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チャレンジャーは再会する
萌え 2021/02/24 01:06


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ジムチャレンジ4つ目(はさらっと流される)





 サイトウちゃん、もといサイトウさんが待ち構えているラテラルタウンは、岩場が剥き出しになった遺跡の町だった。様々な物が売られている露天街があり、異国情緒あふれる場所だ。経路は、エンジンシティからワイルドエリアを通ってナックルシティを経由し、そこから6番道路を使って向かう形になる。ナックルシティに寄るのでキバナに会っていこうかと思ったが、今はガラルリーグ期間中なのでキバナは忙しい上に、俺はチャレンジャーとして少しずつ行動が注目されるようになってきている。対戦前にジムリーダーとチャレンジャーが個人的に会うのを見られたら、キバナの足を引っ張りそうだと思ったので控えることにした。……ということで、誘いを入れてきたキバナのメールにお断りを返しておいたのだが、俺がナックルシティを通過した後に「宝物庫を見学する名目で会いにくればいいじゃねーか!」と返信が来ていた。そういえば彼はジムリーダー職以外にも、ガラル地方の伝説について書かれた資料を保管する通称宝物庫の管理を担っていた。なるほど、そこなら多少の融通は利いたのかもしれない……が、通過後なので後の祭りである。なお、順調に勝ち進めば、この後ナックルシティに立ち寄るのは、5番目のジムチャレンジ後になる。その時になったらまた考えよう。

 ジムミッションはなんというか、独特だった。結論から言うと、コーヒーカップを一人で回してアスレチックを攻略する成人男性という、一体誰向けなのか分からない映像が記録されてしまった。キバナが見たら腹を抱えて笑っていそうだ。想像したら腹が立ったので、今度キバナのチャレンジャー時代の動画をロトムに探させようと思う。面白チャレンジ動画があったら盛大に笑い返してやろう。

 サイトウさんとのバトル自体は、あまり苦戦はしなかった。依然としてレベル差があることと、何よりゴーストタイプとかくとうタイプの相性が悪すぎることが原因である。かくとうタイプとノーマルタイプの技は、ゴーストタイプのポケモンには効果がないのだ。そのため、必然的にサイトウさんが指示できる範囲が狭くなってしまったのだろう。そうなることは、彼女に勝負を挑む前から想像はしていた。もちろん、彼女もチャレンジャー向けに調整しているので、本来の実力ならばゴーストタイプ相手でももっと上手く立ち回れただろう。だが俺は、彼女がかつて俺に望んだことはこういうものではないと分かっていた。何しろ、あの頃の彼女が俺に見出したのは俺の体術だ。ゴーストタイプで圧殺するバトルではない。だから、俺はジムチャレンジとは別枠で彼女に応える準備をしていたし、それを伝えるのはジムバトルに勝ってからだと決めていた。

 バトルに勝利してクソダサユニフォームから解放された俺だが、更衣室を出たところでジムトレーナーの一人に話しかけられた。どうやらサイトウさんが俺と個人的に話したいことがあるらしい。こちらとしても願ったり叶ったりなので、二つ返事で受けた。

 待ち合わせの時間まで間があるので、俺はスタジアムの正面玄関から出た後、食事をしたり軽く観光をして時間を潰した。レストランでは、ラテラルタウンは山間に位置するので、平地のナックルシティとは違ったグルメがありそうだと思っていたら、おススメとして黒みがかった楕円球の物体を出されて真顔になった。羊の胃袋に内臓やオートミール、玉ねぎ等を詰めて、塩胡椒とウィスキーで味付けして煮込んだ料理だと説明されたが、それ、見た目でビビると噂のイギリス料理のハギスじゃないですか。俺の目の前で胃袋から黒い挽肉のようなものを取り出し、マッシュポテトが添えられた皿の上に乗せられればもう食べるしかない。だが見た目はともかく、食べてみると意外に美味しかった。地元名産のラテラル・ウィスキーを振りかけて食べるとなお美味かったが、このウィスキーって多分スコッチ・ウィスキーのことだと思われる。実に酒飲みが好きそうな料理だった。

 町の観光名所は遺跡だが、中でも巨大壁画が有名だというので見に行ったが……完全に子どもの落書きにしか見えなかった。色とりどりのパステルカラーのクレヨンで、幼稚園児が壁いっぱいにお花畑の絵を描いただけにしか思えない。どちらかというと壁画よりも、壁画の下地とも思える白っぽい色が門のような形に見える方が気になるが、その辺りは遺跡調査員が考えることだろう。

 そんなこんなで時間を潰し終えた俺が、気配を消してスタジアムの裏口へ向かうと、ちょうどそこからサイトウさんが出てくるところだった。私服でも動きやすそうなホットパンツを身に付けている彼女は、やはり健康的な可愛さに溢れている。俺が気配を出して姿を見せると、彼女は心なしかほっとしたような顔になった。

