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チャレンジャー志望者は海の幸に挑む
萌え 2021/02/11 22:16


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ジムチャレンジ2つ目




 バウタウンに向かう道中でキバナから鬼電され、電話口で説教された以外は何の困難もない旅程だった。顔が付いた風船にしか見えないフワンテというポケモンが如何にヤバいかを懇切丁寧に諭されたので、余程俺のことを心配してくれたのだろう。当のフワンテたちは、観光客から煎餅を狙う奈良公園の鹿よりも穏やかに見えたが、キバナからは優しげな顔で子どもを連れ去る誘拐犯的な逸話持ちであると懇々と語られた。俺は知らないおじさんについていく幼女ではないが、彼の心配を無下にする人でなしでもないので、説教は素直に受け止めておいた。身体スペックは人でなしとツッコんではならない。

 ちなみにキバナに関してだが、今更ながらテオさんに彼と俺が友人関係にあることがバレた。キバナからダイマックスバンドを貰ったと素直に白状したからである。ダイマックスバンドはガラル地方のトレーナーしか持たない特殊な装備で、一般向けに販売もされていないので、出所を聞かれたら下手に隠しても仕方がない。今まで黙っていた理由を尋ねられたので、聞かれなかったからと答えると、テオさんはとてもとても物言いたげな無表情になった。実際はそれに加えて、良い友人関係にあるキバナを使ってまで有名になる理由もなかったからだが、俺との付き合いも一年近くになる彼なら察してくれるだろう。案の定、彼は特に文句も何も言わずに肩をすくめ、「有名人のお友達って肩書は良くも悪くも働くから気を付けて」と忠言するに留めた。それは俺も分かっていたし(何しろ俺自身が暗殺一家の長男というよろしくない有名人である)、その良し悪しどちらも働かせたくなかったので黙っていたところもある。俺の立場が変わらなければ、これからもこのままの関係が続くだろう。

 今回は前回と違い、ジムチャレンジ前にロトムがとてもうるさくなった。彼はスマホ専用ロトムのつもりで俺は扱っていたのだが、彼自身の戦意は異様に高い。並みいる同族を文字通り蹴散らして俺の手持ちに就職するくらいなので、元からそういう性格なのだろう。相手が水タイプ使いだとネットから情報を仕入れている彼は、俺に自分の有用性をしつこく訴えた。

「ご主人、ロトムなら水槽でぬくぬくしている奴らをレンチンしてやるロト」

「お前は殺意を抑えろ」

 結局、やる気通り越して殺る気が溢れ過ぎていたので、観客の心象に悪いという理由で却下した。あと、うちのロトムは電子レンジにフォルムチェンジした経験はない。それから、本当にロトムで水タイプに挑むのなら、電子レンジにフォルムチェンジしないで、原形の電球の方がタイプ相性がいい。どうでもいいが、スマホ形態だと最も高くなる能力は語彙力とネット検索力である。

 ロトムのおねだりを振り切った俺は、バウタウンジムの更衣室で相変わらずのクソダサユニフォームに身を包み、恥を忍んでジム戦に挑んだ。

 ジムチャレンジは、足場の下に広がるプールに大量の水が滝のようにあちこちを流れ落ちるステージの踏破だった。ステージの各所に設置された色付きのスイッチを押し、行く手を遮る滝が流れ落ちる位置を切り替えて進むというパズル形式だ。時折待ち構えるジムトレーナーとのバトルもあるので、無駄にウロウロしていると手持ちのポケモンたちの体力を消費させられるシステムになっている。

(……この滝、突っ切れるけどそれはなしだよな)

 考えるまでもなく、ナシ寄りのナシである。普通に進めばさすがの俺も体重の問題で押し流されるだろうが、流される前に突っ切るというごり押しが通用する程度の滝にしか見えない。念能力を使うまでもないだろう。しかしながら、これはジムリーダーとのバトルを前にした前哨戦。人間離れトーナメントではないし、何より各地を旅してまわるトレーナーたちに「このギミックを解除する程度の頭は持っとけよ」という課題に他ならない。頭が残念なトレーナーの割を食うのは、手持ちポケモンなのである。

