更新履歴・日記



ツナ兄さんの策士的生存戦略−ランボ編(途中まで)
萌え 2020/10/20 01:10


・家庭教師ヒットマンの綱吉君に成り代わったお兄さんの話
・原作沿いでランボ君に会ったところ





 休日。それは実に甘美な響きを伴う単語である。平日で疲れ切った体を癒すも良し、普段浸れない趣味を存分に楽しむことに時間を費やすも良し、パパは家族サービスに使うも良し、の素晴らしい日だ。そんな素晴らしい日に、俺は自室の椅子にだらしなく腰掛けながら、気ままにのんびりと本を読んでいた。タイトルは“英語が苦手なキミにもできる! 英語論文の読解”である。大学に入ってからの勉強は、大抵が1年目は一般的な教養科目がメインで、2年目から学部学科の専門科目が増えてくる。その中でも外国語科目は1年目から常に必修である。第二外国語はともかく、第一外国語である英語は大学後半で非常にお世話になるから、真面目に勉強しておけと先輩にアドバイスされていた。そのため、異世界でも内容が共通しているであろう英語を自主的に学んでいるのである。英語を筆頭とする外国語が非常に苦手な俺は、これをさぼるとあっという間に劣等生になってしまう。異世界から現代日本に戻れたところで再履修、という憂き目には遭いたくないので、定期的に頑張らなくてはならないのだ。

 ちなみに、英語の勉強を始めた俺に、リボーンはしきりにイタリア語の勉強を勧めてきた。そういえばマフィアの本家はイタリアで、ボンゴレとかいうマフィアもイタリアにあった。もちろん速攻でお断りしたのは言うまでもない。イタリア語は第二外国語に選択してもいないのだし。

 とは言うものの、基本的にリボーンは、勉強している時の俺にはちょっかいを出して来ない。次代の後継ぎ(仮)がお馬鹿になってもらっては困るのだろう。だが、合間を見計らってしょっちゅう俺にマフィアの勧誘をするのは、日常茶飯事になったとはいえ非常に鬱陶しかった。慣れることと不愉快でなくなることはイコールではないということだ。

「いい加減に諦めろよ」

 参考書を机に置き、じろりと横目でリボーンを睨むと、彼は俺を鼻で笑った。

「何度言ったら分かるんだ。オレのように優秀な家庭教師は、生徒が駄々を捏ねる程度じゃ諦めないものだ」

「へー。だったら自称・優秀な家庭教師様。是非とも俺に教育方法論をご教授願いたい」

「重大な失敗を犯した人間の教育として、指を切り落とすのは生ぬるいとだけ言っておくぞ」

「体罰すら通り越して最早拷問じゃねえか」

 話題が平行線を辿るだけでなく、最近ではお互いの線上から銃撃戦でもしている気分になる会話にうんざりした俺は、机に頬杖をついて窓に目を向けた。その行動に特に意味はなかった。だが、窓を見た俺は、思わず瞠目して言葉を忘れる。

 俺の視線の先には、窓に張り付いてこちらを凝視する、これまたどこぞの可愛げのない自称マフィアのように、2頭身という生物界の常識を覆す幼児の姿があった。……ツッコミ所しかないので逆にどこからツッこむべきか悩むが、とりあえずひとつずつ話題に取り上げてやろう。そもそもこの場所、俺の自室は“2階”である。1階でも半地下でもなく、2階なのである。幼児どころか普通の成人ですら、何の補助もなく辿り着くには、鳶職かプロの空き巣でもない限り不可能に思える。ちなみに、俺の部屋の窓のすぐ傍には、家の屋根に届くほどの木が生えている。だが、その木と窓の距離は、俺にその木から部屋の出入りをするという、ある意味ジュブナイル的ロマンを諦めさせる程度のものである。そして、両手両足に何も装着していないというのに窓に張り付くという、物理法則を無視した現象。幼児が身に纏っている牛柄のベビー服にも、同じ柄の小さな靴下にも、そして紅葉のような手にも、吸盤的な何かが付いている様子はない。さらに幼児の体型が2頭身で……いや、これはもうリボーンと対面した際に内心でツッこんだことなので、今更繰り返す必要もないだろう。要するに、ファンタジックの塊が、俺の部屋の窓でファンタジックな現象を起こしているということだ。

