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ザレイズに突っ込まれたルク兄さん3
萌え 2020/07/28 01:05

・探し当てた護衛騎士と


 俺とガイ(原作)がお互いの扱いに困って、空気を読むという名の笑顔の沈黙に陥ったちょうどそのタイミングで、部屋のドアがノックされた。ジュードではない別の少年の声が入室の許可を求めてきたので応えると、開いたドアから銀髪の青年と見覚えのある黒髪の騎士が入ってきた。彼が白光騎士団の正式旅装だったからか、俺の傍に居たガイがギョッとした顔になった。一方の騎士――ヴィンスは、ガイを怪訝そうに一瞥しただけで、彼をさらりと無視して俺の枕元へ駆け寄って跪いた。ヴィンスの表情から、ガイが彼の知る者とは別人と気づいていそうだったが、一応の無害判定からのスルーだろうか。基本的に無口で、他人の判断基準がシンプルに主人にとって有害か否かという彼らしい。

「ルーク様、ご無事で……!」

 違う世界の親友と同じ顔が心底安堵した表情を浮かべ、遠い世界の親友と同じ声が縋るように俺を呼ぶ。心臓を鷲掴まれたような錯覚を覚えながらも、上半身を起こしていた俺は右手を彼の頬に伸ばした。

「ああ。とても親切な人たちに拾われたんだ。お陰で怪我もない」

 頬には血こそ出ていないものの、薄い引っ掻き傷があった。木の枝か何かで擦ったのだろうか。それほど必死に俺を探してくれていたのだろう彼の献身の証を指先でなぞると、彼は瞼を伏せて受け入れた。血の臭いはしないので、命にかかわるような負傷はしていないと思いたい。

「ヴィンスも大きな怪我はなさそうで良かった。……こちらに来たのはヴィンスだけか?」

「いえ。セシルもおります。彼はルーク様が倒れていたという迷宮に残って、今もルーク様の捜索を続けておりますが」

(妥当だな)

 ヴィンスたちはジュードの仲間に俺を保護したと言われてここに来たのだろうが、それが嘘である可能性も視野に入れて、ガイを迷宮に残したのだろう。加えて、人間不信設定が追加されたガイの方が迷宮に残りたがることも分かる。

「……そうか。無事だと早く伝えてやらないとな」

 俺は薄絹を纏うような心持ちで微笑み、ヴィンスの頬から手を離した。この微笑みはヴィンスにではなく、彼を連れてきた銀髪の青年――ジュードから聞いたもので間違いなければ、イクス・ネーヴェというのだろう――に向けたものである。健康的に焼けた肌と銀髪がよく似合う、純朴で人が好さそうな青年だ。テイルズシリーズお約束の裏切り枠には到底見えない相手だが、そもそも現時点の俺たちは彼らの仲間とも言えないご身分である。俺の儚げに見える笑みは、大抵の相手には一種の威嚇として働くのだ。

「――あなたがこの集まりのリーダーですね? 配下共々、世話になりました」

「いえ、そんな! 俺たちは当然のことをしたまでですから」

 何事も第一印象が大事である。ここで舐められることがあってはならないし、敵意を持たれることがあってもならない。程よく友好的に、しかし馴れ馴れしくはならず、適切に扱ってもらえるような素地を作る必要があった。イクスが好青年であっても、その周りにいる人間は十中八九歴代テイルズシリーズのキャラなので、個性が殴り合いをしている面子のはずだ。距離感を間違うと面倒なことになりかねない。

 イクスは俺の言動を見て、焦ったように顔の前で手を振った。その頬が上気しているのは、あからさまにお上品な貴族オーラを真正面からぶつけられたことによる照れだろう。アッシュ曰く、「貴族というより箱入り令嬢だろ」だが。もちろん、言われた直後に口喧嘩して言い負かした。なんだかんだ言いつつ、アッシュは俺と喧嘩するときは絶対に手を上げない辺りが、根本的にお育ちが良く優しいお坊ちゃんである。口で喧嘩したら100%俺に負ける癖に。

「聞き及んでいるかもしれませんが。私はキムラスカ・ランバルディア王国ファブレ公爵家が次子、ルークです。こちらは我が騎士のヴィンセント・バルツァー。迷宮に残っているのは我が従者のガイ・セシルです」

「次子……?」

 思わずといった様子で呟くガイを、先ほどと同じ怪訝な顔で見やるヴィンス。ガイの中ではルークはアッシュのレプリカであって、長子だとか次子だとか考えたことがないのだろう。なお、俺のところではアッシュが長子、俺が次子で最終的に落ち着いた。精神的には逆で間違いないだろうが、アッシュがとても満足そうにしていたので黙っている。