 幸いにも、ステージのギミックは大したことがなかった。元は幅広い年代層、つまりはお子様もプレイするゲームである。難しいスイッチパズルは設けるはずもない。ただし、俯瞰でステージを見ることが出来るゲームとは違い、現実になると全体のマップを把握しづらいので難易度は上がる。とは言え、どこで水音が増えて減ったかなど、視覚だけでなく聴覚でも特定できるスペック持ちの俺にとっては、やはり大した苦労はなかった。なんなら、ステージの各所で待機しているジムトレーナー全員をスルーすることすら可能だが、それはそれでテオさん的に空気を読めないアホトレーナー扱いされるので、数人とは敢えて視線を合わせて戦って見せた。ポケモン世界は、目と目が合う瞬間好きだと気付くのではなくバトルが始まる悲しい風潮があるのだ。

 そうして挑戦権を得たジムリーダーのルリナだが、本物の彼女は動画で見たときよりも美しかった。青みがかった黒髪とチェレンコフ光にも似たメッシュが映える長い髪と、水を弾く褐色の肌が美しい美少女だ。着ているウェアはセパレートタイプで、剥き出しの細く引き締まったウエストと、ホットパンツから伸びる長い脚がなんともセクシーである。

(おみあしきれい)

 俺は真顔のまま内心で呟いた。なんという素晴らしき脚線美か。動画で見かけたサイトウちゃんの筋肉が付いて引き締まった脚線美とはまた違う、まさにモデルとして磨かれた美貌だ。俺は断然胸派だが、こうして見ると足も悪くない。

 ルリナはスタジアムに立つ俺を見据えると、勝気に微笑んだ。

「あなたとポケモンたち、わたしとパートナーで流しさってあげる」

(これはながされたい)

 テオさんが聞いたら全力の張り手をかまされそうなことを考える。張り手をする側のテオさんの手が壊れかねないので、このことは黙っておこう。

 ルリナは野球の投球フォームのように片足を上げ、ボールを放った。美しい脚線美がこれ以上ないほど映える素晴らしい投げ方だ。自分の魅せ方を知っているのだろうし、あるいは特定のフォームだと気合が入るのかもしれない。一方の俺は、何の特徴もないアンダースローだ。冗談抜きで人を殺せるレベルの投擲スキル持ちなので、気を遣うとそういう投げ方に行きつくのだ。どのくらいのスキルかと言えば、少し違うが指先で小石を弾いて相手に致命傷を与えられるくらい、である。これはイルミも、恐らくキルアもできるので特異なことではない。なんなら、モンスターボールを投げて弱らせたポケモンを捕獲するどころかトドメを刺しかねないので、ボールを投げてゲットするというやり方を未だにしたことがないくらいだ。キバナは「オレが全力で投げてもボールは壊れないから安心しろ」と言っていたが、お前、俺の投擲力がどれだけあると思ってるんだ。ゴンベ(100kg)を片手抱っこした時点で察してくれ。

 一体目の角が生えた巨大金魚、もといトサキントは、初代勢である俺にとっても馴染みのあるポケモンである。タラではないがあのたらこ唇が懐かしい。懐かしいついでに、シャンデラで焼いておいた。

 二体目のサシカマスは、なんというか巨大なサンマのようなポケモンだった。皿の上に大根おろしを添えて横たわっていたらガラル地方のサンマ焼きだと信じるレベルである。もしかすると、俺の中身が元日本人だから魚介類が食い物に見えるのかもしれない。だからというわけではないが、シャンデラで焼いた。すまない。海に面したバウタウンは魚介が美味しいらしいので、町を出る前に絶対にシーフードを満喫すると決めた。ちょうどバウスタジアムの近くに有名なシーフードレストランがあるらしいので、必ず寄って行こう。

