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ザレイズに突っ込まれたルク兄さん2
萌え 2020/07/16 01:13


・伯爵位を捨てた男(ルーク視点)



 ワイズマンがやらかしたらしい。やらかしたというか、トラブルが起きたというか。学園都市の一部が迷宮と化して、光魔(こうま)が発生したのだ。それに加えて、迷宮の入口でルークそっくりの誰かが倒れているし(何だかヒョロヒョロしていて弱そうだった)。彼をジュードたちに預け、ルークがイクスたちとさらに奥へ進むと、誰かが通路の先に立っているのが見えた。相手もこちらに気付いたのか、振り向く。振り向いた男の姿には見覚えがあった。下した砂色の短髪に、どこか昏く光る碧眼を備えた端正な顔立ち。地味な色の外套を纏った青年は、雰囲気こそ違えどガイ・セシルに間違いなかった。

「ガイッ!」

 驚いたルークの声に、碧眼が僅かに見開かれる。

「お前、いつこっちに来たんだよ?」

「ルーク、待って」

 無防備に彼に歩み寄ろうとしたルークを、咄嗟にミリーナが引き留めた。不思議そうにするルークに、「様子がおかしい」と囁いたイクスは、仲間を庇うように一歩前に出た。イクスは石橋をしつこく叩いてから渡る性格だ。普段と雰囲気が明らかに異なっているガイに警戒するのは当然だった。

「……俺たちはこの迷宮を調査しに来ました。あなたはどうしてここに?」

 主にルークを見ていた碧い視線がイクスに移る。その時になってようやく、ルークはガイの様子が確かにおかしいと気づいた。青年は僅かに口角を上げてみせる。

「――見覚えのない場所に立っていたから、様子を見て回っていたんだ。わざわざ調査をしに来たというなら、君たちはここがどこなのか知っているのか?」

 声色は間違いなくガイと同じで、口調も同じだ。だが、ルークに名を呼ばれたことに対して全く反応を示さない。顔や声が同じ別人なのだろうかと考えたルークは、彼の正体について疑問に思った。ルークの知っているガイは確かにアジトにいるので、何者かに体を乗っ取られているわけではない。ならば彼は自分のようなレプリカなのか、それとも。

「ここは学園都市アークの一部に出現した迷宮です。俺たちはここに現れた光魔を倒すことと、巻き込まれた人たちの保護のためにいるんです」

「巻き込まれた……」

 青年はイクスの言葉を反芻すると、僅かに小首を傾げた。

「俺や誰かが何かに巻き込まれて、この迷宮とやらに散らばっているということかい?」

「そうです」

「なるほど……」

 頷くと、青年はさっと踵を返した。「どこへ行くんですか!」と咄嗟に叫ぶイクスに振り向かず、青年は片手をひらりと上げた。

「俺も手分けして手伝おう。その方が効率がいい」

 そのまま彼はどんどん遠ざかっていく。一人では危ないと叫ぶイクスを気に留める様子がない。慌てて追いかけようとしたルークを、今度は今までずっと黙っていたユーリが引き留めた。首根っこを掴まれたルークは「何だよ!」と怒って振り向くが、ユーリが真剣な顔をしていたので肩を震わせた。

「あっちの兄さんは俺たちのことが信用ならねぇらしいな」

「え?」

「あの野郎、ずっと外套の下で剣を握っていやがった」

 ルークは思わず息を呑んだ。雰囲気こそガイとは違ったが、穏やかに話をしていた中でそんなことがあったとは全く気付かなかった。ルークは最初に自分を引き留めたミリーナを見たが、彼女もユーリの言葉に驚いた顔をしていた。ミリーナはルークの視線に気付くと、「私はなんだか様子がおかしいって思っただけよ」と答えた。さらに「私たちの知っているガイだったら、笑顔で駆け寄ってきてくれるもの」と続ける。確かに言われた通りだ。あの青年は小さく微笑みを浮かべていたものの、元から立っていた場所から一歩も近付いては来なかった。

 ユーリは顔を顰めて黙り込むルークの頭を、乱暴にガシガシとまぜっかえすように撫でた。

「ガイに似ているからと言って、ホイホイ近付くのはやめておけってこった。特にお前はな」

「何で俺だよ」

「お前のことを観察してたからだよ」

 ガイとは違った兄貴分のようなユーリの目が怜悧に光るのを見て、ルークは首をすくめる。たまに彼らは、とても大人になる。そう言う時の彼らは薄い膜の向こう側にいるようでいて、何だかキラキラしているようにも見えて、寂しいような、頼もしいような、不思議な気持ちになるのだ。

「あの野郎は言わなかっただけで、本当は入口に倒れてた赤毛の奴を探してたのかもな」

 そう言われて、ルークはもう一人のルークを思い出した。目を閉じていたけれど、顔立ちはルークそのものだったし、一本の三つ編みにまとめられていた長い髪の色も、髪を切る前のルークと同じ夕焼け色だ(髪の色はアッシュよりルーク寄りだった)。体格は随分薄っぺらく見えたが、身長はきっと同じくらいだろう。隣に並べば一瞬で見分けがつきそうだが、確かにあの彼とルークは特徴が似通っている。だから青年はルークを観察していたのだろうか。

 なるほど、とイクスが声を上げた。

「それじゃあ俺たちが保護しているって教えてあげないと!」

「は?」

 ユーリが素っ頓狂な声を上げる。イクスの言葉に、ミリーナが笑顔で頷いた。

「そうね、きっとあの人も心配して探し回っているんだわ!」

「んん?」

 ユーリは首を傾げたが、ルークはイクスとミリーナに賛成だったので、ユーリの手から抜け出して腕を振り上げた。

「じゃあ、やっぱり追いかけて教えに行こうぜ!」

「はあぁ?」

 ユーリは盛大に溜息をつくと、ルークたちの顔を見回した。

「あのなぁ、本当に赤毛の奴を探しているかも分からねぇし、何より親切な意味で探しているかも分からないだろ」

「親切な意味って何だよ」

「だから、傷つけてやろうと思って探しているかもしれないってことだ」

「悪い奴かもしれないってことか? でもそんなの、聞いてみないと分からねぇじゃん」

「…………まあそうだけどな」

 ユーリは自分の頭を掻くと、再び深いため息をついた。ルークはユーリがどこか呆れたような顔をしている理由がいまいち分からないのだが、恐らくこれはルークたちに同意してくれたのだろうと思う。「よし、決まりだな!」というイクスに、ユーリは「そうだな」と頷いたので間違っていないようだ。

「ガイだとしても、あの様子じゃぁな……」

 自然と最後尾で歩き出したユーリがボソッと呟いたが、聞き取れなかったルークが聞き返しても「何でもねぇよ」とはぐらかされてしまった。



+ + +



こっちのガイは人間不信を患っているので、名乗らないし目的(護衛騎士と別れてルク兄を探し中)も言わないです。

テイルズ同士のクロス作品だと、結構な頻度でルークとユーリが絡んでるのがとても好きです。ザレイズではロード中漫画でフレンからはっきりと「ルークとカイルがユーリを慕っている」発言ありますし。ガイを差し置いて攻略王ロイド君に攻略されるルーク君も好きです。

なお、迷宮と聞いて兄さんが思うこと:「全自動脱衣式オープンロックがなくて良かったね」作品が違う。





・騎士と使用人は探す(護衛騎士視点)



 グランツ謡将の問題が解決し、二国間の国交が正常化してからしばらく経った頃。グランコクマへの外遊が許された、と報告してきた若い主人の顔は、珍しく純粋に嬉しそうで幼さすら覗いていた。彼に剣を捧げているヴィンセントがそれを喜ばないわけもなく、主人の願いは無事に叶えなければと改めて決意したのである。

(それがこの体たらくか)

 カイツールを経由してグランコクマへ向かう船内にいたはずが、気付けば一人きりで迷路のような場所に立っていた。苔むした岩肌が壁となって聳えるばかりか複雑に入り組んでおり、面倒になって壁の上によじ登ろうにも高さは10mはある。それでも装備していた短剣を用いてどうにか登ってみたが、吹き抜けで空が見えるというのに何かに阻まれており、抜け出せない。仕方なく、壁に張り付く苔を削って目印を付けながら探索していれば、ひっきりなしに魔物が襲い掛かってくる。それらはヴィンセントの双剣の前にあっさり沈んだのだが、ここに来る直前まで傍に居た主人と使用人が見つからない。否、ヴィンセントと同じく動き回っていた使用人のセシルとは程なくして合流できたが、彼もまた主人を見付けられない状態のようだった。主人は頭がいい。魔物が徘徊する場所でも上手く隠れているかもしれないが、彼はとても体が弱い。長時間放置されて無事でいられる保証はないため、ヴィンセントとセシルは合流場所と時間を決めてすぐさま散開した。

 面倒だったが、遭遇する魔物はことごとく殺した。一体でも逃してしまえば、その魔物が主人を喰い殺さないとも限らなかったからだ。時間も掛けたくなかったので、ヴィンセントは可能な限り一太刀で頭を落とし、何度も主人の偽名を呼びながら歩き回った。本名で呼べば、もし主人を狙う不届き者が聞きつけた場合に主人の存在を知らせることになってしまう。主人とは有事の際に使う偽名を決めているので呼ぶのに問題はないし、主人の代わりに魔物が寄って来ても、殺すだけ主人の命の危険が減ると思えばむしろ歓迎すべきことだ。そうして、ヴィンセントはひたすら歩き回った。

 一時間は歩き回った頃だろうか。ヴィンセントは赤毛の少年が混ざった四人組に遭遇した。赤毛の少年は主人と顔立ちや身長が似ていたが、髪はもう一人のルークのように短く切られていたし、随分しっかりとした体つきをしていた。

(……ルーク様以外にもレプリカがいたのか?)

 まず考えられる可能性はそれだった。イオンレプリカが何体も作られていたことを考えると、主人以外にレプリカがいてもおかしくはない。しかし、赤毛の少年に声を掛けられた瞬間、ヴィンセントは眉をひそめた。

「なあ! あんたもしかして、俺の屋敷にいた白光騎士か?」

 確かに、今のヴィンセントは白光騎士のエンブレムが入った旅装だった。屋敷にいる時の同僚のような重装ではないが、見るものが見れば分かる。だが問題は、赤毛の少年が「俺の屋敷」と言ったことだ。つまりこの少年は、ルーク・フォン・ファブレの振りをしていることになる。

 ヴィンセントは無言のまま、抜き身で両手にぶら下げていた双剣を構えた。仮にレプリカだったとしても、ヴィンセントが仕えているのはただ一人。その主人の名を騙るのは子どもであっても万死に値する。ヴィンセントが自他ともに認める鋭い赤眼を剣呑にすると、、赤毛の少年は蒼褪めて硬直した。

「貴様、何者だ。あの方の名を騙るつもりか」

「随分と穏やかじゃねぇな」

 少年を庇うように前に出てきた黒髪の青年が、左手に持っていた鞘を振り払った。鯉口を切っていたらしく、振り払われるまま鞘から抜ける長剣の柄を逆手で掴み、それをくるりと回転させて順手に持ち替える。まるで大道芸のような動きだが、肩に担ぐようにして構える姿は見た目より隙がない。だが、それがどうしたと言うのか。

「主の名を騙る者は殺す」

「ちょ、ちょっと待った! もしかして、あなたの主っていうのは、赤毛で三つ編みの人のことですか!?」

 あと一瞬後には黒髪の青年に斬りかかっていたというタイミングで、銀髪の少年が慌てた様子で口を挟んできた。無視しても良かったが、内容には心当たりがあったので、青年と睨み合って剣を構えたまま先を促す。

「俺たち、この迷宮の入口でその人が倒れているのを見つけたんです。意識がなかったから、アジトに運んで手当てを……」

「どこだ」

 今度こそヴィンセントは銀髪の少年を見た。すると、睨み合っていた黒髪の青年が「おい」と声を上げた。

「こっちはおたくのご主人様らしきヤツを保護してやってんだよ。その態度はどうなんだ?」

「こちらはそれが真実だと判断する情報がない」

 ヴィンセントは黒髪の青年の言葉を一蹴する。だが、もし銀髪の少年の言葉が嘘でなければ、彼の言い分も理解できる。ヴィンセントは一瞬だけ考えた後、剣を鞘に収めた。ここは彼らに従った方が、彼らが保護したという赤毛の人物をスムーズに確かめられると判断したのだ。ヴィンセントは銀髪の少年に頭を下げた。

「……だが、今はそちらの言葉を呑もう。失礼した。その赤毛の人物の元へ私と連れを案内して欲しい」

「あ、頭を上げてください! もしあなたの探している人だったら、保護出来て良かったです」

 慌てた様子でそういう銀髪の少年の声色に、嘘のような気配は感じない。……保護したというのは本当だろうか。頭を上げると、銀髪の少年と、その隣にいる金髪の少女はにこにこと笑っていた。

 都合のいいことに、セシルとの合流予定時間まであと少しだった。



+ + +



ルク兄の方のアッシュは断髪してますが、ルークとは髪質が違うようなのであのひよこ髪にはなってないです。

ルークは懐かしの白光騎士の格好を見た+時々鍛錬の相手をしてくれた騎士の中に双剣の人がいたことを思い出して、「もしかして優しくしてくれた騎士の誰かなのかな(顔は兜で見てない)」とソワソワしてました。してたのにこの仕打ち。誤解が解けたらちゃんと優しくしてくれます。

ユーリのあの鞘捨てモーション好きです。


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