「ヴィンス、気にするな。そちらの御人は私たちの知るガイではない。別の歴史を辿った世界のガイらしい」

 ヴィンスがガイを見やったのは、主人たる俺の許可なく話に首を突っ込むような真似をしたからだろう。だが、この場にいるガイは俺の使用人のガイではなく、別の世界かつ伯爵家当主のガイラルディアだ。問うように俺を見つめてきたヴィンスに、簡単に説明することにした。

「この御人はガイラルディア・ガラン・ガルディオス殿だ。つまり、ガルディオス伯としての道を選ばれている……私の従者であることを望んだガイとは違う」

 ヴィンスは赤い双眸を一瞬だけ見開き、そして刃のように鋭くしたかと思うとそれを隠すように目を伏せる。傍でガイが息を呑む気配がしたのは、単純に別世界の自分との違いによるのだろうが。

「…………承知致しました」

(……んん?)

 僅かな違いではあるが、ヴィンスの声が冷たい気がする。いや絶対冷たくなった。何故だと考えた俺は、その原因に気付いて内心で冷や汗を掻いた。

(ヴィンスにとっては裏切り者同然じゃん!)

 なにせガイという青年は、そもそもファブレ公爵への復讐のためにファブレ家へ潜り込んできたのだ。さらに俺の世界では、キムラスカから俺ごとアクゼリュスで始末されそうになるわ、グランツ謡将から復讐心を問われそこから六神将への勧誘されるわ、マルクト皇帝からガルディオス伯としての直答を迫られるわ、それはもうあっちこっちへ揺さぶられ、果てはヴィンスと殺し合いにまで発展したこともある拗らせ系男子のレジェンドである。そのガイが俺を選んで使用人としての道を貫いたからこそ、ヴィンスはガイを認めているのだ。そこでマルクト帝国の伯爵ルートを選ぼうものなら、断頭台との異名を持つ男の双剣がアップを始めかねない。キムラスカへ入国したが最後、俺に対する不敬罪として斬りかかりそうである。目の前のガイが別世界の人間であることと、俺が望まないことがヴィンスの抑止力になっているのだ。

(……というのを馬鹿正直に説明するのは憚られる)

 今のところ、ヴィンスはあからさまにガイを厭う態度を表に出していない。ガイたちも気づいていなさそうであるし、そういう繊細(?)な部分は触れずにいた方が得策だろう。俺はそう判断すると、ヴィンスに向けていた視線を何事もなかったかのようにイクスへ戻した。

「保護には感謝しますが、生憎と今の私に権力の庇護はありません。あまりお礼も出来ないのが心苦しい限りです」

「お礼だなんて! 気にしないでください!」

 相変わらずこちらの雰囲気に圧されているのか、わたわたとするイクスの様子は庶民感に満ち溢れていてほっこりする。そして言ったな? お礼だなんてとんでもない的なことを言ったな? 言質取ったぞ俺からの権力的なお礼はなくてもいいなよし分かった。人として常識、良識的な返礼はすると思うがそれ以上はマジでやらんからな。





・使用人は傅く(使用人ガイ視点)


 どうやら本当にルークは保護されていたらしい。イクスというらしい青年から受け取った手紙は、確かに見覚えのあるルークの筆跡だった。更にはガイとバルツァーにしか分からない暗号を添えて、イクスの安全性を保障されているのだから、信用しないわけがない。ガイはルークからの手紙を丁寧に懐にしまうと、にこりと微笑みを作った。……昔はあんなに簡単に浮かべていた笑みが、今では作らないと出てこない。いや、昔馴染みの前では自然と出るのだが、そうでない相手だと全く出てこない。仕事上それはよろしくないと分かっているので取り繕ってはいるが、こうも無害そうな青年相手でも表情筋が反応しないのは重症だ。

 イクスの先導で、恐らく丸一日くらい振りに迷宮の外へ出る。見覚えがなければ知識の中にもない、大きな建物がすぐ傍に建っているのには面食らったが、そういうものらしい。疑問は残るのだが何はともあれ、今はご主人様のもとへ馳せ参じるのが最優先だ。ガイはすぐに建物――学園都市アークとやらから視線を外した。

 彼らのアジトは得体の知れない空間内にあった。追手とやらがいるらしく、身を隠しているという。空間ごと別の場所に隠れられるのなら、うってつけと言えるだろうか。そのアジト内でルークが休んでいる部屋へ向かう道中、金髪の男とすれ違った。整髪剤で見慣れた色の髪を立て、見慣れた色の双眸がよく見える男は――ガイと同じ顔をしていた。こちらを見てハッと目を見開いた顔は随分と呑気で、もし自分が人を信じられる人間だったらこんな顔をしていたのかもしれないと思うものだった。そういえば、ルークとよく似た赤毛の少年にも迷宮で会っていたが、恐らく彼がもう一人の自分にとってのルークと思われる。自分の知るルークよりも幼そうで、素直そうで、どこか眩しい少年は、あのひよこのような赤毛を揺らしながら、もう一人のガイに懐いているのだろう。