「お呼び立てして申し訳ありません」

 きっちりと頭を下げる彼女は相変わらず実直そうだ。今日はいつぞやのように筋肉アピールをするポケモンが傍にいないので、思考がとっ散らからずに済んでありがたい。

「いえ。俺もお話ししたいことがあったので、呼んでいただけて助かりました」

「話したいこと、ですか?」

「ええ。ですが急ぎではないので、サイトウさんからどうぞ」

「それではお言葉に甘えさせてもらいます」

 彼女はそう言うと、少し逡巡してから話し始めた。

「実は……あなたに紹介したい子がいるんです」

「俺に?」

「はい。まだ幼い男の子ですが、既に優秀なトレーナーとしての才覚を見せ始めています。ただ、少し……人見知りのする子でして」

 武の道に一直線という印象だった彼女の頼みとしては、予想外の類だった。彼女の身内だろうか。首を傾げていると、俺の顔色を窺いながらサイトウさんが話を続けた。

「オニオンという子ですが、彼はゴーストタイプのポケモンととても仲が良いんです。ルイさんも、ゴーストタイプのポケモンにとても懐かれていますよね? それを話のきっかけにして、彼と仲良くしていただけたらと」

 そう言うサイトウさんは、心から申し訳なさそうな顔をしていた。確かに突拍子もない話ではあるし、俺は一応ジムチャレンジの最中なので、そこまで褒められた内容ではないだろう。だが、本当に迷惑ならば断われば済むだけの話であり、そうしても誠実なサイトウさんが俺の不利益になるようなことをするとは思えない。何より、彼女の申し出は俺にとっては別に負担でも何でもなかった。会わせたい人がいるというのは、そうしてもいいくらいには彼女の中で俺の人格が認められているということでもある。

「ただでさえ今後もジムチャレンジが控えているあなたに、大変に不躾なお願いをしているのは承知です。どうか……」

「いいですよ」

 深々と頭を下げようとした彼女の言葉を遮り、俺は快く承諾した。

「子どもは好きですし、そういうお願いでしたら歓迎です。オニオン君が嫌でなければ、一度会わせてください」

 サイトウさんから感じられたのは、オニオンという少年への深い愛情だ。彼がどれほどの人見知りかは知らないが、彼女がここまでするほど心配なレベルなのだろう。ぽっと出の俺に何が出来るか分からないが、俺が彼と会うことで何かいい方向へ向かうきっかけにでもなれば儲けものだ。ジムチャレンジは一定期間内に全てのジムリーダーと戦って勝ち抜けば良く、順番は勝ち抜き戦後のリーグには関係ない。なんなら、期間内であればジムリーダーに何度でも挑むことさえできるので、そこまで急ぎの旅でもない。俺が断る理由はなかった。

「ありがとうございます……!」

 ぱあっと顔を輝かせるサイトウさんは、姉のような顔をしていた。随分親しげなので、弟かもしれない。いいよな、弟。うちの弟妹たちもみんな可愛い。個性の地雷原みたいになってるけど可愛いから許される。可愛いは正義ってえらいひとが言ってた。

「ところで、ルイさんのお話とはなんでしょうか?」

 サイトウさんがそう尋ねてきたので、俺は左腰に吊っている方のボールホルダーから一つのモンスターボールを取り外した。ちなみに俺は左右の腰から太腿にかけて三つずつボールを装着できるタイプのボールホルダーを使っている。人気なのは板状のボールホルダーを腰のベルトだけで固定するタイプだが、俺は激しく動いてもホルダーが暴れないように、腰と太腿のベルトで固定するタイプだ。

「このポケモンは……」

 俺が出したポケモンを見て、サイトウさんが軽く目を見開く。ボールから出したのは、俺より頭一つ分弱ほど低い位置に頭がある二足歩行のドラゴンだ。つまり人間サイズなのでそれなりの大きさである。そのため、大きな両手足から伸びる鋭い爪はかなりゴツイ。さらに切り出した岩石のような色をした肌は、その頭部や喉元、肩から腕、背中が固い鱗で覆われており、尻尾の先に密集した鱗が金属質な擦過音を立てている。外見はまさに、鱗の鎧に覆われたリザードマンだ。彼はジャラランガという名前で、ドラゴン・かくとうタイプのポケモンだ。つまり、サザンドラのように俺の手持ちだがゴーストタイプではない、珍しい奴である。

