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常識を諭されるトレーナー志望
萌え 2020/07/28 01:07


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味





 後からよくよく思い出してみれば、そういえば有名人だったこの男・キバナ。溢れ出る陽キャオーラに内心怯んでいた俺だが、実際に会って話してみれば普通に気のいい兄ちゃんであった。こそっと動画で見たところ、バトル中は相手に食いつかんばかりの凶悪な目つきをしているが、普段は穏やかな垂れ目で、ノリも良ければ面倒見もいい。そもそも、育成には非常に手がかかると言われるドラゴンタイプのジムリーダーなのだから、面倒見の良さは折り紙付きなのだろう。ゴーストタイプ? ……愛と殺意がちょっとだけ重めという特徴があるかもしれない。文句はポケモン図鑑の本文を考えた奴に言ってくれ。

 ともかく、そんな面倒見の良さに引っかかったであろう俺は、なし崩しで主にドラメシアとモノズの世話の仕方を彼から習うことになった。ドラメシアという名前は「恨めしや」から来たんだろうなと思うと複雑だが、当の本人、もとい本ポケモンは泣き虫の甘えっこで可愛い。元々、ドラメシアは二匹セットで最終進化形であるドラパルトに寄り添うものらしく、その代わりとばかりに同時に拾ったモノズにくっついている。モノズの方はドラメシアに愛着があるのか、くっつかれてもピィピィ鳴くだけで噛み付いたりしない。これはキバナ曰く、相当珍しいとか。なお、俺の手はたまにポケモンフーズごとモノズに噛み付かれている。もちろんオーラでガードしているが、あまり噛ませ続けるとモノズの歯に良くないかもしれないので、その辺りは躾をしていった方がいいだろう。……キバナは何度もモノズの歯の生え具合を確認していたので、本来ならば心配されるのは俺の手の方なのだと思われる。そして、当初は用意されていた人間用の救急箱が用意されなくなったので、色々諦められたとも思われる。

 なんやかんやで世話を通じて交流が続くと、年が近いということもあり、俺とキバナは友人同士と言える仲になっていた。住んでいるのが同じナックルシティというのも良かったのだろう。そういえばキバナと友人になったことをテオさんに報告していなかったが、まあ完全にプライベートのことなので現状維持とする。キバナをモデルとしての俺の売名行為に利用する気はないので、ポケッターでも欠片も話題に出していない。キバナの方は彼の判断に任せているので、特に何も言っていない。どうせ彼の方が俺より遥かにSNS慣れしているので、載せるも載せないも上手くやるのだろう。今のところ、キバナのSNSに載っているのはドラメシアとモノズ、フライゴンのスリーショットくらいだ。ウチの子の写真うつりの良さには感動を覚えた。やっぱりウチの子が一番可愛いという価値観は世界を超えて共通である。写真はもちろんすぐさま保存した。

 ところで、親しき中にも礼儀ありとは言うが、親しくなると徐々に気安くなるし、物言いも軽くなる。会話が増えれば相手の内情について知る機会も増える。人柄を見て問題ないと判断できれば、話す内容も深くなっていく、が。そのせいで、キバナにツッコミ属性が生えた。

「ハァ――!?」

 ちびっ子コンビもある程度落ち着き、キバナとは一、二週間に一回程度合う仲になった頃だった。俺が侵入許可証なしにワイルドエリアに入りまくっていたことがとうとう彼にバレた。むしろ今までバレなかったことが不思議なくらいだ。深夜のファストフード店にある二階席の片隅で、互いの仕事帰りに会って飯を食っている最中のことである。有名店とのコラボだというスペシャルボブバーガーに齧り付いていたキバナは、鼻からトマトソースを噴き出しそうになりながら驚いた。その割には、瞬時に声を低めてボソボソと俺に追及してきたくらいには切り替えが早い。

「おっまえ、嘘だろ!? なんで許可ねぇのにワイルドエリア入ってるんだよ! いやどうやって入った!?」

 どうやってって、徒歩で。そう答える前に、キバナは片手を上げて俺を制した。

「待て分かった。アレだな、アーマーガアタクシーの運転手を言い包めて、エリア内で下りたんだろ」

 でかいカラスに(乗り物部分を)鷲掴まれて運ばれるという、できるなら乗りたくないと思っている交通機関をわざわざ利用したりはしない。俺はフライドポテトを飲み込んでから首を横に振った。添え物のチーズソースが美味すぎて止まらないので、左手は既に新しいフライドポテトを摘まんでいる。

「いや、普通に塀を乗り越えた」

「何が普通だ! 一般人は普通に塀は乗り越えねぇんだよ!!」

 恐らくスーパーマサラ人なら普通にできる、といい加減すぎることを言ってカントー地方に風評被害でもかまそうかと思わないでもないが、深く追及されるとややこしくなりそうなのでやめた。俺も5m以上はある塀を乗り越える普通の人は知らない。とび職でも素手でそんなことしない。

「ポケモンいる場所、そこしか知らなかったし」

「東西に道路あるだろ! そっちに徒歩で行け徒歩で!」

(……あっ)

 物凄く盲点だった。そもそもポケモンなど存在しない世界から放り込まれた俺は、ワイルドエリア以外にポケモンが生息しているとはあまり考えていなかった。実際、空を飛ぶポケモン以外で野生のポケモンは、ワイルドエリアでしか見たことがない。しかし、この世界はどこにでもポケモンが生息している。ライオンはサバンナに生息しているが、別にそこ以外にも生息域があるということである。……ということを素直にキバナに伝えたところで理解されるわけがないので、適当にはぐらかすことにした。

「ワイルドエリアも徒歩で行った」

「徒歩っつーか登攀だ!!」

 仰る通りである。なお、ワイルドエリア内の水場は、親切なラプラスさんと遭遇できれば向こう岸に連れて行ってもらえることを最近知った。ラプラスさんマジ温厚。ただ、毎回ラプラスさんとお会いできるわけでもなく、たまに青光りする筋肉ムキムキなタコが襲い掛かってくることもあるので油断は禁物である。

「ていうか道路はトレーナー以外も通れるのか」

 最初に放り込まれたのがワイルドエリアだったので、何となく町の外を歩けるのはトレーナーくらいだと思い込んでいた。事実、ポケモンを持たない人が徒歩で町の外に行く話はあまり聞かない。鉄道網が発達していることもあり、街から街への移動手段はもっぱらガラル鉄道なのである。

「うっそだろお前どこの田舎から湧いて出た。キバ湖の瞳の木の股から生まれたっつっても信じるぜ」

「いやハシノマ原っぱ」

「真顔で答えるなよ怖いだろ」

(本当なんだよなー)

 しかしハシノマ原っぱにどうやって出現したかは俺も知らないので、追及されても困る。あの時、ミミッキュと出会っていなければ今の俺と少し違う道を辿っていたのだろうか。もしかするとエンジンシティではなくナックルシティ方面へえっちらおっちら歩いて行ったかもしれないし、そうだとしたらテオさんにスカウトされることもなかっただろう。キバナと知り合う機会もなかったかもしれないと思うと、巡り会わせとは不思議なものだ。

 そのキバナは、フライドポテトにハマっている俺を見ながらしみじみとため息をついた。

「お前って結構大変な目に遭ってたんだな……。困ったことがあればオレに言えよ」

「ありがとう。でも強盗以外に会った人はみんないい人ばかりだったから大丈夫だ」

「オレさま、強盗と比べられた?」

 比べた。ついうっかり。同じ人間だと思って。白々しく笑うと、キバナは仕方がないと言わんばかりの顔でニヤリとした。

「ま、ガラルは紳士の国だからな。誠実な奴には真心を、無粋な奴には皮肉を返すもんだ」

「やっぱイギリスか」

「ん?」

「いやこっちの話」

 ガラル地方を見ていると何かを思い出すと思っていたが、かつての世界のイギリスをモチーフとした地方だかららしい。一度も行ったことのない国だが、不思議な懐かしさを感じ……はしなかった。ポケモン世界に懐かしさもクソもない。それに。

(ある意味ではイギリスに行ったことがあるのか、俺)

 魔法少年として、だが。あのスリザリンの腹黒イケメンは今頃何をしているのだろうか、と詮無いことを考えながら、フライドポテトを全部食べ切った俺は席を立った。俺の分は空になったので、トレーを片付けるためだ。このままキバナともう少し話し込むなら、ドリンクを追加で頼んでもいいかもしれない。

 二階席のトレー置き場まで来ると、そのすぐ傍にぬいぐるみが置かれていた。いや、よく見ると生きている。猫のようなウサギのような半端な長さの耳に、丸々とした胴体。黒と生成りの二色で、覆面をしているような見た目のポケモンだ。……名前は何だったか。初代組でないのは確かだが、カラーリングがカビゴンに似ているため、その進化前の個体かもしれない。そのポケモンは、首から小さな社員証をぶら下げていたので、この店の店員のようだった。

 ちびカビゴンは短い両手をぴょこぴょこと上げて俺にアピールしてきた。可愛らしいが、特に食べ物は持っていないので何もできない。

「もしかして、食べ残しが目当てだったのか? 悪いな、何もないんだ」

 この店はちびカビゴンを配置することで、廃棄食料を減らしているのかもしれない。ポケモン世界にしかできないエコな取り組みだ。ちびカビゴンがあまりにもぴょこぴょこしているので、俺は試しにフライドポテトの砂粒のような残りかすが入った紙の器を差し出してみた。

「これくらいしかないんだ……っていいのかそれで」

 ちびカビゴンはご機嫌で俺の手から器を受け取ると、口を大きく開けて中身を両手で流し込む。丸呑みか。しかし勢い余ったのか、背中から床にひっくり返りそうになったので、俺は咄嗟に空いた片手で受け止めてやった。長くて黒い毛がふわふわと指に絡みつく。食品店に勤めているためか、清潔にされているようだ。

「がっつくと危ないぞ。……もしかして余ったチーズソースも食べたいのか?」

 尋ねると、器を抱えたままちびカビゴンがにっこりと笑う。あまりに可愛かったので思わずそのまま抱き上げると、ちびカビゴンは空になった器をきちんとゴミ箱に捨てた後、俺のトレーに残っていたチーズソース入れに手を伸ばした。

「おまっ、お前えぇぇ!!」

 可愛いなぁと呑気に眺めていると、突然背後からキバナの素っ頓狂な声が掛けられた。彼も空になったトレーを持っていたため、片付けに来たのだろう。だが何故か真っ青な顔をしていた。

「なんっっで息をするように非常識なことをサラッとやるんだ!?」

「は? いや俺何もしてないし」

「バッカ! ゴンベは見た目それでも100kg以上あるんだよ! 人形感覚で持てるか!」

 ――すまない、ゾルディックミスだ。うちの正面玄関(4t〜256t。人に合わせて重さが変わるハイテク仕様)に比べたらあまりにもささやかだったので、ちょっとばかり質量多めのぬいぐるみ程度だと勘違いしていた。

「……100gでは?」

「え? マジで人形か?」

 トレーを回収台の上に置いたキバナは、俺の向かい側からおそるおそるちびカビゴン改めゴンベに手を掛ける。抱っこしてみようというのだろう。しかし本当に100kg以上あったら彼の両腕や腰がお亡くなりになるので、俺は少し力を緩めるだけにした。

「何だ、意外とかる……う!?」

 キバナが呻き声を上げた。傍から見ると、ゴンベ(100kg越え)の受け渡しをする成人男性二人組という謎過ぎる光景である。しかも、見た目では俺より身長があってがっしりした体格に見えるキバナの方が辛そうにプルプル震えている。なお、100sというと思い浮かぶのはスーパーで売られている米袋。1袋10sのものを10袋と考えれば、現代日本人的に重みが分かりやすいと思う。発想が所帯染みている? 俺は元々、一人暮らしでたまに自炊もする大学生だったので。ともかく、今の俺はその米袋を一袋ずつキバナに渡し続けている状態だ。

「ま、待て待てルイ。もういい。このままだとドラゴンストームの下半身がベトベターになっちまう」

 複雑骨折の末に液状化するのか。すげえなガラル紳士。

「俺もしかしてドラゴンバスターになれる?」

「こんなんでやめろよ!? 正々堂々バトルしろ! つーか負けねぇし!!」

 俺もこんなんでドラゴンバッジもらっても嬉しくない。あと死にそうになりながら負けず嫌い発揮するキバナがすごくジムリーダー。俺はなんとなくほっこりしながら、彼の手からゴンベを取り戻したのだった。



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拍手コメントからゴンベネタもらいましたありがとうございます。ぬいぐるみサイズなのに重さえげつないですねあの子。



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