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チャレンジャーの幕間
萌え 2021/05/18 00:35


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・アラベスクタウンからキルクスタウンに移動する間





 アラベスクタウンのジムチャレンジが終われば、次はキルクスタウンだ。アラベスクタウンは行き止まりのような場所にあるので、ルミナスメイズの森を抜けてラテラルタウン、ナックルシティまで戻り、そこから北東に伸びる7番道路を抜ける必要がある。ラテラルタウンではオニオン君と少し遊び、ナックルシティでは今度こそ前もってキバナと会う約束をしてから俺は当日を迎えた。

「ルイ! ひっさしぶりだな!」

 適当に晩飯でも食いながら話そうぜ、という趣旨なので、いつぞやの提案のように歴史的価値の高い宝物庫で会うわけにもいかず、結局俺はキバナの家にお邪魔することになった。コンビニで目に付いた酒やつまみを購入して手土産に持っていくと、家で待ち構えていたキバナは手持ちのフライゴンと一緒に満面の笑みで迎えてくれた。バトル中でもなければ本当に懐っこい男である。

 高給取りであるのと、ドラゴンタイプの使い手であるため、キバナの家は一部屋一部屋が広い。彼の手持ちがあちこちで寛いでいるので、遠近感がおかしくなりそうなお宅である。案内されたリビングのテーブルには、見慣れたファストフードのハンバーガーやフィッシュアンドチップス、コーラや数種類の酒が置かれていた。ロースト肉に野菜が添えられたサンデーローストもなかなか美味しそうで、テーブルの傍では巨大蛇のサダイジャが「食べていい?」と言いたげな様子でソワソワとキバナと俺を見つめている。うっかり食べていいよと言いそうになるが、サダイジャはキバナの手持ちなので、食べるものはキバナの判断に依らねばならないため口を噤む。勝手に食べずに我慢して待っている辺り、とてもお行儀が良い子である。

 キバナはサダイジャの口にローストを一切れ放り込んでやると、俺に飯と酒を勧めた。俺も買ってきたコンビニの袋をキバナに差し出し、遠慮なくバーガーに手を伸ばす。行儀を気にせずかぶり付くと、懐かしのバンズとパティの味が口の中一杯に広がった。

「このジャンキーな味、帰って来たって感じがする」

「ナックルシティにもファストフード以外の美味い飯があるんだからな。そこは勘違いするなよ」

「分かってるって」

 スマホでたまに話す内容の何割かがご当地飯のせいか、キバナは俺がジムチャレンジの合間にグルメ三昧していることを知っている。……と思っていたら、他にも知っている理由があったらしい。

「いやー酷い奴だよなぁお前はさぁ。オレさまが気を遣って写真一つ撮らなかったっつーのに、いつの間にか誰かさんと仲良しツーショットしやがって」

 それはアラベスクタウンの小料理屋で、俺がマクワと一緒に写真を撮った件だろう。あの写真はマクワがしっかりとSNSに上げ、俺も無反応はいかんだろうとロトムに頼んで書き込んだ覚えがある。ロトム通訳によると、悪い評判は今のところ見られないらしい。俺はわざとらしく唇を尖らせるキバナの手に、ラガーの缶を押し付けた。

「あ、やっぱり気を遣ってくれてたのか」

「お前、騒がれんの得意そうじゃないし。それに知名度上げようとするほどモデルの仕事に執着してないだろ」

 さらっと核心を突かれてさすがに口ごもる。さすがはジムリーダー、人を見る目がある。

「……うわ。俺、そんなにやる気ないように見えた?」

「いや。やる気ねぇとか不真面目とかは全然だが、こう……欠けてはいるんだよな、ルリナとかと比べると」

 それはそうだ。いずれ元の世界に帰ると考えているので、ルリナさんのように本気でトレーナーとモデルの兼業に挑む人に比べると、そういった情熱には欠けてしまうのだろう。不真面目とは取られていないのは幸いだが、モデルとしては物足りなくて当然だ。だがキバナはあっさりと話題を変えた。

