ポッキーじゃないゲームとノマ兄さん
萌え 2012/11/12 22:05
・どこかの部屋
・ポッキーゲームを書こうとしたらゲームしか残らなかった
・兄さんの名前は×××
俺は今、2択を迫られている。
目の前に居るのは金髪のイケメン高校生。金髪が地毛というジャポン人である。彼は腕組みした状態で静止し、こちらのリアクションをじっと待っている。彼に対してどのような言葉を差し出すのか、それが最大の問題だ。
俺が発言できるのはたった2つ。
1.あなたって、すごくカッコイイんだね!
2.それってカッコつけてるつもり? すごくダサいよ。
この2つだ。俺はこの選択肢から、イケメン高校生が喜ぶものを選ばなければならない。
俺は考えた。俺が言われて嬉しいのはどちらかと。すると答えは簡単にはじき出される。男だったら、可愛い女の子から言われて嬉しいのは当然1だ。これしかない。
俺は自信満々で1を選択した。すると目の前の彼は途端に秀麗な顔を歪める。
「媚びているつもりか? 浅ましい奴だな」
「うがああああっ! こんなの分かるかー!」
俺は画面の中のイケメンにイラッとして、思わず手にしていたコントローラーを放り出した。
「これで2が正解ってか? 罵られて好感度上がるって? アレか、お前はマゾなのか!?」
感情のまま罵倒すると、俺の隣に居たシズクがこてんと首を傾げた。
「なんだ。×××もだめなんだ」
「俺は悪くない。悪いのはこいつだ」
責任転嫁よろしく、ビシッと画面を指さす俺。何と情けないことか。するとその時、部屋のドアからシャルナークとフェイタンが顔を出した。シャルナークは俺とシズクを見て、それからテレビ画面を見て眉をひそめる。
「2人とも、何やってるの?」
「ドキドキ☆メモリアル」
すかさず答えるシズク。それはハンター世界で割りと有名どころのギャルゲーの名前だが、シズクは重要な単語を付け忘れている。俺は親切にもそれを補足した。
「ただしGirl's Sideだ」
「ホントに何やってるの。特に×××」
俺とシズクがやっていたのは、有名ギャルゲーの乙女ゲーバージョンである。要するに女の子になって攻略対象のイケメン共を蹴散ら……ではなく、落としていくゲームだ。俺はシズクに引っ張られてわざわざコントローラーを握っていた。
シャルナークのもっとも過ぎる指摘に、シズクは心底不思議そうな顔をして答えた。
「だって私がやると何故か“無神経だ”って言われるんだもん。だから×××にやってもらってるの」
「あー……」
どうやらシャルナークも俺と同じ事を考えたらしい。すなわち、“シズクなら仕方がない”。シズクが思うままに選択肢を選び、相手キャラの地雷を踏みまくるのが目に浮かぶ。
「えーっと、どれどれ」
シャルナークはひょいと俺の近くに放られたコントローラーを手に取ると、ポチポチとボタンを操作して、文章のバックログを呼び出した。何故手馴れているのだろうか。実はノベルゲームなどが趣味なのかもしれない。
「――で、×××も駄目だったんだ」
「こいつは同じ男として許せん」
「男視点で乙女ゲームをやってどうするの」
言われてみればこのゲームは女性向け。男視点でやっても上手く攻略できないのは当然かもしれない。ごもっともな意見に俺は黙り込んだ。
すると、今まで黙って成り行きを見ていたフェイタンが、ずかずかと部屋に入り込んで、シャルナークの手からコントローラーを掠め取った。
「ふん。この程度も篭絡できないなんて情けないよ。ワタシに貸すね」
「マジか」
思わずそんな言葉を漏らす。あらやだフェイタンさんたら男前。そんなわけでフェイタンによる乙女ゲー攻略が始まったのだが。
「…………このゲーム、不良品よ」
「は?」
「選択肢が足りない」
最初の選択肢で、突然フェイタンがそんなことを言い出した。意味が分からないものの、とりあえず聞き返すと、憮然としたフェイタンがコントローラーを放り出した。
「どうしてここに“跪かせて靴の裏を舐めさせる”ていう選択肢がないね」
「あるかそんなもん!!」
俺は思わず力の限り突っ込んだ。すぐにフェイタンにじろりと睨まれたので、俺は慌ててシャルナークを盾にする。ちょうどそのタイミングで、再び誰かが部屋を覗き込んだ。
「……揃って何をやっているんだ、お前達」
「あ、クロロじゃん。クロロもこっちに来なよ」
顔を出したクロロに、シャルナークが気軽に手招きした。大人しくこちらにやって来たクロロは、床に放られたゲームのパッケージと画面を見て、疑わしいような顔をした。
「……乙女ゲーム……?」
「シズクもフェイタンも×××もこいつが攻略できないらしいんだよね。クロロもやってみる?」
部屋にいるほぼ全員が攻略できないと聞いて興味が湧いたのか、クロロがコントローラーを手に取った。
「わあ。団長なら攻略してくれそうですよね」
シズクが興味津々な顔をして画面を見る。俺もそれに倣って、ゲーム画面を鑑賞した。
――だが。
「何だと……まさかここで好感度を下げてくるとは、なかなか奥が深い」
「いや単純に選択ミスだろ」
俺はつい癖で突っ込む。結局、クロロも攻略できなかった。それどころか、ことごとく好感度を落とす選択肢ばかりを選ぶ始末だった。相手キャラの好感度はシズクに続いてドン底である。
「クロロは考え過ぎだよ。たかが乙女ゲーに真剣すぎ」
シャルナークが的確なコメントをした。確かに、クロロは選択肢でいちいち深く考え込み、相手の裏をつこうとして、逆にドツボにはまっていた。本末転倒である。
「……シャルもやるよ。さきから1人だけ指図するだけね」
その時、フェイタンがじとりとした目をシャルナークに向けた。内容はごもっともだ。シャルナークだけがゲームに手を付けてない。フェイタンに便乗する形で、俺もシズクもクロロもシャルナークにプレイを強制した。するとシャルナークは「仕方ないなあ」ともったいぶりながら、コントローラーを手に取る。
――結果、シャルナークは見事にあの金髪イケメン高校生を好感度MAXのベストエンドで攻略したのだった。
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