更新履歴・日記



キバナさまのワクワク動画鑑賞
萌え 2021/01/04 02:24


・ゾル兄さん:ガラルの姿
・キバナ視点
・ターフタウンジム挑戦の話





(おっ。あったあった。ルイのジムチャレンジ動画)

 山盛りのフィッシュアンドチップスとコーラを自宅のテーブルにセットしたキバナは、大画面TVに接続したスマホロトムを操作しながらニヤリとした。目当ての動画をタップし、どっかりとソファに座り込むついでに、寄ってきたヌメルゴンの頭を膝の上に抱え込んでやる。背後からいそいそと近付いてきたフライゴンの顎下を左手で軽く撫でてやりながら、キバナは画面に目を遣った。画面には、ターフタウンジムでジムチャレンジを始める友人の姿が映っている。

「ぶっは! やっぱアイツ、ユニフォームがクッソ似合わねぇ!!」

 エンジンシティでの開会式でもルイのユニフォーム姿を見たが、白が眩しいそれはどう足掻いてもルイには似合っていなかった。街から街へ移動する際は、黒と紫を基調としたよく似合う私服を着ているので、余計にギャップが酷い。ルイが(顔には出さなかったが)恐怖に震え、ユニフォーム着用時のことは記憶から消したとキバナに主張してきたのも理解できる。なお、キバナが彼の移動中の服装を知っているのは、時々彼のポケチューブチャンネル動画を見ているからである。モデルもやっているイケメンが、ジムチャレンジの道中で出会う野生のポケモンや土地情報を分かりやすく説明してくれるという内容で、そこそこ視聴数が伸びているのだ。……たまに動画の中でルイが只者ではない行動をさらりとやらかすので、そちらも話題になりつつあるが。ガラル鉱山の採掘で出来た、崖のように切り立った穴に落ちそうになったドッコラー(野生)を助けるために、当たり前のように片手ロッククライミングをするのはやめろとキバナは言いたい。テロップで“危ないので真似しないでください”と付ければ許されると思うなとしつこく言ってやりたい。助けられたドッコラーが恐縮しきった様子で、ぺこぺこしながら鉱山の奥へ消えていった映像はなかなか忘れられない。

 それはともかく、クソ似合わないユニフォームを恐らくは無我の境地で着用したルイは、まずはジムリーダー戦前のジムミッションに挑んでいた。彼が案内されたのは、長方形に整えられた広い空き地に、ところどころ花壇が並ぶエリアだ。

「出たな。ヤローの“牧羊犬”チャレンジ」

 ジムミッションそのものは大したことがない。エリアに放たれたウールーの群れを奥の柵内まで誘導するだけだ。ただし、途中には数匹のワンパチが走り回っており、ウールーに吠え掛かってチャレンジャーの妨害をしてくる。毎年恒例のジムミッションで、馴染みのものからは牧羊犬チャレンジと言われているものだ。別にチャレンジャーをおちょくるためのミッションではない。トレーナーたるもの、周囲の様子を常に把握してポケモンに指示を出す必要がある。ウールーとワンパチの状態を同時にきちんと把握できる視野の広さや誘導する思慮がなければ、トレーナーとして大成できないのだ。

 人懐っこい顔をしており、愛玩用としても人気のワンパチだが、あのムチムチとした短足ポケモン、案外侮れない。そもそも体高が低いので花壇の影に隠れて見えないし、ムチムチの割に花壇の隙間からズボッといきなり現れたりもする。そして甲高くよく通る吠え声を上げられれば、ウールーはすぐに散らばって逃げてしまうのだから本当に厄介だ。その筈だが。

「……アイツ、全方位が見えてんのか?」

 画面の中のルイは、ウールーどころかワンパチがやってくる方向を完全に把握しているような動きをしていた。特に苦労する様子もなくウールーをさっさと奥に誘導している。……ルイが誘導を面倒臭がって、ウールーを5、6匹ほど抱えて柵に放り込まなかったことに安堵したキバナは、自分がルイに毒されつつあることに気付いて遠い目をした。ウールーは10sもないのでキバナでも簡単に抱えられるが、だからといって普通は何匹も抱えるものではない。いやまあ、ウールーの体毛は素晴らしいクッション性があるので、仮にルイにお手玉のように扱われても怪我はしないだろうが。