 もじゃもじゃな黒髪に、ヘアアクセサリーと思われる牛の角を付けた幼児は、俺に気付かれたことを悟ると、ぱああっと顔を輝かせた。そしてどこからともなく玩具の黒い銃を取り出すと、右手に掴んだそれの銃口をこちらに向け、引き金を引きまくる。何故彼の持つ銃が玩具だと断言するのかと問われれば、幼児がいくら引き金を引いても弾丸は一向に吐き出されなかったからだと答えよう。

「……おいリボーン」

「そもそもお前は、マフィアをただの犯罪者集団と思っているだろう」

「一般人からすればそれで間違いないだろうが。それはいいからお前の知り合いどうにかしろ」

「いいか、ツナ。マフィアの起源は中世シチリアの農地管理人が」

「誤魔化すな。あとしれっとマフィア教育すんな」

 どういう原理で窓に張り付いているのかはさっぱりだが、何にせよ危なっかしい。俺は椅子から降りると、窓の鍵を開けて、幼児が引っ掛からないように慎重に窓をスライドさせた。

「おい、人の家の窓でなにやってるんだ」

 どうせリボーンのように、見た目が幼児で中身が推定大人の変人なのだろう。そう思ってぶっきらぼうに声を掛けると、牛幼児は思いの外やんちゃに笑い出した。

「フハハハ! 窓が勝手に開いたぞーっ!」

(いや俺が開けたんだよお前の目の前で)

 考えなしの悪ガキそのものといった様子に、俺は思わず訝しげな顔をした。単純にそういう口調の駄目大人であるとすればもう言うことはないが、牛幼児の言動は根っからの子どもっぽさを感じさせる。演技だろうか素だろうか、俺が判断しかねていると、牛幼児は室内に飛び込もうとして足を盛大に滑らせた。

「くぴゃっ!?」

「おっと」

 真っ逆さまに落下しかけた体を、俺は寸でのところで捕まえることに成功した。俺の細っこい腕は幼児の体を支えることに難儀したが、さすがに2階から落ちれば死にかねないので、必死に部屋の中に引っ張り込む。そして俺は両腕で牛幼児を抱き上げたまま、至近距離で話しかけた。

「こら。こんなことしたら危ないだろう。ケガしたらどうするんだ?」

 すると牛幼児は、大きな目でぱちくりと瞬きして俺を見上げてから、「ガハハ」とガキ大将のような笑い声を上げた。

「ランボさんは世界最強だから大丈夫だもんね!」

(……こいつ、正真正銘の子どもだ)

 どうやらランボというらしい牛幼児は、外見に見合った頭の中身らしい(それにしては会話がしっかりと成り立つが)。なんだろう、本当の子どもだと思うと、今までの奇行を許してやりたくなる。これがエセ幼児(リボーン)と真性幼児(ランボ)の差であろう。もしくは、ファンタジック過ぎる日常で、多少の奇行は許せるほど心が疲れているのだろう。まあ、本物臭い銃を向けてくる幼児や、本物のダイナマイトを投げる不良の相手をすることが、俺の心身の摩耗に一役買っていることは間違いない。

「そっかそっか。世界最強なのか。すごいなぁ」

 俺は目を和ませると、ランボの頭をぽんぽんと撫でた。ランボの黒い髪は地毛の天然パーマらしく、触ると思いの外ふわふわとしていて、触り心地が良かった。ランボは世界最強が肯定されたからか、あるいは頭を撫でられたからなのか、嬉しそうににへっと笑った。人懐っこい子どもである。これ幸いと俺は続けた。

「でも世界最強だとしても、うっかりケガしたら最強じゃなくなっちゃうんだぞ」

「うっ……そ、それは困る」

 そう言うと、ランボは俺の腕の中でもごもごと身じろぎした。可愛い奴である。

「他人の家に入る時は玄関から。世界最強はケガに気を付けて、なおかつ礼儀正しくないとな」

「そうか、分かった! オレっちは最強だから、そのくらいできるんだぞ」

 リボーンと違いとても単純なお子様は、俺の言葉をあっさりと受け入れて笑った。素直な良い子である。だがその良い子は、俺の肩越しにリボーンの姿を認めると、態度を一変させた。

「そうだ! 見付けたぞリボーン!」

(やっぱり知り合いかよ)

 ランボはバッと俺の腕から飛び降りると、べちゃりと顔面から床に着地した。おい大丈夫か。そしてランボは右手の銃を突き付けながら叫ぶ。

「久し振りだなリボーン! オレっちだよ、ランボだよ!!」

 だがリボーンは視線を俺に向けると、ランボに一切の関心を示さない態度を前面にして口を開いた。

「農地管理人が農地を護るために武装したのが起源だ。それから農民を搾取して」

「その話まだ続いてたのかよおい」

 ランボはリボーンにご執心だが、一方のリボーンはいっそ清々しいまでに無関心のようである。それに腹を立てたランボは、ベビー服の中から小振りのナイフを取り出した。――は?

