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ザレイズに突っ込まれたルク兄さん
萌え 2020/07/13 00:47


・テイルズオブザレイズ(アプリのお祭りゲー)にルク兄さんが参加させられた場合
・先を考える癖があるだけに絶望的
・ファンタジーに現実を叩き付ける暴挙



・看病してくれた医学生と


「元の世界には戻れないそうです」

 ……いやいや。何を根拠にそんなことを。

「みんな、同じです。あなたと」

 同じ。同じか。そうだろうな。何の脈絡もなく訳の分からない場所に放り出されて、元居たところに戻れないという状況は。それだけならば。

 決定的な違いは、俺は他の“みんな”とは一線を画した凡人でしかないということだ。凡人が、権力者の息子のクローンに成り代わっただけだ。与えられた王族教育でどうにか誤魔化して生きてきたが、生活基盤となる権威が剥ぎ取られてしまえばもう。

「……そう、ですか」

 俺は微笑んだ。家庭教師に教えられた通り、意図的に整えられた王族の仮面を被った。

 異世界に放り出されることに慣れ切っている俺は、自分の行く末をある程度察してしまった。

 ――きっと、永くは生きられない。





 体が奥底から燃えるような感覚は、ルーク・フォン・ファブレに成り代わってからは珍しいものではない。歪む視界の中で時折浮かび上がるのは、白衣を着た医者だったり学者だったり、はたまた騎士だったり使用人だったりもした。こんな時にルークの両親の顔を見た覚えがないのは、発熱して寝込む俺を見舞いに来たことがないからだろう、少なくとも俺の意識がある間は。腐っても二十歳を過ぎた大人なので、体の弱いシュザンヌが迂闊に病人に近寄れないことも、クリムゾンが強面の割に案外繊細で、息子が死にかける姿を見ることに抵抗があることも察せられる。だがそれはあくまでも俺だからであって、本来の年齢通りのルークならばできるはずもない気遣いといえた。

(とはいえ、医学生の顔を最初に見るとは)

「あ、気が付きましたか?」

 熱を持った体で目を覚ますのは初めてのことではないが、覗き込んできた顔は初めて見たものだった――三次元では。短く整えられた黒髪に、優しそうな鳶色の目を持つ少年の顔を、俺は画面の中で見た覚えがあった。

「熱を出して倒れていたところを見つけて、運び込まれたんです。――初めまして。僕はジュード・マティスです」

「……それはどうもご迷惑をおかけしました。助けていただいてありがとうございます。私はルークといいます」

 最早大して意識せずとも自然と零れる儚げな笑顔を纏い、反射的に礼を告げる。「あなたに威厳ある偉丈夫は難しいようですが、儚げで美しく、庇護欲を掻き立てる麗人の振りはお似合いです」と8割方ディスりながら家庭教師が勧めただけあり、堂のいった表情だろう。あのボロクソに言われたことを俺は一生忘れない。確かに麗人プレイは男女問わず使用人にウケたし、必要以上に公爵家の騎士に優しくされるようになったし、シュザンヌ様もニコニコだったが(なお、ガイのどこかしら薄ら寒い様子は何も変わらなかった)。

 いやそれはいい。今はいいのだ。そんなことよりも。

(テイルズ繋がりなら何でもいいってわけじゃないんだが)

 知っている。彼は護身術でとある世界を救う医学生だ。言ってる意味が分からないかもしれないが、マジである。護身術で国王をぶっ飛ばすし、護身術で精霊もぶっ飛ばしている。確か続編では垢抜けたお洒落男子になっていたが、この姿を見るにその時間軸ではないらしい。何にせよ、彼はテイルズシリーズの主人公の一人だ。ただし、俺が体を借りているルークとは別のタイトルの。

(ジュードはエクシリアだよな。アレって続編の2と時代がほぼ同じだから、えげつない世界観だった気がするぞ)

 ジュードが主人公のテイルズオブエクシリアも精霊がなんやかんやしている世界だが、その続編については割とガチで世界の存続が危ぶまれている。開幕1時間足らずで借金王になる続編主人公ルドガーが、物語を通して簡単には語り切れないとてもとても多大な苦労をさせられることになるのだ。そんなところに放り込まれたとしたら、命がいくつあっても足りない。

(いや、時間軸としては続編には入ってない。安全な場所に……いやそんなところあったか?)

