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手にしたのはリベル・モンストロルム
萌え 2021/06/29 00:40


・拍手コメントの共通言語ニキにそそのかされた結果
・ポケモン剣盾にノマ兄さんを放り込んでみた





 今までに何度も(心の中で)主張してきたとは思うが、俺はインドア派である。海と山どっちがいいと聞かれたら自宅と答えるし、雨の日の外出は控え、晴れの日も外出を控えたいという、趣味の大半を自宅で網羅できる自宅愛好者だ。アウトドアに魅力を感じないでもないが、実際に手を出すには重すぎる腰をどうにかしなければならないというハードルが聳え立っている。つまるところ、いきなり草原に放り出されて「よーし、サバイバルだ!」と言えるような男ではない。少なくとも、某孤島での丸太最強説は俺には当てはまらない。そもそも一人で丸太を装備できない。いや草原に野生の丸太はないが。

 しかしながら同時に、俺は異世界渡航者プロ検定の有資格者でもある(かもしれない)。切り替えの早さと妥協の早さと順応性なら自信がある。そんなわけで、気付いたら普段着で推定異世界の草原に突っ立っていた俺ですどうもこんにちは家に帰りたい。そもそも日本の都会に草原なんてスペースねーよ。マイクラでもやってろ。

(ええっと……とりあえず方角はっと)

 幸いにも真昼間の草原だったため、俺は左手に巻いた腕時計を持ち上げた。あまりにも異世界に拉致られる率が高いので、時計はデジタル式ではなくアナログ式にしている(持ち物を持ち込めるとは限らないが、あるならあるで使える方が良い)。アナログ式だと、時刻が合っていることが前提にはなるが、方角を確認することが出来るのだ。とりあえずは時刻が合っていると信じて時計を水平にし、短針を太陽に向ける。短針と12時の中間点が南になるので、それで方角を知ることが出来る。だだっ広い草原でわざわざ方角を調べる理由は、可能な限り一直線に歩きたいからだ。人間は思っているよりも左右対称ではないというか、案外体が歪んでいる。そのため、真っすぐ歩いているつもりでもどんどんズレてくるものなのだ。目印になるものがない場所とはいえ、きちんと真っすぐ歩けていればいざ方角を変えたいときも無駄なく変えられるし、同じ場所をぐるぐる回っていたという悲惨な事態は避けられる。……という雑学がインドアの俺の頭に入っているのは、異世界に放り込まれ過ぎているためである。アウトドアに手を出さない割に、着々と増えていくサバイバル知識よ……。

(ここがサバンナみたいなヤベー所じゃないといいな)

 リアルガチなサバンナだったら、徒歩で移動とか死ぬしかない。肉食獣の胃袋に永久就職とか冗談ではない。俺は鋭い牙とお見合いなどしたくないのだ。せっかく免許があるのだから車を支給して欲しい。いや、異世界に対応した運転免許はさすがにないけれども。AT車ならぬI(異世界)T(対応)車免許とかあったら取得を考える今日この頃である。

 とりあえず東に向かって歩くことにする。理由はない。あるとしたら東洋人だからというアホみたいな理由である。俺が意識を目覚めさせた地点から周囲を見た限りでは、目立った建造物もなければ木も水場もない。少なくともそのどれかを見付けられなければ割と本気で詰む。建造物があれば人と会えるし、木に登れば地上の猛獣除けに、水場は水分の補給ができる。幸いにも高過ぎず低過ぎずという過ごしやすい気候だが、慣れない土地で補給もなしに長距離歩行なんてしてたら普通に倒れるし、下手すれば野生の獣に襲われて死ぬ。だから、草以外の何かを早急に見付けなければならない。

(……まあ、ちらほら何かは見えるけど)

 膝丈程度の高さに生い茂っている草の隙間から、何かの影が時折見えているのは分かっているが、近寄ろうとは思わない。それが人間に対して友好的な何かとは限らないし、敵対された場合のリスクがあまりにも高すぎる。幸いにもあちらから近寄ってくる様子はないので、スルーするのが一番だ。

