、それはナイスなのか……そうか……。

 メロンさんが最後に繰り出したのはラプラスだ。見るからに穏やかで優し気な顔をした首長竜で、初代からいるポケモンなので俺もよく知っている。ラプラスは結構好きで、ゲーム内で手持ちにしていた時期もある。ついでに弱点も知っている。そしてシャンデラは弱点属性を突ける技を持っていた。そしてみずタイプのラプラスはほのお/ゴーストタイプのシャンデラの弱点属性を突けるので、極論を言うと先に殴った者勝ちとなる。加えてダイマックスしたポケモンの技は、元々覚えている技をベースにした大規模なものに変化する。ゴーストダイブならダイホロウ、火炎放射ならダイバーンといった具合だ。つまりは大技の撃ち合いになる=見せ場っぽくなる=テオさんに怒られない。俺はメロンさんとほぼ同じタイミングでシャンデラをダイマックスさせた。

「キョダイマックスを見せてあげる。辺り一面を凍てつかせるわよ」

 巨大化したラプラスが俺とシャンデラを見下ろす。巨大化した影響で随分と凶悪な顔つきになったが、巨体を取り囲む水と氷の粒が五線譜と音符を模っており、美しく煌めくそこだけは穏やかな神秘性を持っていた。しかしそれも、メロンさんの指示があれば一転して相手を穿つ弾丸になるだろう。

「うちの子があんたを氷点下の世界へ誘ってあげる」

 出す技は分かっている、とばかりにラプラスが上空を仰ぐ。スタジアム全体が急速に冷気を帯び、吐く息が白くなる。中空にキラキラとした粒が現れ出したのは、ダイアモンドダストの兆候だろうか。メロンさんがラプラスを振り仰いだ。

「キョダイセンリツ!」

「ダイソウゲン」

 俺の指示に、一瞬だけメロンさんが目を瞠る。それもそうだ。ほのお/ゴーストタイプのシャンデラがくさタイプの技を撃ってくるなんて想像していなかったのだろう。もちろん普通は覚えないが、わざマシンを使えば覚えさせられる。俺はシャンデラの弱点を突こうとするポケモン対策に覚えさせていたのだ。元の技はエナジーボール。シャドーボールのくさタイプ版みたいな技である。

 上空から巨大な氷塊が隕石のようにいくつも落ちてくる。地面から巨大な草花や茸が突き破る勢いで生い茂る。冬なんだか春なんだか分からない。真正面からのぶつかり合いでフィールド場がド派手に輝いた。降り注ぐ氷塊で空気が冷やされ、ラプラスの周囲に美しいオーロラカーテンがはためくのを、遠慮の欠片も情け容赦もなく下からわんさか生えてくる茸がぶち抜く。ガンガン降らしてガンガン生やす。ここまで来たら先に手を止めた方が負けである。俺はシャンデラにダイソウゲンを撃たせ続け、メロンさんはラプラスにキョダイセンリツを撃たせ続けた。キョダイマックスというのはダイマックスの上位版のようなものだ。メロンさんのラプラスはキョダイマックスしているので、通常個体よりも攻撃力・耐久力共に高い。だがレベル差もあるし、このまま砲撃戦を続ければギリギリで勝てるのではないかと思っていた、が。

 結果は相討ちだった。予想以上にラプラスの耐久力が高く、シャンデラが攻めきれなかったのだ。両者が同時に力尽きて大爆発を起こしたため、フィールドがとんでもなく荒れ狂った。自分の手持ちに爆発されたのは初めてだったので内心でギョッとしたが、爆風の中から現れたシャンデラはヘロヘロだったがきちんと原形を留めていたので、俺は早々にボールへ戻した。シャンデラは後で褒めまくらなければなるまい。

 最後は派手に相討ちだったものの、手持ちが残っているのは俺だけなので、勝者は俺になった。フィールドの中心でメロンさんと握手すると、彼女は豪快に笑った。

「あんた、やるじゃないか! 随分と強いシャンデラちゃんだねぇ」

 メロンさんのポケモンたちはほぼこおりタイプだが、実はただのこおりタイプではない……というのを、俺は後から知った。ヒヒダルマは体力が一定を下回るとタイプがこおりからこおり/ほのおに変わり、ほのおタイプの技を撃ってくるようになる。コオリッポの特性アイスフェイスは物理技を1回無効にする上、天候があられだとアイスフェイスが復活する。そしてラプラスはキョダイセンリツの副産物であるオーロラベールの効果で耐久力が非常に上がる。ラプラスを攻めきれなかった原因はそこだ。

 俺にジムバッジを手渡したメロンさんは、面白そうな顔をして告げた。

「まるでダンデみたいな育て方だわ」

(……マジ?)

 みんな大好きチャンピオンのダンデさんとはまさか、トレーナーガチ勢だろうか。

 ポケモントレーナーをやったことがある人なら、一度は考えたことがあるのではないか。ジムリーダー、手持ちのタイプ偏り過ぎ、と。様々なタイプを揃えてくるのは最後に立ちはだかるライバルくらいじゃね、と。タイプが偏りまくっていると対策も取られやすいと思うのだが、俺のシャンデラのような育て方をしているダンデさんのポケモンというのは、タイプの偏りがないのかもしれない。つまり対策がしにくいし、予想外の技を撃ってくるガチ勢。例えば、ほのお/ひこうタイプのリザードンが、自分の弱点を突くみずタイプポケモンを相手にかみなりパンチをぶっぱしてくるような。え、怖。自分がやるのはいいが他人がやって来るのは怖い。

(キバナお前、タイプ偏ってるのにダンデさんのライバルとかすごくね?)

 全く予想外の場所で友人の凄さを思い知ることになった俺は、愛想笑いを浮かべながらチャンピオンのヤバさに震えるのだった。



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エコーロケーションの真似事:バイオ4に出張させられたゾル兄さんもやってたスキルです。探るのが床限定なので、バイオ4の時より難易度は低いですが、そもそも一般人にそんなことはできるわけがない。



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