 そんなこんなであっさりとミッションをクリアしたルイは、続いてヤローとのバトルに移った。しかしそれも、明らかに草ポケモン使いのヤローに対策済みといった様子だ。ワイルドエリアにご近所感覚で行くルイの手持ちだからか、なんだかんだで鍛え上げられたシャンデラと、ヤローのジムチャレンジャー用に調整した手持ちとのレベル差もかなりあった。

(……ガッチガチに対策してんな。シャンデラで二枚抜きか)

 恐らく、対策を抜きにして、ルイは本気を出してはいない。それはジムリーダーとして手加減する必要のあるヤローも同じであるが、ルイはどちらかと言うと本気を“出せない”といった表現の方が正しいかもしれない。

(アイツ、ルール縛りのある試合は苦手そうだったしな)

 逆に、野生のポケモン相手のルール無用のサバイバルバトルは随分と伸び伸びしていた。不意打ちに騙し討ち、地形利用に罠運用、技の魔改造にハンドサインや目配せ等無音の指示出しと何でも好き勝手にやっていた。そして野生のポケモンたちも、集団で囲むわ不意打ちを仕掛けようとするわ、遠距離から狙ってくるわ、果ては手持ちを無視して直接トレーナーを狙ってくるわと容赦がなかった。ルイだけ世界観が違うのではとキバナは何度も疑ったものである。一人だけ世紀末ワイルドエリア列伝を繰り広げていたので、キバナもそのうちルイの身の心配をすることをやめた。ガラル粒子が集まり、ダイマックス化した野生のポケモンが出没するエリア以外は、どこに行っても生きて戻ってくるだろうと考えるようになったのだ。あの男は、身一つでワイルドエリアに放り込まれても平然と寝起きしてそうなヤバい奴である。

(すげーさらっと終わったな)

 せっかく観戦スタイルを整えたのに、ルイのターフジムチャレンジは思いのほかすぐに終わってしまった。用意したフィッシュアンドチップスもまだ半分残っている。コーラを欲しがって首を伸ばすサダイジャをかわして代わりにポケモンフーズをやると、キバナは肩をすくめて他の動画を探した。ちょうどいいことに、ルイがまた新しい動画をアップしていたのでそちらを再生することにする。どうやら、バウタウンへ向かう5番道路での動画らしい。

「おっまやっめ」

 動画を再生してしばらくしたキバナの口から、思わず素っ頓狂な声が上がった。道を歩いているルイの頭上を、風船のような姿のポケモン・フワンテがふよふよと漂っていたのだ。しかも数匹まとめて。

 フワンテは見た目が可愛らしいポケモンだが、ゴーストタイプである。全ての個体がそうとは限らないが、子どもの手を引いてあの世へ連れ去ろうとすると言われているのだ。大人は無理だが、数匹が力を合わせたらどうだろうか。ルイはキバナよりは軽そうに見えるし、寄ってたかって腕を掴まれたら万が一のことがあるかもしれない。……という警戒すべき状態なのだが、ルイはさほど気にした様子もなく、風船のような頭を摺り寄せてくるフワンテを片手で撫でながら歩いていた。

「いや普通に撫でてる場合か!?!?」

 思わずキバナは突っ込んだ。画面の向こう側に届かないとは分かっていたが、ツッコまざるを得なかった。テロップには申し訳程度に“複数まとめて寄って来たときは注意してください”などと書いてあったが、そんなことを書いている場合ではない。“小さなお子さんがいるときは気を付けて”じゃないだろうが、このゴーストハーレム男!!

 フワンテが擦り寄って来たり、ルイの長い後ろ髪を食んでみたりする姿は可愛いのだが、素直に可愛いと受け取れない。ドラゴンも満足する世話焼き男は、TVと接続しているコードからスマホロトムを引っこ抜くと、怒涛の勢いでタップしてルイに電話を掛けるのであった。



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ウールーのお手玉:カイリキーでもお手玉できるので大丈夫です。



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