 などと考えていたのだが、そうでもない奴がいたらしい。しばらく歩いていると、俺以外が立てる茂みの動く音がこちらに近付いてきた。姿がはっきりと見えないので、それほど大きい生き物ではないと思われるが、一直線にこちらへ向かってきているのが厄介だ。走って逃げようとすると刺激しそうだし、そもそも逃げ切れるほど体力に自信もなく、周囲に避難できそうな場所もない。いっそ迎え撃つのが一番マシだろうかと考えた俺は、近づいてくる何者かに振り向き、真正面から出迎えた。

 ……が、俺の警戒は杞憂に終わった。

 草むらの中から現れたのは、もちっとしたフォルムの黄色いコーギーだった。黄色い時点で普通の犬ではないのだが、どう見ても人懐っこそうなコーギーである。真ん丸な瞳に笑ったような口元、首周りのフワフワな体毛、短い手足、もっちりとした尻の何もかもが可愛いコーギーだ。コーギーは口を開けてへっへっと息をしながら、害意の欠片もなく俺を見上げた。

「あなた、こんなところで何をしているの?」

 不意に鼓膜を揺らしたのは、女性の声だ。少々お年を召した、お母さん世代のボイスである。俺は慌てて周囲を見回したが、傍に居るのは黄色いコーギーだけだ。俺は恐る恐るコーギーに話しかけてみた。会話できそうなら会話してみるのが一番である。

「……俺に話しかけてる?」

「あなた以外に誰がいるの」

 案の定、俺に話しかけていたのは目の前のコーギーだった。見た目に反してマダムだったらしい。おまけに親切そうだったので、俺は遠慮なく自分がひたすらに困っていることを白状してみた。すると彼女は「あらあら」と言いながら優しく話を聞いて同情してくれた。コーギーは熟女天使だったらしい。

 自分の身の上を話す中で彼女のことを聞いてみると、なんとポケモンだということが分かった。そっか……ポケモンの世界か……つまり野生のポケモンと遭遇したら死ぬな? ポケモンのバトル技とかまともに喰らったら死ぬぞ?

「人間はわたしたちのことをワンパチって呼んでいるわ」

 そう言って、ワンパチという種族の彼女はにへっと笑った。可愛い。コ―ギー可愛い。猫派だが犬も可愛いな。

「えーっと……じゃあ、君のことはパチ美ちゃんって呼んでいい?」

「うふふ、なぁにそれ。でも、いいわよ」

 快くOKしてくれた彼女は、人懐っこく短い尻尾をふるふると振った。可愛い。なんて可愛い熟女だ。

(ポケモンと話せるってことは、ポケモン不思議のダンジョン的なゲームの世界か?)

 プレイしたことはないが、いわゆるトルネコの大冒険や風来のシレンといった、ローグライク系ゲームである。ある日、ピカチュウになっていた主人公(元人間)が、ポケモンたちの島を舞台に冒険を繰り広げるストーリーだったはずだ。そうなると、俺もまたポケモンになってしまっているのかもしれない。そう思って自分の体を見下ろすが、見慣れた手足と衣服しか目に入らなかった。念のため自分の顔を触ってみるも、同じ状態である。ポケモンになっているとか、顔面だけポケモンとか、そういうことではないらしい。

(“人間は”って言うことは、パチ美ちゃんの行動範囲に人間が存在するってことじゃないかな)

 そう考えた俺は、迷惑を掛けられないと言える状況ではないため、恥を忍んで彼女に人里への道案内を頼んでみた。すると、そもそも俺に声を掛けてきた時点で世話焼き属性持ちと思われる彼女は、すんなりと了解してくれた。いやだから天使過ぎないかパチ美ちゃん。いい女過ぎて惚れる。旦那とまとめて貢ぎたい。いつか必ずこのお礼をしようと俺は心に決めた。

 なお、旦那さんはパルスワンという種族らしい。パチ美ちゃんが俺を送ってくれると決めた後、どうやら成り行きを見守っていたらしい彼が草むらからにゅっと現れたのだ。ワンパチの進化形らしく、すらっとした体型のイケメン大型犬だった。というか、パチ美ちゃんは口調が熟女だが案外若かったらしい。熟女っぽい若妻……属性が混乱する。ともかく、やっぱり喋れる旦那さんも、護衛として俺について来てくれることになった。なんだイケメンか。ポケモンの世界でも素敵な女の子はイケメンが攫っていくんだな……あれ、もしかして年の差婚?

