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ザレイズに突っ込まれたルク兄さん4
萌え 2020/08/10 23:39

・子どもと子どもではない彼(ルーク視点)





 別の世界の“ルーク”は、ルークとは全くの別人と言っても差支えがなかった。「なぁんか、キラキラしてるよね」とはアニスの言だが、その感覚はルークにも分かる。ルーク個人の感想としては、それに“ひょろひょろで弱そう”と付け加えたものになる。評価が見た目に偏っているのは、ルークが知っている彼の姿が迷宮の入口で倒れているものしかないからだ。けれど、その僅かな時間でも分かるほど“ルーク”は線が細くか弱そうだった。とてもではないが、ルークが扱っている片刃剣を振り回せるとは思えないほどに。ルークはなんとなく彼が自分と同じレプリカであると察していたため、自分よりむしろイオンに近い風情の彼には不思議な気分になった。この違いこそが別の世界である証左なのかもしれないし、もしかするとオリジナルであるアッシュが病弱な世界なのかもしれない。けれど本人の話を聞かぬままそんなことが分かるはずもなく、ルークは数日間ほどもやもやとした日々を送った。

 彼を保護した翌日には会いに行ったというガイは、「何というか……ルークとは違うお坊ちゃんだった」と複雑な表情で感想を述べていた。これに対して「虫も殺せない系?」と発言したのがアニスで、さらにはキラキラという感想が飛び出したわけだが、ガイは腕組みして悩ましい表情をするばかりだ。ようやく絞り出した答えは「すごく、育ちのいい、公爵子息……だな」だった。ルークも食事のマナーなど仕草の端々で育ちの良さを指摘されることがあるが、それを知るガイがわざわざそう言うのだから、あの彼はきっと言動全てがお上品なのだろう。思い出してみれば衣服はルークと違って肌の露出なんてないし、控えめながらフリルのようなものだって付いていたし、肌はルークより白くて長い髪はツヤツヤしていた。長旅の厳しい環境に晒されたルークと違って、まるで屋敷の中にずっとしまい込まれていたように。……ルーク自身は、様々な場所を目の当たりにできる旅が好きになったから、容姿のことなんて気に掛からないけれど。

「注視すべきは彼だけではなく、そのお付きの騎士と使用人もでしょうねぇ」と述べたのは、保護してから三日目に彼と面会したジェイドだ。実のところフォミクリーの開発者ということで、保護した当日にジェイドは密かに彼を診察していたのだが、意識のある状態で会うのはその日が初めてとなる。雰囲気の違うもう一人のガイと共にいる白光騎士の青年・ヴィンセントのことをルークは知らない。正確に言うと、レプリカだと知れわたって屋敷中から腫れ物に触れるような扱いを受けていた頃、ルークの鍛錬の相手をしてくれた騎士の中の一人ではないかとは思っている。だが、兜に隠れていたので顔を知らない。騎士の中で一人だけ双剣使いがいたので、きっとその彼だろうと見当をつけているだけだ。もしあの時、彼の名前を聞いていればと後悔したけれど、名前を聞いても恐らく、ルークとルークの世界の彼との関係は何も変わらなかっただろう。自分とガイの関係が、別世界の彼らとは違う予感がするように。

 ともかく、その騎士ともう一人のガイを含めて彼と会ってきたジェイドは「彼らは立派な忠犬なので、もう一人のルークを揶揄う時は空気を読んでやるように」とまるで参考にならないことを言った。そもそも揶揄わないようにとは言わない辺りがジェイドである。その場にいたジェイド以外の全員が半眼になったのは当然の成り行きだった。

 保護してから四日目に「あの人、相当な誑しな上に頭良さそうなんですけど〜!」と顔を真っ赤にして飛んできたのはアニスだ。どうやら、様子を窺うついでに得意のぶりっ子を発揮したところ、彼に「母上から、女の子はみんな生まれながらのお姫様だと聞いているよ」と微笑まれて頭を撫でられたらしい。しかもアニスが「アニスちゃん、本気になっちゃいそう」と茶化したところ、「君は賢い子だから、勘違いなんてしないだろう?」と返されたのだとか。……ルークには絶対に真似できない発言なので、彼は間違いなく別世界の人間だとルークは確信した。幼馴染のガイは遠い目をし、同じく幼馴染のナタリアは「さすがおば様、素晴らしい心掛けですわ」と目を輝かせていた。アッシュがこれ以上ないくらいの渋面になったのは仕方がないだろう。もちろん、アッシュもそういう言動を取れる性格ではない。「案の定、あしらわれましたね」と朗らかに告げるジェイドに、アニスは森で見かけたリスのように頬を膨らませた。

 五日目に会いに行ったのはナタリアとアッシュだ。当初はナタリアとティアで会いに行こうとしていたが、歩く岩石のような顔をしたアッシュを見たティアが遠慮したのである。アッシュを見るティアの眼差しがやたらと生温いのが印象的だった。なお、ナタリアの感想は「私よりか弱い姫ですわ」で、アッシュは「なんだあいつ」だった。……実のところ、ルークはナタリアのことをか弱いと思ったことは一度もないし、何となくアッシュも同じだろうなという気がするのだが、ガイが必死に首を横に振るので口にするのは避けておいた。ルークの中のか弱い女性像はシュザンヌである。ランバルディア流アーチェリーのマスターランクを修め、巨大な魔物に一切怯まず矢を雨あられと射かける女性ではない。一方、アッシュは最初の一言だけで黙り込み、まるで参考にならなかった。

 六日目に会いに行ったのはティアだ。ルークはそわそわしながらティアを見送り、落ち着かないまま帰りを待ち、どうしてか後ろめたい気持ちで彼女を出迎えた。ティアはまるでルークの内心を見抜いているかのように、開口一番で告げた。

「彼は名前が同じだけの別人よ。私にとってのルークがあなたしかいないことに変わりはないわ」

 ルークは急に目が覚めたような思いになった。そして、自分が彼を少し怖がっていたことに気付いた。

 だって、彼に対してみんな好意的だった。アッシュはよく分からないが、誰もが複雑な顔はしても、世間知らずとかわがままだとか、そういった感想は一切出なかった。だから比較されて皆に呆れられてしまうような気がして怖かったのだ。もう皆が自分を認めてくれているのを知っているのに、卑屈な自分がひょっこりと顔を出してしまっていた。もしも、再び誰もが自分に背中を向けるようなことになれば、と想像するだけでルークは足元が崩れ落ちそうな恐怖に襲われた。……いや、“あの時”は手を伸ばしてくれた相手もいたけれど。

「悪いことなんて何も起きないわ。気になるなら、会いに行けばいいのよ」

 かつて、ざんばらに切った髪を整えてくれた彼女に背中を押され、ルークはおっかなびっくり踏み出した。ここ数日、あまり通らないようにしていた廊下は、アラミス湧水洞より平坦で遥かに歩きやすい。あの道の先のようにガイは待っていないし、ティアも隣にいないけれど、もうルークは一人で大丈夫だった。ティアたちが代わる代わる彼に会いに行っていたのが、結局はルークのためだと理解できたのだから。

 そうして会いに行ったもう一人のルークは。

「お、やっと来たなルーク君。お兄さん、待ちくたびれてカーティス大佐に発破かけるところだったぞ」

 ――思った以上に自分と似ていなかった。それから、思ったよりキラキラもしていなかったし、ヒョロヒョロでも図太そうだった。おまけに、ベッドに腰かけている彼の膝の上に、見慣れた青い聖獣がいる意味を察したルークは、挨拶をする余裕もなく一気に赤面してしまった。そんなルークを見た彼は、子チーグルを意味深に眺めてから悪戯っぽく笑う。

「愛されてるな」

 その姿に、マルクト帝国皇帝の姿を垣間見たルークは、赤いままの顔を引き攣らせたのだった。



+ + +



実際のルク兄はピオニー陛下には振り回される側なので、そこまで似ているわけでもないです。ただ、ジェイドとは口喧嘩が成立するレベルではある。そして真面目で優秀なフリングス少将は引き抜きたいなぁと思ってる。

ルク兄さんはルーク君の心境を察していたので、最後の方に来たティアが上手く誘ってくれないかなと期待してました(原作ガイはルク兄と距離を計りかねてたので除外)。駄目ならジェイドにどうにかさせようとしてました(大人には容赦ない+遠慮のいらない相手)。



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