「ま、そんな話はいいんだよ。それよりオレと写真撮ろうぜ!! ……おいその顔すんなモデル」

「どんな顔だ」

「お前に声かけたスカウト10人中11人が自分の視力が下がったって思う顔だ」

「例えがなげーよ」

 とりあえず、キバナが俺がマクワと先に写真を撮ったことを根に持っていることは理解した。

 そんなわけで酒缶片手にむさくるしいツーショットを撮影する。しれっと何枚か撮影したキバナは、出来上がりを確認して首を傾げた。

「お前さ、オレさまに対する態度とマクワに対する態度が違い過ぎない?」

「マクワは紳士だから」

「オレさまもガラル紳士!!!」

 その辺りは自己申告制ではないので。

 確かにまあ、マクワと撮った俺と、キバナと撮った俺の印象は違うように見えるかもしれない。マクワの時は数十年ぶりの友達ショットに照れまくり、ファンサの神マクワさんの紳士プレイに口説かれながらの撮影だったので、それはもうらしくなく恥じらいすら見える仕上がりだった。見返すと乙女か??? と自分でも言いたくなる程度には恥ずかしい。一方のキバナとの撮影だが、真顔で酒飲んでる俺の肩を組んだキバナやら、俺に熱燗を持ってきてくれたバクガメスを挟んでのツーショットやら、なんというか方向性が根本的に違う。単純に男二人が宅飲みしてるだけの、需要がどこにあるか不明なお写真である。いや、キバナが写っているだけで需要はあるのかもしれないが。

「……つーかさ。ジムチャレンジの期間中にジムリーダーとチャレンジャーが酒盛りしてる写真上げるのはヤバくないか?」

 エールを飲みながらふと思いついた俺の言葉に、スマホロトムを操作するキバナの指が止まった。

「あっぶね。オレ、今まさにお前との写真をアップするところだったわ」

「アップしたら炎上するやつ」

「クソー。マクワとルイはチャレンジャー同士だからアリなんだよなぁ」

 なおこの男・キバナ。ジムリーダーの中では最もSNSが炎上しやすいらしい。自撮り好きが高じてSNS更新率が高いから、アンチの目に付く確率も高くなるのだろうか。だが、炎上してもどうにかするスキルもジムリーダー随一と思われる。

 結局写真はお蔵入りとなり、話題は先日のアラベスクタウンジムのことに移った。ポプラさんの接待クイズもといクイズバトルだが、あの年齢当てはキバナも喰らっていたらしい。

「オレは素直に八十だか七十幾つだかって答えてクソガキ扱いされたわ……」

「お前、すっごく元気よく馬鹿正直に答えてそう」

 キバナは世話焼き属性持ちだが、繊細なお気遣いさんというわけでもないので、そういうところがある。案の定、そうだったようだ。

「おう。元気に答えて“正解だよ小僧ォ!”って目ン玉見開かれてビビったぜ」

「ああ……あれ、クワッって見開かれるとビビるよな……怖すぎィ……」

 あのジブリ魔女顔面は迫力がありすぎて、正解と言われてもまるで褒められている気がしない。むしろ殺られそう。ハリポタ世界だったら寮点引かれて白いケナガイタチにされるやつ。つまりマルフォイは犠牲になる。いや俺マルフォイじゃないけど。

 それにしても、クイズバトルでの俺のことを聞いて爆笑すると思ったのに、キバナの反応が思ったよりも大人しい。何というか、キルア(弟)に近いものを感じる。キルアと同じように、いわゆる“ババア”が苦手なのかもしれない。ポプラさん自身の印象といえば、接待クイズの内容やリアクションを考えると、茶目っ気のあるおばあ様といったところであるが。なお、キルアのババア苦手属性と、俺のジジババに頭上がらない属性は似ているようで違うので注意が必要である。

「あれ、模範解答出来た奴いんの?」

「お前の前にバトルしてたマクワは、“女性の年齢を口にするなんて不躾な真似はできません”って答えて、“問題の意図とズレてるんだよ!”ってデバフ喰らってたわ。無回答に逃げるのはナシってことだな」

「容赦ねぇ」

 白か黒か好きな方を選んで死ねということか。マクワの紳士スキルが通用しないとは、アラベスクタウンジムの女傑怖すぎる。俺は恐怖をスコッチウイスキーで喉奥に流し込んだ。