 三体目はカジリガメという、目つき悪めの巨大亀だ。派手にしゃくれている顎の発達具合が見るからにヤバい。ヤバそうなので、シャンデラで焼いておいた。

 ……ターフタウンジムと同じじゃねーかと思う人は多いだろう。俺もそう思う。だが、シャンデラだけを使うのは前回とは少し意味合いが違う。

 俺のシャンデラはゴースト・ほのおタイプなので、タイプ相性としてはルリナの手持ちとは良くない。だが俺の手持ちのレベルが高すぎるので、そのくらい相性が悪い奴を持ってこないと完全なワンサイドゲームになる。だが、俺の好みの問題でスピードアタッカーが多い都合上、シャンデラの素早さもやたら高い。そのため、先手は取れるし相手の攻撃は当たらないのでどうにかなる。

 テオさんに叱られて思い当たったが、レベル差がありすぎる上にタイプ相性まで抜群だと、観客視点ではあまり面白くない試合と思われる。少しでもマシになればと思って思いついたのが、タイプ相性の良くないシャンデラ続投だ。観客的には、またシャンデラかよと思われるだろうが、逆にどこまでシャンデラだけで攻めるつもりかという話題にもなりうるだろう。レベル差があるので、観客が飽きる泥仕合にもならないはずだ。

 それから、前回のターフタウンジムでも同じだったが、最後の一体になるとジムリーダー達はダイマックスバンドを使って手持ちポケモンを巨大化――すなわちダイマックスさせてくる。ダイマックスというのは非常に強力で、使うだけでポケモンの体力や攻撃力などが跳ね上がり、技自体も派手で強烈になる。チャレンジャー達はそれに合わせてダイマックスを使うことで、それ自体に慣れていくのだろう。ルリナも最後の手持ちであるカジリガメをダイマックスさせてきた。

 ところでシャンデラは常に浮遊しており、空中でも自在に動き回ることができる。つまり、空中機動が可能だ。俺はヒトモシがランプラーという浮遊するポケモンに進化した頃からシャンデラに至る今まで、空中での立ち回りを仕込んできた。そのため、ダイマックスによる広範囲攻撃も、空中機動が出来るスピードタイプのシャンデラならギリギリかわせると信じていた。実際、ギリギリではあるがかわすことができた。

 さらにキバナから聞いていたのだが、ダイマックスバンドによる巨大化は、精々三分間程度しか持たない。それを過ぎればダイマックスが解除されて通常状態に戻ってしまう。そして試合の規定により、ダイマックスが使用できるのは一試合につき一度のみだ。ダイマックス状態のカジリガメにこちらの攻撃はあまり通らないが、その状態が解除されてしまえば問題ない。そこをついて焼いたのである。

 ルリナに合わせてこちらもダイマックスするのが順当だとは思うのだが、俺のシャンデラは回避アタッカ―なので、デカくなるとフィールド上を縦横無尽に飛び回るのがかえって難しい。要は的がデカくなってしまう。そのため、小回りを優先してダイマックスさせなかったのだが、それが上手く働いた形だ。

 試合後、握手をしたところでルリナが俺を見上げながら口を開いた。

「腹立たしいけれど、よく仕上がっているシャンデラね」

「……ありがとう」

「あなたとはちゃんと本気で戦ってみたいわ。変に気を遣わせるなんて面白くないもの」

 彼女はそう言ってにっこりと微笑む。……これ、チャレンジャー向けの調整がない状態でシャンデラ出したら、ボロ雑巾にされる奴である。今度何かの機会で戦うことがあれば、同じ手を使うのはやめておこうと固く誓った。



+ + +



ボール投げない兄さん:やろうと思えば普通に投げてゲットできるが、気後れしてやってないだけ。初ゲットのミミッキュに倣い、自主的にゲットされるのを推奨している。その結果のゴースト推しパ。

ダイマックスなしのシャンデラがキョダイカジリガメの攻撃を避けられた理由は一応ありますが、それはまた次回で。


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