 よく思い出してみれば、無印エクシリアの方が一般庶民には危険だったかもしれない。二国しかないのに二国で戦争とか正気じゃない。二国しかないなら仲良く貿易でもしてろよと心底思う。そのシチュエーションは俺が放り込まれていたアビスもかもしれないが。いきなり足元の大地が崩落してボッシュートされない時点で、エクシリアの方がマシだったろうか。いやいや、そもそもゲームじゃなくて現代日本に俺を返してくれればこんなヤキモキすることもない。ローレライだかマクスウェルだかその他の神様だか知らないが、余計なことに他人を巻き込まないでくれ。

「ここはどこですか?」

 とにもかくにも、ジュードに地名を教えてもらおう。俺が寝かされていた小部屋は木造の素朴で清潔な場所だが、窓がないので場所の見当がつかない。ジュードはお人好しキャラだったと記憶しているので、聞けば素直に教えてくれるだろう。

 そう思っていたが、俺はジュードの顔が困ったようなものになったので考えを改めた。

「僕たちの拠点です。……仮想鏡界、というんですけど」

 なんて???





 ジュードは「まだ発熱している人に長話をするのは」と躊躇していたが、俺としては先延ばしにされた方が気になり過ぎて熱が上がる。長話でも何でもいいから話せる限りの状況を教えてもらうと、専門用語がわんさか出てきて頭がもげそうになった(もげたら多分、ジュードの治癒技レストアが炸裂するだろう)。それでも、ジュードはその都度説明を付け加えてくれたので、かなり分かりやすくなっているとは思われる。医学生として治療現場を走り回っていた彼は、患者への説明として平易な表現をすることに慣れているのかもしれない。そんな彼の助けを得て、物理的にオーバーヒートしそうな頭をフル回転させながら得た結論は。

 この世界は、ジュードにとっても異世界である。

 別の世界から、鏡映点(きょうえいてん)と呼ばれる人々が具現化されている(具現化元の世界の対象者は、何事もなく存在している)。

 鏡映点とはジュードたちのことであり、今の俺のことでもある。ただし、俺は少々特殊な具現化をされているので、正確には“シャドウ”に分類される。

 ジュードたちは平たく言うと悪の国家から姿を隠して、反撃を企てている。

(ソシャゲか!!)

 要は、テイルズシリーズのお祭りゲームである。様々なシリーズからキャラクターを引っ張ってくるというのはまさにそれだ。まさか俺は何らかのイベントのガチャを回したら出てきたオチではなかろうな。違うよな? 俺は外側だけのテイルズキャラなので、そんなガチャがあったところで排出率0%のはずだ。課金されても出てこないし出たくない。

 ジュードに沈痛な面持ちで帰れないと言われたところで、話は冒頭に繋がるのである。

 俺の意識が芽生えたルーク・フォン・ファブレという肉体は脆い。根本的に免疫力が低いのかすぐに体調を崩すし、軽い風邪でも大抵は拗らせてしまう。努力しても体力はさほど付かないし、多少鍛えることができても一度寝込んでしまえばすぐに底辺を這いずる。いくら音素乖離の危険がなくなったとしても、体の元の作りが弱いのはどうしようもない。“原作の”ルークはその点、健康体と思われるので幸いだった。そうでもないと剣を振り回す主人公なんて無理だろう。俺は無理だ。剣を振り回しながら魔神剣とか出せる気がしない。正直、剣圧飛ばすより魂飛ばす方が確率的に高い。

 こんな病弱・虚弱な俺がこれまで生きてこられたのは、権力と財力という鳥籠に護られていたからだ。権力者の息子だから、医学の粋を集めて継続的な治療に当たることができた。俺と言う存在は、生きていくだけで普通の人間よりも金がかかるのである。それが、この世界に放り出されたことで、キムラスカ・ランバルディア王国という絶対的な権威と庇護を失い、ただの人間となった。今はジュードたちに保護してもらえているが、この世界を取り巻く問題が解決した後は自分の力で生きていく必要がある。そうなれば、俺が路頭に迷って野垂れ死ぬのは目に見えていた。俺の頭はバイト経験も一人暮らしの経験もある一般庶民だが、肉体はそれについていけない。まともな職に就けず、やがて体調を崩してそのまま死ぬだろう。

(死にたくない)

 死にたいなんて思ったことなど一度もない。自分の命を諦めたことも一度だってない。けれど、国民の血税で生かされてきたルークとしての人生では、自分の命の使い方について考えてきた。それでも、こんな死に方なんて想定外にも程がある。何しろこの世界では只人でしかない俺は、死んだところで何の意味もない。自分の命で国政を有利に持っていくことも、相手に不利益を与えることも、誰かを守ることもできない。惨めな犬死だ。あまりにも虚しい。

(……って誰が死んでたまるかバ――カ!!)

 こちとら、キムラスカ国民の血税という鎖でガチガチに固められたご身分で、国のために馬車馬となって働く運命だったのだ。それを「あなたの責任じゃないけど、もう血税を国民に還元できません」と言われたのも同然なのである。俺の責任じゃないなら思う存分自由になってやるし、死ぬのはもちろん御免だ。こうなったら、どんな手段を使ってでも絶対に生き延びてやる。目指せ高給取りの平民! 医療体制が充実した町で平民生活エンジョイしながら、そのうち現代日本に帰ってやる!



+ + +



ザレイズはガチャではなくガシャです。ついでに言うならルークは魔神剣じゃなくて魔神拳。

ルク兄さんは例のワイズマンがイベントで具現化しようとしたら失敗して引っ張られたパターン。つまりイベント参戦キャラ扱い(戦えない)。

ワイズマンをご存じない方は、別作品とのコラボイベントを気軽に起こせる人だという理解で大丈夫です。





・お見舞いに来た伯爵様と


 この世界はテイルズシリーズのお祭りゲームと思われる。つまり、エクシリアのキャラがいれば、本来のアビスのキャラもいる。俺は本来のルークとはかけ離れていると思われるので、確実に顔を知っている赤の他人としての知人がいるということだ。

 案の定、ジュードと話してから再び寝込んだ翌日に、お見舞いと称して一人の青年が部屋を訪れた。短い砂色の髪を軽く整髪剤で立てた、見るからに爽やかな青年である。その爽やか青年は、見た目通りの爽やかな笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。

「体調は大丈夫か? ……ルーク」

(誰だこいつ。いやマジで誰だお前)

 名前は聞かずとも分かっている。ガイ・セシル。本名をガイラルディア・ガラン・ガルディオス。ルーク(俺)付きの使用人だ。……俺の知っているガイとは随分立ち振る舞いに差があるので、思わず別人扱いしてしまった。いや、実際に別人ではあるが。彼は間違いなく、俺と付き合いがある方のガイではない。

「ええ。大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」

 顔と名前を知っている赤の他人でしかないので、他人行儀全開で丁寧に返事をすると、ガイは困った様子で眉尻を下げた。

「お前は別の世界のルークなんだろう? そんなに畏まらないでくれ。それとも、そっちでは俺とは親友どころか知り合ってもいないのか?」

「そういう訳ではありませんが、初対面にはなるので」

(解釈違いです)

 本来のルークとガイが友人関係にあるのは納得できるが、俺の知るガイと俺が友人関係にあるとはとてもとても思えない。そう表現するには俺とガイの間には身分差があるし、何より俺の使用人になると本人が選んで落ち着くまでに紆余曲折がありすぎた。友人と言うより、拗らせ主従ですと言う方が正しい。

 そしてどうやらこのガイ、俺の知る彼とは随分違うらしい。というのも、そもそも彼は伯爵だという。差異を知るためにドストレートに尋ねてみると、彼はマルクト皇帝から領地と爵位を返され、晴れて若きガルディオス伯爵としてマルクト帝国に住んでいたとか。敵国の使用人から驚くべき転身である。ルークとも親友と言い切れる美しい仲のようだ。

 ちなみに俺の知るガイは、自分が故ガルディオス伯爵の息子ではないと頑なに否定しまくり、途中で六神将の勧誘にぐらつきつつも、最終的に俺個人(ファブレ公爵家ではない)に付き従う使用人を選んでいる。祖国(マルクト)も敵国(キムラスカ)も同胞(ダアト/ヴァン)も信用できないとなった結果、なんだかんだで一番悪意がなかった俺に人生の主柱をぶち込むことにしたようだ。つまりは人間不信である。女性恐怖症はどうにかなったが、代わりに人間不信を患ってしまった。俺のことも最初は冷酷な貴族のクソガキと思っていたらしいが、誤解が解けてからの手の平返しが素晴らしかったので除外される。ギャップ萌えですかね、と告げたアニスに首を横に振ったあの頃が懐かしい。

 ともかく、そんな具合なので、俺は二人のガイの違いに内心でドン引きしていた。やっぱり主人公がルーク君じゃないと話が上手くいかないんだね、お兄さん知ってた。温度差でグッピーが死ぬとはこのことだろう。だが、馬鹿正直に「こっちのガイさんは拗らせた使用人です」と言うのも憚られたため、俺は微笑みを淡くした。今の俺は自分を儚げに見せるスキルを持っている……実際にうっかり命が儚くなりそうとは言ってはいけない。

「君は……随分と、体が弱いんだな」

 ガイは上半身をベッド柵に預ける俺の首や肩を見て、痛ましげな顔をした。彼の知るルークよりずっと細くて薄いのだろう。優しそうな彼が心を痛めるのもよく分かる。俺も病み上がりの自分を鏡で見て「こいつヤベーな」と思ったことが何度もあるので。

「その、心配だから俺も正直に聞くんだが。……君は、自分の体についてどこまで知っている?」

(……ま、レプリカだの音素だのは言っても大丈夫か)

 一瞬だけ時間軸の違いによる知識量の差を考慮したが、どうせお互い帰れない身だし、俺への心配は彼の知るルークの実情を知るからこそだろう。さくっとバラすことに問題はないと考え、俺は素直に話した。

「俺がレプリカで、音素乖離を起こす危険と隣り合わせとか、まあ色々と」

「……冷静なんだな」

 俺の反応を見たガイが困惑する。ルークと俺は完全に別人なので、反応のギャップが大きいのだろう。

「音素乖離に関しては、この世界に来たことでストップしたと思っていいらしい」

「それは良かったです」

 にっこりと笑みを深めると、ガイは困惑をそのままに微笑んだ。……俺の扱いに困らせてすまない。



+ + +



ルク兄さんも原作ガイの扱いに迷ってる、ので、他人の扱い。

薄ら寒かったり裏切りそうだったりメンタルがたがただったりした使用人から、急に気さくかつ爽やかに話しかけられてもビビるという話。

逆に原作ルーク君は拗らせてる方のガイから他人行儀にされて傷つきそう。それを「アイツは顔が同じだけの他人だからな」とルク兄さんが身も蓋もない慰め方をするまでがセット。




















ジェイドだけはルク兄さんが本当の意味でルークでないと気づく。ルク兄さんの方のジェイドも気づいてるし、直接問い質してる。という設定があったり。
ルク兄さんの方のアッシュがザレイズにきたら、原作ルークとの差異を見て同じことに気付く可能性大。彼の場合は一人ホラーゲーム状態になる。


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