「コラー! 無視すんじゃねー! いてまうぞコラー!」

 ヤのつく自由業を彷彿とさせる言葉遣いだが、ナイフを所持していることはもっと恐ろしい。リボーンがナイフを持った幼児程度にどうこうされるとは思えないが、ナイフはいつ誰が持っていても物騒なものである。

 ランボは到底ペーパーナイフには見えない得物を銃の代わりに持つと、それを振り翳しながらリボーンに突進した。幼児とナイフの組み合わせに動揺した俺は動けない。まさかランボを撃つつもりじゃないだろうな、といささかずれた心配をしていた俺だが、それは杞憂に終わった。

 リボーンはその場から半歩脇に体をずらすと、左手1本でランボの体を背後へ受け流した。碌に視線を向けることすらしていないその動きは、明らかに玄人を思わせる。哀れランボは、呆気なく顔面から勢い良く壁に激突した。自業自得とは言え、鼻血を出していないか心配である。

 だが鼻血も涙も我慢したらしいランボは、壁から顔を引き剥がしてこちらに振り向きながら、完全に強がりと思われる笑みを浮かべた。

「おーいてー……。何かにつまずいちったみたいだ」

 彼(だろう、オレっちと言っているので)の頭の中では、今の出来事はそう解釈されたらしい。どう考えても躓いたとは思えないのだが、彼がそう言うのならばそういうことにしておいてやろう。

 ランボはよたよたと立ち上がると、両手をバタバタとさせながらリボーンにアピールを始めた。

「イタリアから来たボヴィーノファミリーのヒットマン、ランボさん5歳はつまずいちまった! 大好物はブドウとアメ玉で、リボーンとバーで出会ったランボさんはつまずいちまったー!」

 素晴らしく説明口調である。というかお前もイタリアから来たのかよ日本語上手すぎる。そして自称ヒットマンなのか。すぐさま家に帰れと言いたくなったが、この幼児(5歳どころか2、3歳に見える)に飛行機のチケット手配ができるようには思えない。誰か保護者でも一緒に来ているのだろうか。例えば、幼児をバーに連れて行くような、俺にしてみればあまり褒められた行動を取らない類の大人が。……いや、リボーンお前、バーに居たことがあったのか。やはり奴は見た目幼児の中身大人である。

「ってことで改めてリボーン! オレっちだよ、ランボだよ!」

 これでどうだと言わんばかりの輝かしい笑顔を浮かべたランボに、だがやはりリボーンは無反応だった。完全に居ない者として扱うつもりらしく、彼は背後の幼児を無視して俺に目を向ける。

「農民からの搾取に加えて、政治的支配者――当時の大地主との繋がりを深めていったわけだ」

「少しは聞いてやれよ」

 ついでに、マフィアの成り立ち講義も続くようである。いらん。

「あ、そうだ! 今回は色んなおみやげ、イタリアから持って来たんだよなーっ」

 リボーンのつれない反応に涙目になりかけたランボは、だが気を取り直すと、牛柄のベビー服をまさぐり始めた。あの一見すると普通のベビー服の収納は、一体どうなっているのだろうか。仕組みはともかく、中身はあまり知りたくない。

「次いで19世紀の統一イタリア王国での政治情勢も、マフィアの成り立ちに大きく関係している」

「お前には血も涙もないのか」

 幼児の必死な構ってちゃん行動にリボーンは冷たい。うっかりそう漏らすと、彼はニヒルに口の端を歪ませた。

「マフィアには血の掟(オメルタ)があるぞ」

「そこは聞いてない」

 というか聞きたくない。

「今回はボヴィーノファミリーに伝わる色々な武器をボスからお借りしてきたのだじょー」

 ランボは精一杯明るく言ったが、目が完全に潤んでいた。ぼそりと「が・ま・ん」と呟いていたので、無視され続けることに精神が限界を越えようとしているらしい。リボーンがその気なら、俺だけでも相手をしてやろうかと思っていた俺は、次の瞬間、ランボが取り出したものを見てぎょっと目を剥いた。