(あれが……別の世界の俺か)

 ルークの手紙とイクスの説明で聞いてはいた。実際に現れた男に興味がないとは言わない。だが、一番大事なのはルークの無事な姿を見ることだ。あの男が生きている限り、いつでも好きに眺められるだろう(歪んだ鏡を見つめて悦に浸る趣味はないが)。ガイは声を掛けもせず、イクスを急かした。

 質素な部屋で待っていたのは、ガイの知るルークだった(バルツァーはその傍に控えている)。寝台から上半身を起こしたその身は相変わらず薄く、緩く三つ編みにして垂らされた赤毛が妙な婀娜っぽさを醸し出している。けれど人前だからと浮かべられている静謐な笑みは、俗世とは一線を引く効果を出しているので、深窓の令息としての雰囲気を守っていた。これだけ美しく完成された傷つきやすそうでたおやかな主人は、あくまでそう見せているだけなのだとガイは知っている。繊細な貴族像は家庭教師によるスパルタ教育の産物であり、彼自身は邪気のない優しい青年でしかない。そして権力にがんじがらめにされながらも、押し付けられた義務に誠実に答えようとしている彼は、ガイが守ると決めた主人だ。

 イクスが見ている手前、公としての態度は崩さずに主人の目の前で跪く。

「ルーク様……ご無事で何よりです」

 頭を垂れると、ルークの白い指が砂色の髪に触れる。汗と土埃で汚れているのであまり触れては欲しくなかったが、離れた指先を追うと小さな葉を摘まんだ主人の安堵した笑みがあったので、ガイはあっという間に呑まれた。

「此度はご苦労だった。迷宮で一夜を明かしたと聞くが、怪我はないな?」

「勿論です。あなたの僕(しもべ)たるもの、これしきで怪我など致しません」

 これだ。本質はどうであれ、彼はいくらでも化けてみせる。彼は誰かを害するためではなく、守るためにどこまでも麗人を演じてくれるのだ。それをガイは知っているから、安心して全てを捧げられる。美しき令息たる彼から信頼の言葉を向けられたガイは、自然と笑みを浮かべていた。





・数日後の彼ら(ミリーナ視点/BLではないBLに注意)


「……目覚めそうなの」

 鮮やかな桃色の髪をツーサイドアップにした少女・シェリアの震え声に、ミリーナはごくりと生唾を飲み込んだ。戦闘中にもなかなか見ない苦し気な表情に、思わずミリーナは彼女の肩に手を乗せた。ミリーナと共に洗濯物を干していた彼女の肩は細かく震えている。

「そんなつもりは欠片もないって分かってるわ。でももう耐えられない」

「シェリア……」

 気遣わし気に呼ぶミリーナを見つめたシェリアは、赤く染めた頬に手を当てながら小声で叫んだ。

「私、彼らの背景に薔薇が見えるの……!」

 シェリア・バーンズ18歳。他人の恋愛ごとが飯のタネになる少女だが、この度とうとう性別の壁を超えそうになっていた。

「分かってるのよ、違うって。リタにだって“ただの主従でしょ”って言われたもの。でも……でも……アルバートのお世話をするヴィンセントとシグムントが、どうしてもいかがわしく見えちゃうのよ!」

 アルバートとシグムントというのは、最近保護された別世界のルークとガイのことである。既に存在しているルークやガイと呼び分けるためにと、彼らはあっさり別の名を挙げたのだ。どうやら彼らの世界にある剣術の流派の開祖から取った偽名らしい。

 それはともかく、シェリアの血を吐くような言葉を聞いたミリーナは、慈愛のこもった眼差しで彼女を見つめ、その手を取った。

「大丈夫よ、シェリア。その気持ち、私も分かるもの」

「ミリーナ……!」

 二人はガシッと手を握り合う。はためく洗濯物の中で気持ちを一つにする乙女たちは、一部の男性陣を恐怖に陥れるような妄想で胸をときめかせていた。少なくとも、オールドラント人の男性が知れば震え上がっただろう。特にティアを気にしているルークやナタリアにプロポーズまでしているアッシュが知れば、己の全てを賭けて否定していたはずだ。何より、当の本人であるアルバートが聞けば「普通に無理」と切って捨てたであろう。しかし乙女たちの胸の内が彼らに知れることはなく、妄想だけが勝手に進んでいた。