 俺はトレーナースキルを磨く中で、サイトウさんが俺に求めているものは何かを考えていた。そして辿り着いたのが体術である。というか、彼女とは大した面識もないのだから、それくらいしか思い当たらなかった。ならば手持ちのポケモンに教え込めばとなるところだが、ここで俺の手持ちを振り返ってみて欲しい。ミミッキュにシャンデラ、ドラパルト、サザンドラ……。さらっと出てくる中で人型に近い形態の奴は一人もいない。もちろんやり様はあるのだが、だとしても教えられる技術は限られてくる。もしこの世界のケータイショップにペッ〇ーくんがいたら、うちの好戦的なロトムが「アレにフォルムチェンジしてかくとうタイプになるロト!」と恐ろしいことを言いかねなかったが、幸いなことにそんなことはなかった。さてどうしたものかと考えた末に思いついたのが、人型に近いかくとうタイプポケモンの勧誘である。手持ちにいないなら外国人選手ではないが、外部から採用するしかない。そこでまず思い浮かんだのは、映画で有名になった波導の勇者ルカリオ先輩だが、ワイルドエリアをうろついてもなかなか会えない。まあ、やたらと広いワイルドエリアでそうそう目当てのポケモンに会えるはずもなかった。代わりに巨大ダンゴムシの頭部にムキムキのボディが生えた例のポケモン――グソクムシャというらしい――とは数回遭遇したのだが、奴らは俺の視界に10秒も留まらずに逃亡した。俺、嫌われ過ぎでは? そしてうろうろの果てに砂塵の窪地という砂と岩だらけの場所で、偶然にジャラランガと出会ったのだ。砂嵐の向こう側でジャラジャラ音がすると思って行ってみたら、あからさまに威嚇態勢のジャラランガと目が合ったのである。

 このジャラランガは、交渉と殴り合いの末にゲットをした。なお、殴り合いをしたのは手持ちポケモンではなく俺である。三年以内にまた野生に戻すこと、その間は俺の体術の手ほどきを受けることをロトム通訳で説明したのだ。ロトム通訳が便利すぎて手放せない。後者の条件を出したところ、「じゃあオメーの力見せろや」と言われたので、俺がジャラランガと素手で殴り合って認めさせたのだ。さすがかくとうポケモンというだけあり、特にアッパーの威力は俺でもオーラのガードをせずに受けたらヤバそうなレベルだった。実際、種族的にもアッパーが一番の武器だったらしい。そのため、わざわざアッパーでトドメをさしてマウントを取った。……キバナに言ったら滅茶苦茶怒られると思ったので、ジャラランガをゲットしたことは黙っている。ドラゴンタイプを持っていたので、彼のアドバイスがちょっと欲しかったのだが、彼の世話焼き属性の末に掘り下げられたら白状する自信しかない。

「こいつには俺の技術を教えています。トレーナーとしての指示出しも、自分が納得できるレベルまで鍛えてきました」

 ただの殴り合いをしたら俺の手持ちの中で一番強いのはジャラランガ……と言いたいところだが、現実はそうではない。ジャラランガはフェアリータイプに凄まじく弱いらしく、うちのトップエースであるミミッキュとのタイプ相性が最悪だ。一度手酷くミミッキュ先輩にぶん殴られてから、彼はミミッキュに頭が上がらない。同じドラゴンタイプのドラパルトに慰められている姿は、何ともいえない哀愁が漂っていた。

 とは言え、うちのジャラランガの鍛錬方法は俺(ゾルディック家長男)との組手という、冷静に考えるとヤバい内容である。俺もジャラランガの限界を見極めつつ殴ったり蹴ったり、投げたり、転がしたり、色々とやったしやらせた。お陰様で、ジャラランガの中の格闘王に限りなく近い個体になれたかもしれない。少なくとも、野生のジャラランガよりは確実に打たれ強いはずだ。鍛錬の時は必ず“すごいきずぐすり”を複数個用意していた時点でお察しである。

「ジムチャレンジとは関係なく、一対一でバトルしてもらえませんか」

 サイトウさんは銀色の双眸を見開いてジャラランガを見つめた。それから、俺を見上げる。

「……まさか、わたしとのバトルのためだけに?」

「はい。約束しましたから」

 キバナも俺とのバトルを望んでくれているが、俺の一番の目的はサイトウさんとの対戦だ。ジャラランガは、完全にそのためだけに調整してきた。だからここで断られるとちょっと凹んでしまう。俺が内心どきどきしながらサイトウさんを見守っていると、彼女は腕を伸ばして俺のボールを持つ手を取った。

「ありがとうございます! まさか、ここまでしていただけるなんて思っていませんでした」

(これはファンに恨まれそう)

 普段がキリッとした表情なので、俺を見上げる彼女の笑顔とのギャップがすごい。日ごろの鍛錬による肉刺は出来ているものの、俺よりもずっと小さくて細い手なので、女の子らしさが覗いていて可愛らしい。こんな無防備なところを見せられたら、それを目当てにかくとうタイプを極めようとする奴が出てもおかしくないだろう。

「その勝負、是非受けさせてください!」

 ジャラランガをスカウトしてしごいた甲斐があった、と考えている俺など知らない彼女は、真っ直ぐに笑った。



+ + +



グソクムシャの判断は、ただひたすら順当なだけである。嫌われているというより恐れられている。

そういえばゾル兄さんの手持ちが大体決まってました。

・ミミッキュ
・シャンデラ
・サザンドラ
・ドラパルト

・ジャラランガ(サイトウさん専用調整済)

あと一匹はゴーストタイプ持ちにしようと思ってますが、誰がいいかな……候補はいるんですけどね……
想定外にドラゴンタイプが多くなっていて自分でも困惑してます。
別の話でルカリオを降谷さんの手持ちにしてたなと思って避けたらこんな具合に。
ナックルシティジムの平トレーナーになれそう(白目)


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