更新履歴・日記



チャレンジャーはご老人に弱い
萌え 2021/05/05 00:28


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ジムチャレンジ5つ目





 アラベスクスタジアムは、外観こそ他のスタジアムと同じだったが、内部には劇場型のバトルスペースが設けられていた。これはジムチャレンジ用のバトルスペースらしく、ジムリーダーのポプラさんとの戦いは他のスタジアムと同じような場所で行うことになる。まずは劇場型スペースの舞台上に立ち、数人のジムトレーナーとの連続バトルを勝ち抜くのがジムチャレンジであった。

 ジムチャレンジの最中、ジムリーダーのポプラさんはさながら舞台監督のごとく、採点表片手にチャレンジャーのバトルを眺めている。そのポプラさんは、御年80歳の大台を超えるご長寿トレーナーだ。細い体にぴったりとフィットしたピンクのロングワンピースはともかく、首周りを覆うふっさふさモフモフの紫色のファーといい、フリルが付いた杖代わりの傘といい、しっかりと塗られた紫のアイシャドウといい、何と言うか見た目の戦闘力が高い。二目と見られぬお顔とかお姿とか、そういう悪口を言っているのではない。目にした瞬間、記憶野の奥底まで叩きこまれそうな、大変印象的なお方と言いたいのである。平たく言うと。

(すごく……ジブリに居そうな婆さん……)

 40秒で支度しな、とか言いそう。鷲鼻の、というにはかなり特徴的な鼻がそんな感想を助長している。全体的な雰囲気がヘンゼルとグレーテルに登場する悪い魔女みたいな、あるいはジブリにお決まりの強い婆さん連中のような、要はそんな感じの老婆である。彼女にじーっと見つめられながらジムトレーナー(全員おばあ様だった)達と連戦するのは、どうにも据わりが悪い。悪かろうが何だろうが、顔には出さずにやり遂げたが。

 アラベスクタウンジムでのジムチャレンジは、クイズバトルだった。ジムトレーナーから出題される選択式のクイズに答え、正解すればチャレンジャー側の、外せばジムトレーナー側のポケモンが強化されるという不思議システムである。トレーナーに知識が必要とされるのは言うまでもない。これまでのジムチャレンジの中では分かりやすいテストと言えるだろう。……途中まではそう思っていた。

 少なくとも、最初の質問は理解できた。

「フェアリータイプの弱点は?」

 アラベスクタウンジムがフェアリータイプ専門ということに関わらず、タイプ相性はトレーナーとして基礎中の基礎知識なので、それはさすがに勉強している。どくタイプとはがねタイプだ。俺の手持ちのメインタイプであるゴーストとは、可もなく不可もなくといったところである。俺は何となく、ファンタジーっぽいもの(フェアリー)だから現実っぽいもの(はがね・どく)に弱いんだろう、という覚え方をしている。ちなみに、フェアリータイプが得意としている相手はかくとうタイプ、ドラゴンタイプ、あくタイプである。ドラゴンタイプに至っては、フェアリーの攻撃は滅茶苦茶効くのに、ドラゴンの攻撃は全く通らない。つまり、友人であるキバナ(ドラゴン推し)は格好のカモにされる。アラベスクタウンジムに挑戦することをスマホで報告した際のキバナが、やたらと渋い声で返事をしたのは、ボロクソに負けた経験があるからかもしれない。付け加えると、ゴーストタイプはエスパータイプをカモにできるし、かくとうタイプの技を無効化できるが、ノーマルタイプだと互いに技が通らないし、同業者(ゴースト)は互いの拳がよく効く。あくタイプに至っては、こちらの技の効きは微妙なのに、あちら側の技をとても効くので、相性はよろしくない。

 ともかく、最初は問われることも納得できるクイズ内容だった。しかし、二人目の対戦相手からクイズの雲行きが怪しくなってきたのである。

 二人目の背筋がピンシャンしたおばあさまは、魅惑のモフモフわたあめワンコ・ペロッパフを従えながら、高らかにクイズを出題して来た。

「わたしが毎朝欠かさず食べているメニューは?」

(知るか!!!!)

 グルコサミンとかコンドロイチンとか言ったらぶっ飛ばされるであろうことしか分からない。

 俺は悟った。これは単なるクイズバトルではない。接待クイズである、と。あからさまにプライベート臭いクイズが来たら、出題者を喜ばせる選択肢が正解だろう。多分。

(……どこの世界でも、ご老人には勝ててない気がする)

 ハンター世界のジジババは大体強いが、それに限らず俺は口で負けている気がしてならない。ご老人の戦闘力は腕力だけでなく語彙力とか年を積み重ねた威圧感だったりするのである。

 俺は選択肢の中から、割とオシャンティーそうなスムージーを選んでみた。不正解だった。ペロッパフのモフモフが、より一層モフモフになったような気がした。気のせいではなかったが、とりあえずレベル差でごり押した。優雅じゃない。ところでペロッパフの“うそなき”って技可愛いな? 手持ちにやられたら一発で引っかかりそうだ、俺が。

 三人目はどことなく見覚えのある小鬼っぽいポケモンを出され、ちょっと気まずい気持ちになった。俺が泣かせたベロバーの進化形であるギモーである。ギモーはまだまだ細っこい体つきのポケモンなので、戸愚呂弟レベルの筋肉ダルマポケモンにまで進化してくれないと、弱い者いじめな気分になってしまう。