「アルバートって可愛いわよね。何だか守ってあげたくなっちゃうわ。きっとあの二人も同じだと思うの」

 ミリーナは大体の人間を可愛いと思いがちな面があるが、今はその一面がシェリアのときめきを助長していた。

「絶対そうよ! 言葉尻から甘やかしてやろうってオーラが溢れてるの! 最近なんて、彼らの会話聞きたさについ部屋の前を通るようにしてるし……」

「ねぇシェリア」

 顔を覆って悶える彼女に、ミリーナは温かい微笑みを浮かべた。

「ちょうど、アルバートに渡そうと思っていたタオル類があるの。私たち、一刻も早く持っていかないといけないと思うわ」

「もちろん持っていきましょう! ちょうど洗濯物は全部干しちゃったし!」

 ミリーナとシェリアは、真っ白なタオルをひと山抱えて微笑み合った。傍から見れば可愛らしい少女たちの団欒でしかない。ないが。

「……あの場にファラがいなくて良かったぜ……」

 偶然にも通りかかった挙句に今の会話を全て聞いていたリッドが、猪突猛進型幼馴染を思い浮かべて青くなる程度には恐ろしい光景だった。





 替えのタオルをお持ちするという重大な任務を持ったミリーナとシェリアは、件の公爵令息に宛がわれた部屋の前で立ち止まった。ここはアルバートが療養している一人部屋だが、大体ヴィンセントかシグムント、もしくはその両方がいる。そのため、渾身の力で気配を消して全神経を耳に集中させれば、彼らの会話を聞くことができるのだ。……もしかしたら護衛役二人にはバレているかもしれないが、怒られてはいないので、主人に危害が加わらなければ気にしないのかもしれない。

 乙女たちの地獄耳は、木製の扉の声を捉えた。

「……ガイ。体力はかなり回復したから、ブーツくらい自分で履ける」

「そう仰らずに」

「俺にも自立心というものがあってだな」

「これ以上そんなもの必要あります?」

「真顔やめろ」

 シェリアが心臓を押さえてよろめいた。従者の押しが強い、と口パクで言っている。

「ルーク様の自立心なんて、もう十分すぎるほどおありでしょう? どうせあなたのことですから、俺やバルツァーがいなければどこか働き口を探して、医療体制が充実した町で慎ましく一人暮らししようだなんて考えていたのではないですか?」

「そこまで正確に頭の中を読まれると引く」

 たおやかな見た目に反してしっかり者で強いのね、とミリーナは感心した。しっかり者で可愛らしいわ、とうんうん頷く。

「一般的な貴族はそのようなこと、欠片も思いつきませんよ。俺はあなたのそういう雑草魂が好きですけどね」

 もうこれは恋だわ、とシェリアがやはり口パクで言った。告白までしたのだからお赤飯でも炊くべきかしら、と考えるシェリアに対して「こういうところがやたら日本的」とメタなツッコミをする雑草貴族は扉の向こう側だ。

「仮にも主を雑草呼びとか」

「高貴な雑草です」

「枕詞つけとけば何でもいいわけじゃないだろ」

「せめて俺に植木鉢くらいは用意させてください」

 シグムントの控えめな主張に目を輝かせるシェリアをよそに、思いのほか冷静なアルバートの声が響いた。

「…………それはプランター栽培という名の監禁では?」

 とうとう顔を真っ赤にしたシェリアが持っていたタオルを落とした。それを危うくキャッチしたミリーナは、彼女が「愛するが故に監禁するのね……」と感動しているのを目の当たりにした。とても幸せそうだ。幸せそうなシェリアを見ていると、ミリーナまで嬉しくなってくる。

 ところで、会話を聞いていると思いの他アルバートの口調が貴族らしくない。まるで生意気な子猫のようで可愛いとミリーナが考えていると、もう一人の声が聞こえてきた。

「セシル、ルーク様にご心労を加えるな」

「植物の栽培方法について話していただけです」

 騎士ヴィンセントの登場にシェリアのワクワクが止まらない。身を乗り出すシェリアに応えた訳ではなかろうが、ヴィンセントがさらに発言した。

「……ルーク様、草むしりでしたら私にもできます」

「ヴィンス、そうじゃないしお前が言うと洒落にならない」

 どういう意味かしらとミリーナは首を傾げる。一方のシェリアは「三角関係っ……!」と感極まって床にくずおれた。



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特徴のあるルク兄の筆跡:日本人がローマ字を思い浮かべつつ必死に覚えた文字です。

ヴィンスの草むしり:ルク兄「断頭台的な意味での草むしりにしか聞こえない件について」

ミリーナ様にかかると大体のキャラは可愛いし、イクス君は常に素敵になる。



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