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チャレンジャーは森を満喫する
萌え 2021/03/15 22:25


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ルミナスメイズの森





 ルミナスメイズの森は深く、太陽の光が差さない場所もある。だが、辺りの至るところに光るキノコが生えているため、全くの暗闇ではない。多少の光源があれば、夜目の利く俺が踏破するのに大した障害はない環境だ。ちなみに、初代ポケモンのイワヤマトンネルは、手持ちポケモンにフラッシュを覚えさせないとマップが全く見えない仕様だった。あのレベルだと恐らく光源が全く存在しない場所と思われるので、俺でも周囲を見渡すことはできない。え、当時の俺の攻略法? 手持ちポケモンにひでんマシンでフラッシュ覚えさせるのが嫌で強行突破しましたが何か? いやだって、ひでんマシンで覚えさせた技って忘れさせられないシステムだったんだよ……。

 森の中の光るキノコは、常に光っているものと、触れられた刺激を受けて一定時間光るものの二種類がある。一般的な視力の人は、適宜キノコに触れて光らせることで道を照らし出し、迷わないようにする必要があるだろう。常に光っているキノコは人間の身長以上のものもあり、触れれば光るキノコも人間の頭より大きいので、見分けはつきやすい。逆に、それ以外のキノコには触れない方が無難である。この世界のキノコ事情はよく分からないが、世の中には触れるだけで皮膚が爛れる毒キノコも存在するのだ。……ゾルディック家の息子たる俺にとっては、体を慣らすために毒の摂取は推奨すべきことなので、こそっとキノコを採取している。ハンター世界ではないので、お手軽に毒を入手できる伝手がない故の行動だ。光るキノコも、山道から少し外れた場所なら迷惑はさほどかからないだろうと思って失敬させていただいた。毒はなかったが、かび臭いタイヤの味がしたのでもう食べたくない。ちなみに、ガラルほど大きくはないが、光るキノコは現代日本にも存在している。特に八丈島に多く生息しているので、気になる人は見てみて欲しい。

 見かけたキノコを片っ端から採取し、山道から外れた場所で火を熾す。あまりカラッとした場所ではないので火熾しには向いていないが、この旅に出る前にファイヤースターターを購入しているので問題はない。メタルマッチとも呼ばれるそれは、金属製の棒と火打石の役割をする道具がセットになっており、環境に左右されずに簡単に火を点けられるという文明の利器である。普段の俺はナイフ一本で発火できるのだが、この世界に来た時の俺は武器を何一つ持っていなかったので、便利な念能力がほぼ使えない状態なのだ。馴染みの武器がないと無力化されるのが、操作系念能力者の悲しい宿命だ。

「あ」

 焼いたキノコをもしゃもしゃと食んでいると、木の陰にいたデカいピンク色のキノコに逃げられた。どうやらマシェードというポケモンだったらしい。恐らく俺を見て身の危険を感じたのだろう。うんまあ、人目を忍んでいるとはいえ、遠慮なくキノコ食べ過ぎだよな。きっとマシェードの目から見た俺は、とんでもねぇ蛮族だったに違いない。蛮族じゃなくて教師兼暗殺者です。違った今はモデルだった。俺の職歴が安定しなくて困る。

 舌の上がピリピリするキノコを食べていると、今度は頭の上から視線を感じたので顔を上げた。見上げると、木の枝の上から猿っぽいポケモンがこちらを見ている。欲しいのだろうかと思って齧り痕のついたキノコを差し出してみると、毛を逆立てて後ずさりされた。そっか……現地人ならぬ現地ポケモンも食べないキノコか……。試しに特に旨味が強かった他のキノコを差し出すと、猿ポケモンは完全にビビった様子で逃げ去った。だよな。これ、食べ方によっては後に引く毒キノコだったし。懐かしくも嬉しくない実家の味である。実家でゼノじいちゃんとキノコの煮物を囲んで酒を飲んだのは思い出の一つだ……いいかどうかは置いておいて。

 今まで怠らざるを得なかった耐毒訓練ついでの軽食を済ませた俺は、山道に戻ってのんびりと歩く。キノコをつついて光らせるのが何となく面白いので、たまに思い出したようにつつきながら先を進む。森に入る前に、オニオン君から「光るキノコの影にポケモンが隠れていて、光らせた途端に飛び掛かってくることもある」と教えてくれた通り、キノコによってはその傍に生き物の気配があるものもあった。別に飛び掛かられても避けるなり首根っこを掴んでしまえばいいのだが、そもそも近寄らないのが一番簡単なので、つつくキノコは選んでいる。だが、そんな俺の態度が気に喰わなかったのか、途中からポケモンがキノコに隠れている率が高くなってきた。俺も段々それが面白くなってきたので、隠れているものの隣に生えているキノコをつついたり、つつく振りをしてやめたりと遊びを入れ始めた。