 だが、俺があれこれと心配する意味はなかった。ドレインキッスをかまそうとしたギモーにブチギレたミミッキュが、怒りのタコ殴りを仕出かしたのである(“じゃれつく”という技に見えなくもなかったので、後付けでそういうことにした)。クイズを出す間もなかった。乙女の穢れなき唇(どこにあるか不明)を奪おうとする悪漢は制裁を受けて当然、と後にスマホロトムが通訳してくれた。ギモーとそのトレーナーにそんなつもりは一切なかったと思われるが、ミミッキュの乙女判定では完全なるアウトだったらしい。「ご主人ならいつでもしてくれてオッケーロト!」とロトムが余計な通訳までしてくれたので、俺は「検討しておきます」と後ろ向きな回答をしておいた。

 ちょっとした番狂わせ(?)があったものの、どうにかジムチャレンジを突破した俺は、いつものクソダサユニフォームに身を包んだままジムリーダー戦に挑むことになった。

 スタジアムの中央で向き合った時点でようやく名乗ってくれたポプラさんは、華奢な体躯に似合わない強烈な眼光を俺に向けてきた。

「あんたが相棒のポケモンにどんな振る舞いをさせるのか、あたしに見せてもらうよ」

 そう言って、頭から煙突が突き出しているマタドガス(ガラル地方特有の姿らしい)を繰り出したポプラさんに対し、俺はシャンデラを出した。基本的には、今までのジム戦でも使ってきたシャンデラかミミッキュで挑んでいくつもりで、必要と判断すれば他の手持ちも出す予定だ。あまり自分の手の内を知られたくないというのは、ゾルディックの暗殺者として教育された頃から強く叩きこまれた意識である。

 ……まあ、それはいい。そこは問題ではないのだ。問題なのは、クイズバトルがジムリーダー戦でも続いていたことだ。

「問題!」

 バトル中に高らかに叫ばれ、思わず肩が揺れそうになる。またかよ、と思っていると、ポプラさんが直々にクイズを出題した。

「あんた、あたしのあだ名は知っているかい?」

(……ネットに書いてあったな。あれか)

 ファンタスティックシアター。それがポプラさんのキャッチコピーである。

 そもそも、ガラル地方のジムリーダー達には、恐らくマスメディアが名付けたと思しきキャッチコピーがある。キバナはドラゴンストーム、サイトウさんはガラル空手の申し子、ヤローさんはファイティングファーマー、ルリナさんはレイジングウェイブ、カブさんはいつまでも燃える男、といった具合だ。キャッチコピーはそれぞれのバトルスタイルを表しているので、ジムリーダー戦前の情報収集にもなる。ポプラさんのものは、それだけではエスパータイプとも混同しそうだが、彼女独自のポケモンの能力を上下させるクイズバトルがキャッチコピーの元の一つになっているのかもしれない。

 というわけで、第一問については難なく正解したお陰で、シャンデラは有効なバフを受けられた。元から素早さは上げていたが、より素早くなったのだ。そこまでは良かった。そこからが地獄だった。

「問題! あたしの好きな色は?」

「ピンク」

「パープルだよ!」

(知るかァァァ!!)

 全身ピンクに包んでいるからピンクだと思っていたのに、パープルだったらしい。そんなフェイントこっちに分かるか。これは知識じゃなくて空気読みバトルじゃねぇか。不正解だったのでシャンデラがデバフを喰らってしまった。どうやら防御力ががくっと下がったらしいが、当たらなければどうということはない戦法(いつもの)で、ぱっと見ポニーテールの小さな女の子のようなクチート戦を乗り切った。もしかすると、最初の問題でミスしていたら素早さが下げられていたかもしれないので、そうならなかったのは不幸中の幸いである。

 三体目はトゲキッスだった。アニメでよく見た覚えのある、二足歩行の卵のトゲピーが進化した姿である。タマゴにたてがみと翼が生えたような姿だが、可愛らしいと言って差支えのない姿だ。一匹目のマタドガスが強面過ぎるが、基本的にフェアリータイプのポケモンの外見は、ファンシーで可愛らしいのだろう。さてどうやって仕留めるか考えていると、恐怖の三問目が飛んできた。

「問題! あたしの年齢は?」

(やめろよ男にそういうこと聞くの!!)

 おまけに、提示された選択肢は「86歳」と「16歳」である。どうしてそういう人間性を問われるような選択肢にするのか。16歳の女の子が悪い魔法に掛けられて86歳の老婆に変身しているオチでもあるのだろうか。あるわけないよな知ってる。86歳を選ぼうが16歳を選ぼうが角が立つ未来しか浮かばない。酷い問題と選択死(誤字ではない)に、俺は自称鉄壁の笑顔が崩れそうになった。ゾルディックでなければダメだった。

「じゅ、16歳……?」

 俺は困った時の常套手段、人が好さそうな苦笑を浮かべてゴマを擦ってみることにした。すると、ポプラさんはクワッと目を見開いて叫んだ。

「もっと自然に答えな! まったく、甲斐性がないねぇ!」

(怒られた!)

 目の前にいたら傘で尻を叩かれていそうな剣幕である。推定ジジババに弱いと思しき俺は内心で飛び上がった。ゾルディックでなければリアルに飛び上がっていた。泣くかと思った。だが俺のポケモンが強化されたので、回答としては正解なのだろう。そんなのアリかよ。ちょっとジムリーダー権限強引過ぎないか?

 なお、ラストのポケモンはマホイップで、キョダイマックスにより超巨大ウエディングケーキと化した。ミミッキュが張り切ってケーキ入刀してくれたのでどうにか勝てたが、何となく勝った気がしないジムバトルだった。



+++



なお、キバナ(クイズバトル経験済み)は腹を抱えて爆笑している模様。


prev | next


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -