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トレーナー志望者はチャレンジャー志望者になる
萌え 2020/12/21 23:39


・ゾル兄さん:ガラルのすがた
・簡単に時間が経つ





 キバナに「オレさまの試合見とけよ!」と口を酸っぱくして言われたので、最後まで勝ち残ったリーグ挑戦者とジムリーダーたちが一堂に会して戦う、シュートスタジアムでのトーナメント戦はきちんと見ることにした――テレビで。収入優先の兼業モデルである俺に、リーグ戦のチケットを購入してシュートシティまで足を伸ばす余裕はないのだ。おまけに、キバナが出る試合のチケットはトップクラスの人気で取りにくいという。一番人気はチャンピオンのダンデが出る試合らしいが。キバナには一応、友人のよしみとしてチケットを用意するか尋ねられたが、それはガチ勢に譲って欲しいと断っておいた。それを聞いたキバナには「そういうとこだよな!」とニマニマしながら背中を叩かれたが、叩いた方が痛そうにしていたのは仕方がない。お前、俺の背中を素手で叩くのは、お前の手持ちの鋼ドラゴンを素手で叩くのと同じだぞ。ところで、ダンデvsキバナ戦で、キバナの切り札たる巨大ジュラルドンが惜しくも爆発して敗れた光景を見て、ニ〇ニコ本社という単語が過ぎったのは俺だけだろうか。

 それにしてもキバナは勝っても負けても写真映りが良い。さすがは自撮り王といったところか。モデルとしては見習うべきところかもしれないが、どうすればそうなれるのかは皆目見当がつかないので、見習いようがない。写真に写らないことなら結構得意なのだが、現時点では何の役にも立たない職業特性(アサシンスキル)である。そしてトーナメントの結果、キバナはダンデに続いて2位に終わったため、来年に向けて頑張りましょう会(酒盛り)の開催が決定した。付け加えるなら、来年はお前(俺)も参加しろの会でもある。俺がトレーナーとしての練習をしていることを彼は知っているので、来年度のリーグ参加についてはとてもとても強く推されていた。……俺の目標であるサイトウちゃんへの到達はリーグ序盤から中盤らしいので、最終局面であるキバナへの到達はあまりにも遠すぎる道のりだが、そこは何も言わなかった。

 そこからの暮らしは、今の自分の生活をいかに軌道に乗せていくかというものに終始された。モデルとしての仕事を少しずつではあるがスキルを上げてこなせるようになりつつ、ドアマンとしての仕事もきちんとこなし、合間で自分とポケモンの鍛錬を行い、さらにその隙間時間でガラルの常識を学ぶ。幸いなことに、ガラル地方は平和な場所だった。ポケモン世界と言えば、なんやかんやあって未成年の主人公が悪の組織をぶっ潰すのが恒例行事であるが、ロケット団のようなゴリゴリの悪の組織が存在しない。一瞬だけこいつら悪の組織じゃないかと思った連中もいたが、彼らはスパイクタウンジムのトレーナーだった。ビジュアル系の組織力すごい(小並感)。悪の組織はもしかするとこれから誕生するのだろうかと疑ったが、飲み会ついでにキバナのトレーナーデビュー時代の話を聞いてみると、生まれるどころか壊滅した後だったらしい。今はリーグチャンピオンのダンデとキバナ、ダンデと幼馴染のソニアちゃんが各地を旅している時代に、主にダンデとキバナが潰したのだとか。……いやお前らが主人公じゃねーか! なんだゲーム時間が終わった後の世界かよ! そこまで考えた俺は、彼らが男主人公とライバルという関係ならば、ゲーム的に女主人公が存在した世界線もあるのではと思いついてしまい、そっと記憶から葬った。正直なところ、彼らのどちらが男主人公役でも、相対する女主人公の姿が想像しづらすぎる。連中のシックスパックは安易な性別反転を捻り殺す威力があるのだ。切れてる切れてる、いい筋肉!

 ともかく、どうにかこうにか生活リズムを作り出し、ゲーム知識と動画知識とネット知識の合わせ技でバトルスタイルを編み出した頃には、一年近くが経っていた。もちろんその間、俺がハンター世界に帰れる兆しは何一つなかった。酷過ぎる。それは置いておいて、つまりは――リーグ戦の季節である。

 リーグに参加するには一定以上の実力者からの推薦状が必要になるが、それはナックルシティのバトルカフェのマスターのヨウジさんが書いてくれた。彼には実際のバトルの相手として何度もお世話になっていたのだ。彼はポケモンを二体同時に戦わせるダブルバトルが好きなので、いい経験を積ませてもらった。なお、彼はエンジンシティのバトルカフェのマスター・イチロウさんと分身並みに顔が同じだった。

 それから、ダイマックスバンドなる物をキバナからもらった。それがあると、ガラル粒子を集めて手持ちのポケモンをダイマックス化することができるらしい。要は、特定の場所で1バトルにつき1回、手持ちのポケモンを超巨大化させてブーストが掛けられるのだ。ジムリーダーやチャレンジャー達は普通に使っていたが、そういう仕組みらしかった。そもそもダイマックスが必要な場面が全くなかったので、ダイマックスバンドにも縁がなかった。ちなみに、ワイルドエリアで赤い光が灯っている場所は絶対に近寄るなとキバナに口を酸っぱくして言われていたが、それこそがガラル粒子の集まる場所で、野生のポケモンがちょくちょくダイマックス化してヤバいらしい。そして、各ジムリーダーたちが試合をするスタジアムも、ガラル粒子が集まる場所なので、観客にダイマックス化したポケモンを披露できるのだとか。

 リーグ戦に参加したいと申し出た時のテオさんは喜んだ。それはもう大層喜んだ。チャレンジャーのユニフォームは決まっているからと、移動用の服をわざわざ上から下まで決め、必ず着用するようにと俺に厳命した。テオさん程服のセンスがない俺は文句ひとつ言わずに拝命したが、渡された服はハンター世界の普段着と大差なかったので拍子抜けだった。アウトドア向きの頑丈な素材でできたモッズコートにワイシャツ、ブラックジーンズ、ミドルブーツは基本が黒で差し色に紫と白という、見るからにゴーストタイプ推しである。フェアリータイプのジムリーダーであるおばあちゃんのような全身ピンクではなかったので、とても抵抗なく着られた。ちなみに、服をダメにする心配は全くされなかった。ワイルドエリアでバカンスできるなら余裕だろ、と言いたげな目をしたテオさんに反抗する理由はない。

 ……なお、チャレンジャーに支給される白を基調としたユニフォームだが、デザインを見た瞬間、俺には死ぬほど似合わないと察した。テオさんの目が血走るわけである。よく分からないという人は、白の半袖シャツとハーフパンツに白のハイソックスとスニーカーを身に付けた、事務所希望でクール路線の成人男性の姿を想像して欲しい。俺は恐怖で震えた。

 ガラルリーグの正式なチャレンジャーになり、サイトウちゃんへの挑戦権を得るためには、実力者からの推薦状を提示した上で、ターフタウン・バウタウン・エンジンシティのジムリーダーを順番に撃破しなければならない。そして移動手段は列車以外の町移動は徒歩に限られる。そのため、まず俺は開会式が開かれたエンジンシティからターフタウンへ向かった。道中の心配はもちろん誰にもされなかった。テオさんはともかく、最近はキバナでさえワイルドエリアの一部地帯以外は全く心配をしなくなったので、彼らは大概俺をゴリラだと思っている。恐らく普通のゴリラはワイルドエリアを踏破できないので、ゴリラではないと主張したい。





 第一の関門であるターフタウンのジムリーダーは、ヤローという青年だ。もう見るからに人が好さそうな優しい童顔のマッチョ好青年である。彼はまさに全身から善意が滲み出ているシャイニング農夫だ。ハンター世界の爛れた知り合いを思い出すと目が潰れ胸が焼かれる思いを禁じ得ないがすまない、丸焼きにする。

 結論から言えば、可愛らしい花のようなポケモン(ヒメンカ)と、可愛らしい綿毛のようなポケモン(ワタシラガ)はとてもよく燃えた。いや実際に燃やしたわけではないが、容赦もクソもない炎戦法である。シャンデラに最終進化した手持ちによる一撃必殺の炎攻めなので見栄えがしないが、くさタイプのジムリーダーと事前情報を出されたら対策するしかなかった。ヤローは負けながらもニコニコと自分のポケモンを労わっていたので、我ながら火攻めはどうかと思った。有効ならやるが。バトル後、ヤローは聖人の眼差しで微笑んでいたので俺は彼をさん付けで呼ぶことを決意したが、後にマネージャーたるテオさんに「ごり押しする余裕があるなら見せ場を作れ」「イケメンプレイしろ」「クールキャラは作れる」とスマホでしこたま怒られた。エンターテインメントバトルは難しい。



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いいえ、ゲーム時間の始まる前の世界です兄さん。主人公たちは弟妹世代です。
ガラルがとっても平和なので、ダンデさんたちが悪の組織潰したんじゃないか説を採用しました。
ヤローさんは「この新人さんのポケモン、よく育ってるんだな」くらいしか思ってないし、油断しているとチャンピオンカップで本気出した某リンゴのポケモンにぶん殴られる。



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