 パチ美ちゃんと旦那さんは、俺を南西の方向へ導いた。俺が目指した方向は人里とは真逆だったらしい。なんて恐ろしい。道中、あちこちで見覚えがあったりなかったりするポケモンを見かけたが、たまに近づいて来てもちょっと会話しただけで攻撃はされなかった。ただ、デブなリスにはこれ見よがしに木の実を見せつけられたうえに目の前で食われたので、一瞬だけリス鍋にして食ってやろうかと思わざるを得なかった。なんだあのデブリス。リスなのに可愛いどころかウザい顔だった。あの膨らんだ頬袋を引っ叩いてやりたい。

 推定昼過ぎからひたすら歩き続け、途中休憩を挟みつつ(旦那さんが俺と奥さん用に木の実を調達してくれた。イケメンか)、夕方頃にはどこかの街に辿り着くことが出来た。川を越えた先にある高い塀に囲われた街は、文明を感じてほっとする。とはいえ、街に入る階段の手前で二匹が足を止めた時は少し寂しくなった。きっとこれでワンコご夫婦とはお別れなのだろう。一緒に居たいが、俺は彼女たちのトレーナーではないので無理な相談だ。

「ありがとう、パチ美ちゃん! 旦那さん!」

「どういたしまして!」

「もう迷子になるんじゃないぞ」

 お座りする美形ご夫婦に見送られ、俺は階段の手前に立っている青年に声を掛けた。西洋系の顔の若い青年は、まるで山岳探検隊のような格好をしていた。俺が通ってきた場所はそういう装備が必要なところなのだろう。現に、青年は俺というより俺の格好を見るとギョッとした顔になった。うん、非常識と言いたいんだろう。だが俺としては異世界に放り出されることが非常識であり、この普段着スタイルは俺の意思ではない。

「すみません、ちょっといいですか?」

 それはともかく、俺は青年に話しかけた。第一村人、いや街人である。頼む、いい人であってくれ。

 青年は俺の言葉を聞くと、さらに目を丸くした。

「■■■■■?」

「は?」

 聞き間違いだろうか、あるいは方言がヤバい地方なのだろうか。何を言っているか分からなかったので、思わず首を傾げる。青年も困ったような顔でさらに言葉を続けた。

「■■■? ■■、■■■■■?」

 これ、方言とか聞き間違いとかそういうレベルではない。根本的に言語が違う。ポケモンとはあんなに普通に会話できたのに。

「……えっ、マジ?」

 悲報:人間の言葉が分かりません。

 俺は耐え切れず、ぐるりと背後の二匹に振り向いた。

「ぱ、パチ美ちゃん、旦那さん助けて……」

「あらやだもぉ〜、どうしたのこの子ったらぁ!」

「むり……ほんとむり……」

「ああ、ホラ、俺たちがついているから泣くんじゃない」

「泣いてはいないけど心折れそう……」

 オカン属性とイケメンのワンコに慰められながら、俺は町の入口で途方に暮れたのだった。





+ + +





人間の言葉とポケモンの言葉が一緒なワケないんだよなぁ(にっこり)

ポケモンの言葉が分かるなら、人間の言葉は別にいらないよね? どの世界に行くときにも持たせている共通語理解って、あくまでその世界の共通言語一つに限定したスキルなので。

兄さんはキバ湖の瞳(湖の中の小島)スタートでなかったことを泣いて感謝すべき。いえ、真面目にそこスタートにしてオノノクスと鉢合わせるルートも考えましたけど。多分カンムリ雪原スタートよりマシ。
ガチでキバ湖の瞳スタートだったら、オノノクス(見た目に反して温厚)と一緒にしばらく兄さんが野生にかえると思われます。キバナさんがフライゴンに乗って遊びに来るのを祈れ。

ところで公式の癒されるポケモングッズが可愛すぎる。イラストも可愛いし、ワンパチの尻クッションとかズルい。



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