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出会いはもうすぐそこに
萌え 2021/02/15 23:06


・ゾル兄さん:ガラルのすがた
・サイトウ視点
・エンジンシティのジムチャレンジの話
・オニオンの家庭事情は捏造





 ラテラルタウンは緑が少なく、黄砂が舞う乾いた土地だ。それでも力強く生きる人々の活気に満ちた良い町だとサイトウは思う。土地柄なのか精神的に逞しい人が多く、強くあることを心がけるサイトウにとって励みになる。そんな人々が路地に広げる露天街を通り過ぎ、町はずれの墓地へ訪れたサイトウは、そこにいる小さな背中に声を掛けた。

「やはりここに居ましたか」

「……サイトウさん? ぼ、ぼくに何か用ですか……?」

 肩を大げさに震わせてから振り向いたのは、黒髪の幼い少年だ。内気な性格を表すように、顔全体を覆い隠す白い仮面を両手で支えながらもじもじとしている。少年――オニオンの足元にいたサニーゴは、不思議そうに自身の幼いトレーナーを見上げた。

「はい。是非あなたに紹介したい人がいたので、探していました」

「ぼくに……?」

 極めて内向的な少年は、まだ会ってもいない人物を想像して震え上がった。彼の手持ちであるゴーストが宥めようと寄り添ってくるのを見て、サイトウは自身の決意を新たにする。紹介したいと思っている相手の人格が真っ当であることは分かっており、つい先程知った相手の特性も、オニオンとの交流に一役買うだろうという確信があった。

「安心してください。彼はまだこの街に来ていません。これからジムチャレンジャーとして来るところです」

「チャレンジャー、なんですか……?」

「ええ。きっとあなたが興味を持てる人だと思います。ですから、一緒に動画を見てみませんか?」

 サイトウに熱心に誘われ、オニオンは逡巡したもののおずおずと頷いた。





 オニオンの両親は、ポケモンの研究家として世界中を飛び回っている。夫妻は息子も連れて行こうとしていたのだが、人見知りな彼はそれをひどく嫌がったため、彼はラテラルタウンの祖母の元に預けられることとなった。幸いなことに、ラテラルタウンはナックルシティのような都会と比べると人ごみも少ないため、彼の性格に合っていた。そして、生まれつきゴーストタイプのポケモンと相性の良い彼が、ひと気のない遺跡や墓場でポケモンたちと遊んでいるときに出会ったのが、当時ジムリーダーを襲名したばかりのサイトウだった。

 サイトウはオニオンにゴーストポケモン使いとしての才能を見出し、彼にトレーナーの道を勧めた。サイトウの実直さに心を許したオニオンは、仲の良いポケモンたちを正式にゲットし、晴れてトレーナーを目指すことになったのである。オニオンは運の良いことに、ゴーストタイプについては専門外だが、ジムリーダーを任されるほど優秀なサイトウに基礎を叩きこまれ、幼いながらもみるみるうちに実力を伸ばしてきた。いつかは史上最年少でゴーストタイプ専門のジムリーダーになれるのではないか、とサイトウが身内贔屓を抜きにして思っていた頃に“彼”と出会ったのだ。

(トレーナーにはある程度の社交性も必要。あの人なら、オニオンに良い影響を与えてくれるかもしれません)

 姉のような気持ちでオニオンを大切にしていたサイトウは、そんなことを思いながら彼を自宅へ誘った。

 自室にあるPCの前にオニオンを座らせると、サイトウはスリープ状態にしていたPCを解除して一つの動画を再生した。それは、サイトウがいずれポケモントレーナーとして戦う約束をした青年の、エンジンシティでのジムミッション動画だ。

「ぼくに紹介したい人って、このお兄さん……?」

 紹介と聞いて、自分と同年代を想像していたのだろう。だが、示された青年はオニオンどころかサイトウよりも年上だ。オニオンは不思議そうに首を傾げた。確かに、動画の青年を幼いオニオンに引き合わせる理由が現時点では分からない。サイトウも、最初はそうするつもりがなかったのだ。それが、このジムミッションを見てから考えが変わった。

「カブさんのジムミッションは知っていますね?」

「うん。他のトレーナーと競争しながら、決められた数のポケモンをゲットするか倒すんですよね」

 サイトウの質問に、他のチャレンジャー達の動画を何度も見てきたオニオンは珍しくハキハキと答えた。

 炎のジムリーダーと呼ばれるカブが設けたジムミッションは、決められたフィールド内でのゲット数・撃破数を競うものだ。特設フィールドにはほのおタイプの野生ポケモンが放たれており、ゲットが2ポイント、撃破が1ポイントとして合計5ポイントを先取しなければならない。野生のポケモンへの対処を見る試験と言えるだろう。

 その、野生として放たれていたポケモンが問題だった。どれも皆ほのおタイプを持っているのは共通なのだが、その中にゴーストタイプとの複合型であるヒトモシが含まれていたのだ。

「……あれっ」

 思わずといった様子でオニオンが声を上げる。恐らく、仮面の中の目も丸くなっているだろう。

 動画の中の青年がフィールド上の草むらに足を踏み入れようとしたその時、草むらからヒトモシが這い出てきたのだ。それも一匹や二匹ではなく、あちこちの草むらから何匹もだ。ヒトモシたちはのそのそと青年に寄ってくると、好き勝手に彼にくっつき始めた。足にじゃれ付いたり、登って来ようとしたり、かなり自由にしている。それを遠巻きに見ていた数匹のヒトモシも、我慢できなくなったような様子でさらに近寄ってきた。その様子に、競争相手のトレーナーたちは困惑して立ち尽くしている。これではゲット競争どころではないだろう。

 寄ってきているポケモンはヒトモシだけであり、ロコンといった他のポケモンたちは微塵も寄ってくる気配がない。彼がヒトモシだけに人気があるのか、ゴーストタイプに人気があるのか、そのどちらかだと思われる。動画で彼の手持ちを知っているサイトウは、恐らく後者だと考えていた。

「……すごい。このお兄さん、こんなにヒトモシたちに好かれてるなんて」

「面白いでしょう。話してみたいと思いませんか?」

 サイトウの問いかけに、オニオンはどう答えるか迷ったらしく俯いてしまう。だが、ヒトモシに群がられている青年が、彼らを随分優しく扱っているのを見て、少しずつ迷いが消えていったようだ。最終的に、頭の上にまでヒトモシを乗せた彼は、特例ということでミッションクリアとされていた。

 そこでジムミッション動画は終わりだが、オニオンは自分からマウスを動かして、続けて青年のジムリーダー戦動画を再生し始めた。

「シャンデラだ!」

 オニオンが嬉しそうに、彼にしては大きな声で言った。彼が育てているポケモンの中には、シャンデラの進化前であるランプラーがいる。進化形がバトルで活躍しているので嬉しいのだろう。青年は、シャンデラ一匹でカブの手持ちであるキュウコンやウインディを撃破していく。レベル差もその大きな要因だが、異様にシャンデラの回避率が高く、さらには狙い澄ましたように急所に当ててくる攻撃がその鍵だろう。

 動画を見終わったオニオンは、小さな拳を胸の前で握り締めてサイトウを見上げた。

「あの……サイトウさん。このお兄さんの名前、何て言うんですか?」

 弟のように可愛がっている少年に、サイトウは自然と口の端が持ち上がるのを感じた。

「この人はルイ=ゾルディック。わたしがバトルを心待ちにしている人です」



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