「その点、ダンデはずりぃんだよなぁ」

「ダンデ? ああ、チャンピオンか」

 脳裏に浮かぶのは、白スパッツにスポンサーのご威光が眩しいチャンピオンマントを装備した、絶対的光属性の青年である。ダンデさんは名前より先に姿とチャンピオンという称号のセットで覚えた。見てもらえれば分かる。あれはすごい。オーラが違う。いや念能力者じゃないけど。何かが全身から迸っている。光魔法かっこいいポーズが本気で使えそうな圧倒的上位者だと思う。

「なんでお前そこで一瞬考えないとチャンピオンって出て来ねえの」

「ワイルドエリアで長年遊牧民をやっていてだな」

「信じそうになる嘘やめろ」

 信じそうになる時点で、キバナの俺に対する印象がだいぶワイルドエリア原住民臭いのだが。キバナ相手にはだいぶ好き勝手にやらかしている自覚はあるので仕方がない。なんだかんだ寛大で、面倒見が良いこの男が悪いのである。お陰で白ワインがすすむ。

「で、ダンデなんだが。あいつ、オレと同じように真正面から年齢答えたのに、普通に正解って言われただけで終わったんだぜ? おかしくないか?」

「これがチャンピオンの実力か……」

「オレのことディスるのやめようぜ」

 だがあり得る説ではないかと思う。キバナとダンデさんの人柄の差ではなかろうか、とジンを飲みながら俺は考えた。同じ光属性の陽キャでも、タイプが違うのである。

 さらに話題は変わり、今度はこれから俺が挑むキルクスタウンのジムリーダーの話になった。

「これからメロンさんとこ行くんだろ? 精々頑張って来いよ!」

「なんかやたらと嬉しそうだな」

「別にメロンさんに一発ぶちかまされて来いとか思ってないからな!」

「それ思ってる顔じゃねぇか!」

 どうやらキバナは、タイプ相性の悪さもあり、こおりタイプ専門のメロンさんにはなかなかボロクソにやられているらしい。メロンさんと言えばあのわがままボディの人妻だ。肝っ玉母ちゃんっぽいので、バトルはともかく、それ以外はキバナは手の平で転がされてそうである。俺としては、年上のお姉さまに転がしていただくのは大好きだが、カーチャンに転がされるのはちょっと違うんだよなぁ……。

「ついでのそのメロンさん、お前が仲良くしてたマクワのおふくろさんだから」

「え、マジか。菓子折り持ってけばいい?」

 あの紳士を育てたカーチャンと聞いたら黙ってはいられない。息子さんにお世話になっていますと手土産の一つでも持参した方が良いだろうか。ナックルシティに、ああいうご婦人に喜ばれそうな特産品はあっただろうか。そんなことを考えながらスタウトを飲んでいると、キバナが呆れたような目をして俺を見た。

「お前菓子折り持ったままジムチャレンジすんの?」

「いや、チャレンジ終わった後にスタッフに預けようかなと」

「マクワ今、メロンさんと微妙な感じだからそっとしておく方がいいかもしれないぞ」

「マジ?」

 あの肝っ玉母ちゃんと紳士息子の間に微妙な空気があるとは。手土産はやめた方が良いのか悩ましいところだ。すると我に返ったような顔をしたキバナが、俺の手元を指さした。

「つーかお前、それ何杯目?」

 シードルを飲んでいた俺は、へらっとして首を傾げた。ゾルディック家なだけにワクなもので、つい。





+ + +





ダンデさんのいつもの調子で「〇〇歳だと思う!!」と答えられたらはいそうですとしか言えないと思うんだ……。
逆にキバナさんの調子で「〇〇歳だろ!」と答えられたら「正解だよ小童が!」って威嚇されてもしょうがないと思うんだ……。

剣盾主人公のような子に「16歳!」って言われたらそりゃね、原作みたいな反応になるよね。嬉しくなっちゃうよね。
ゾル兄さんは剣盾主人公のような純粋さも、マダムを誑すスキルも足りなかったから甲斐性なしって怒られたんだよ……。



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