「……おっと急にあっちのキノコをつつきたくなってきたな〜」

「ひぃひー!」

 いや返事すんなよ。モロバレだろ。

 どうせ暗くて見えないだろうと高をくくっているのか、俺の目の前を小鬼のような小柄なポケモンが走って横切る。確か、ベロバーというある意味分かりやすい名前のポケモンだったか。俺が目を向けた“あっちのキノコ”にわざわざ隠れ直した辺り、よほど俺を驚かせたいらしい。俺は小鬼がしっかりポジションを確保したのを見届けて、彼(?)が元々隠れていたキノコを「やっぱりやめた」と言ってつついて光らせた。「ひぃー!」と抗議する様な鳴き声が飛んできたので、悔しかったのだろう。

 その後、キノコのみならず張り出した木の根の影や、茂みの中にまで隠れ始めたのを、俺は難なく避けて通った。終いには目的を忘れて飛び掛かってきたのだが、もちろんさらっと避ける。避けられたベロバーはその場で地団太を踏み始めたので、ちょっと可哀想になって来た。

 そんな時だった。視線を感じて顔を向けると、巨木の影から戸愚呂弟みたいなポケモンが俺を見ていた。知らない人は戸愚呂弟でググってみて欲しい。俺より低い身長だが、そんな筋肉の塊がこっちを見ていたらさすがにビビるわ。耳の形状が何となくベロバーと似ていなくもないそのポケモンは、何とも言えない眼差しで俺を見つめている。俺は何となく察した。引っかかってやれということですね分かります。

 豪腕そうな保護者(仮)の眼差しに負けた俺は、推定半泣きでキノコにいそいそと隠れたベロバーを見届けてから、そのキノコをつついた。すると、隠れていたキノコが光ったのをびっくりした様子で見上げたベロバーは、ぱあっと顔を輝かせて俺に飛び掛かって来た。とりあえず抱き留めてやると、ベロバーは細っこい腕で俺の胸板をぺしぺしと叩いたので、そのまま頭上に持ち上げてくるくる回ってみる。

「すごいなーびっくりしたなー。まさかこんなところに隠れているなんてなー」

「ひぃひひー!」

 自慢げに雄たけびを上げたベロバーを地面に下ろしてやると、ふんすと鼻息を荒くして胸を張った彼は意気揚々と森の奥に消えていった。あからさまな棒読みでもご満足いただけたらしい。それを眺めていた豪腕保護者も、「やれやれ」と言いたげな様子で姿を消した。お子さん(仮)を泣かすほどからかってすみませんでした。

 その後は何事もなく森を踏破でき――嘘です何事もあった。

 切株みたいな頭のポケモンが、人間の子どものような笑い声を上げながらフラフラしているのを眺めていたら、背後からその親玉みたいな樹木のポケモンに襲われた。ファンタジーならトレントとか呼ばれていそうなポケモン・オーロットが、俺を取り込もうと根っこを伸ばしてきたのである。いや……俺に対してエロ同人の苗床ENDみたいなことされても……。ちなみに、伸びてきた根っこを手で引っ叩いたら怯んで退散していった。軟弱者め。

 それから、欠けたティーカップとポットの群れがやたらと寄って来た。もちろんポケモンだ。コーヒーじゃなくて紅茶な辺りがとてもイギリスである。ただし、ポケモン本体と思しきティー部分がとっても紫色で、ヤバい気配しかしない。紫色の紅茶と言えばバタフライピーが有名だが、見た目が深い紫色のスライムの時点で食用ではない。彼らはこれからティーパーティーでもするのか、俺に「寄ってきません?」と言いたげな仕草で入れ替わり立ち代わりアピールしてきたが、丁重にお断りしておいた。彼らとは森の出口でお別れしたのだが、たまたまそれを目撃した第一村人に二度見されたので、普通はあり得ない光景なのかもしれない。

 森を抜けた後に冷静に思い返してみたら、ベロバー以外で俺に寄ってきたのは全部ゴーストタイプのポケモンだった。やっぱりな!!





+ + +





なお、ベロバーは驚かせた相手のマイナスエネルギーを食べているので、ゾル兄さんにそれがなかったことに後から気付いてやっぱり悔しがる。
ゾル兄さん以外だと、オニオン君もヤバチャとポットデスのティーパーティーに誘われそうですが、行ったら駄目なやつだと思います。
ゾル兄さんがゼノじいちゃんと酒飲みながら食べたキノコが何か分かったらすごい。一応正解はあるんだよなぁ(白目)



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