「ジャジャーン、10年バズーカ! これで撃たれた者は5分間、10年後の自分と入れ替わるんだぞーっ」

「戻って来い物理法則!!」

 ランボが両手で抱えているのは、鈍く光るバズーカ砲だった。……どう見ても、ランボの身の丈の3倍はあるバズーカ砲だった。牛柄ベビー服の収納力は、ドラえもんの四次元ポケット並みである。それを支えるランボの腕力は一体どうなっているのか。あのバズーカ砲は発泡スチロール製なのか。いやとてもそんな風には見えない。そして何より、俺の家にそんな得物を持ち込まないで欲しい。むしろ日本国内に持ち込まないで欲しい。対戦車ロケット発射器をリボーン相手に持ち込むのは、明らかにオーバーキルものである。お前は、ロケットランチャーを所持していた福岡の怖い自営業の方のお友達か。俺はお友達越しでもお知り合いになるのは遠慮したいので、今すぐバズーカ砲ごとイタリアに帰国していただきたい。ちなみに、バズーカ砲の効果はスルーしておく。信じられるかそんな効果。

「統一イタリア王国にシチリア島が統合されたんだが、大地主もシチリアの民も政府に不信感を抱いていた」

「でもこれは見本展示品。もったいないからしまっちゃおー」

 リボーンは相変わらずのスルー力を発揮していたが、俺が反応していたから満足したのか、ランボはベビー服にバズーカ砲をしまい込んだ。最早何も言うまい。

「大地主ってのは、伝統的に中道なんだ。だが当時の王国政府には右翼も左翼もわんさかいた」

「まあっ、いいもん見っけ! あららのら、これ何かしら?」

「……ちょっと待て」

 続いてランボが取り出した物を見た俺は、今度こそ凍り付いた。幼児の手の平には余るが、俺の手には収まりそうな大きさの塊。深い緑色のそれは、ミリタリーオタクでなくても知っているほど有名な戦場のパイナップル、人呼んで手榴弾であった。爆弾系に関しては、獄寺の例があるので偽物とは言い切れない。

 ランボはいとも簡単に手榴弾の安全ピンを引き抜くと、それを持った腕を大きく振りかぶった。その光景に、俺は顔から血の気が引くのを感じた。ランボはリボーンだけを攻撃しようとしているのだろうが、こんな狭い部屋で手榴弾が爆発すれば、俺もランボもただでは済まない。そもそも手榴弾の攻撃方法とは、爆風のみならず、その破片を周囲に撒き散らし、範囲内に居る者を殺傷するというものである。つまり、確実に相手にぶつける必要はなく、相手の周囲に手榴弾が落ちれば良い。恐らくこの部屋は手榴弾の攻撃範囲内だろう。

 全身がズタズタになる未来を一瞬で想像できた俺は、どうにかしてランボを止めようと手を伸ばした。ランボの射線上にはリボーンが居るが、その背後に居るのは俺である。このまま投げられて本当に爆発したら、かなりの高確率で重傷を負うか、最悪死にかねない。リボーンのとばっちりで死ぬのは御免である。

「加えてかつてのシチリア王国では、フランス人やスペイン人からの圧政があった。だからシチリアの民も、住民同士の互助組織を通じて、各々の時代の外国人支配者に抵抗していたんだ」

「死にさらせ、リボーン!」

「余所でやってくれ!!」

 マイペースを貫くリボーンに襲いかかるランボ、絶望する俺。リボーンは叫ぶ俺を嘲笑うかのように、再びあっさりとランボの背後に回る。そしてあってないようなリーチの短い足を伸ばし、ランボの背中を蹴り付けたのだ。見た目の割に鋭い動きなのか、ファンタジー的な補正で怪力なのか、ランボは手榴弾ごと呆気なく開きっ放しの窓から外へ放り出された。そして空中で爆発、直後に地面に何かが叩きつけられる音が響く。

「…………これ、さすがに死んだんじゃないか?」

 窓の下を覗き見る勇気が無い俺は、恐る恐るリボーンを見た。リボーンは憎らしいことに、涼しい顔をしている。

「知り合いでもない奴の生死は知らねーな」

「は?」

 思わず眉をひそめると、リボーンは小さな肩を器用にすくめてみせた。どうやら彼は、本当にランボに関する記憶がないらしい。どういうことだ。

「どっちみち、ボヴィーノと言えば中小ファミリーだ。オレは格下を相手にしねえ」

「だったら一般人を相手にしてないでイタリアに帰れよ」

 切な願いを込めてそう言うが、リボーンは当然のように聞き入れなかった。

「お前はボンゴレのドンになる男だ」

「ならねえよっ!!」

 この赤ん坊は、格下と一般人に厳しいようである。



prev | next


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -