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物理力高めな麻衣兄その2
萌え 2020/05/07 00:36


・麻衣兄さんの中身がゾル兄さん
・麻衣ちゃんの兄は経由してないパターン
・なんだかんだで景光さんと同居してるIF





 見捨てられずに幼児化した工藤新一――江戸川コナンを助けた結果、なし崩しで正体を知る協力者として交流が続き早数ヶ月。ミステリートレインなるものに遊びに行った工藤君が、いきなり俺に電話を掛けてきた。

「谷山、ポアロの店員には気を付けろ!」

 毛利のおじさんや蘭姉ちゃんの目を盗んで掛けたのだろう深夜の電話に、俺は一拍置いて答えた。

「お前、悠長に喫茶店に通う金があると思ってるのか」

「そういうことではなく!」

 じゃあどういうことだよ。

 工藤君曰く、最近ポアロの店員になった毛利探偵の一番弟子・安室透は、黒ずくめの組織の幹部バーボンだからヤバいという。……うーんごめんな工藤君。俺、そいつが公安警察の降谷零だって知ってるわ。なにせ劇場版の冒頭で見たからな、経歴全バレ説明をお前の声(CV高山みなみ)付きで。だがそんなことを説明できるはずもないので黙っておく。怪盗キッドの力を借りてうんたらとも言っているが、すまない工藤君。俺はそいつの本名も知ってるわ。なんなら黒ずくめの組織のボスの名前も知ってる。歩くネタバレで本当にすまない。

「つっても、工藤君のことを必要以上に喋らなければいいだけだろ? 自分、コナンと会うまでは工藤君との接点ないからな。探られようがないし」

「でも、工藤新一の親戚設定にしてるオレとは交流あるだろ。油断はするなよ」

 それはまあ、おっしゃる通りである。おっしゃる通りではあるが。

「歩く迂闊の新ちゃんに言われたくないです」

「新ちゃんって言うな! それに歩く迂闊って何だよ!」

 工藤君、本当に身を隠したいなら定期的に蘭姉ちゃんに連絡したり高校の文化祭に出たりしないからな。ついでに言うなら未来の修学旅行に行って蘭姉ちゃんとイチャイチャしてる場合でもねえからな。このリア充め。証人にはなってやるから早く結婚しろ。

「とにかく! バーボンには絶対に近付くなよ!」

 俺の呆れ半分の言葉を無理やり断ち切り、工藤君はそう締め括った。だがこの世にはフラグなるものが存在する。それは大抵、気を付けろと言った矢先にひょっこり立ってしまうのだ。





「おや。君は確か、蘭さんのお友達でしたね。麻衣さん、でしたか」

「……ええ。どうもこんにちは」

 そう話しかけられ、俺はぺこりと会釈する。まさか件の安室さんと、SPRのバイト先で会うことになるとは思わなかった。安室さんがとても多忙な人だと知っているので、もしかすると私立探偵として違和感のない実績作りのために依頼を受けているのかもしれない。依頼受注歴が全くない私立探偵なんて、嘘臭いことこの上ないだろう。

 唐突なイケメンで、しかも人当たりがいい安室さんに真っ先に反応したのは松崎さんだ。年齢的にも完全にストライクゾーンだろう。彼女は安室さんが離れた隙にキラキラと目を輝かせて、俺の背中をバンバンと叩いた。

「やっだ、すんごいハンサムじゃない。麻衣、あんたいつの間にお近づきになったのよ」

「近付いてないです。友人の知り合いだから、接点はないも同然ですから」

 近付いてくるのは今のところあちらである。毛利のおじさんを探るならともかく、工藤君を探りたいなら俺に接触を持つのは理解できる。毛利のおじさん目当てにしても、蘭姉ちゃんと交流のある俺と仲良くしておくのは悪くないだろう。安室さんの正体はよくよく存じ上げているので、俺の家の同居人の助けになるのなら本格的に交流を持つのもやぶさかではない……とは、工藤君には言えないが。工藤君も俺の同居人が俺の兄だと信じているので、藪蛇になるような発言は控えている。

「友人の知り合いなら全然イケる距離じゃない」

「行く気ないんで」

「じゃあ、あたしがいっちゃおうかなぁ」

「……ご自由に」

 ソワソワしている松崎さんを、俺は苦笑して送り出す。十中八九、やんわりと受け流されて終わるのだろう。如何にもモテそうな彼なら、女性のうまい扱いなどお手の物だろうし、松崎さんが傷つけられることはないだろう。松崎さんもどうせ本気ではないだろうし。

 そんなこんなで余裕ぶっこいていたら、各部屋の温度を測るために単独行動しているタイミングで、またもや安室さんに話しかけられた。こちらは仕事中なので、作業しながら対応する。安室さんも作業の邪魔になるようなことは一切せず、こちらが不快になるような言動は取らないのでさすがである。それでいて、こちらが設置しているカメラの撮影範囲からはさりげなく外れるように動いているので、これがプロの潜入捜査官なのだなと感心してしまった。自然な会話の流れで俺からカメラの設置地点を聞き出しているので、俺と接触する以外にカメラ位置の把握も兼ねているのだろう。抜け目のない男だ。俺としても捜査官である彼の不利益は避けたいので、依頼者や調査場所の情報は伏せ、カメラの位置はしれっと教えておいた。俺は工藤君のような正義の味方は好きなのだ。とはいえ、カメラのみならず録音機等の正確な配置となると、一度ベースに行って確認した方がいい。安室さんとしても、自分の情報を音声の一欠けらも残したくはないだろう。

 話運びのうまい安室さんと会話を楽しみつつベースに戻ると、リンさんがモニターの群れと向き合っていた。いつもの光景である。しかし彼はこちらを振り向くと、整った顔を不審そうに顰めた。無表情でも十分怖いのに、顰められると子どもは泣き出すのではなかろうか。

 リンさんはヘッドセットを置いてパイプ椅子から立ち上がると、無言のままこちらに歩み寄ってきた。俺がバインダーを軽く掲げて「全部屋の測定終わりました」と告げるも返事をせず、彼は大きな右手で俺の肩を掴んで引き寄せる。スーツの胸に顔をぶつけるかと思いきや、リンさんは俺と体を入れ替える形で安室さんと向き合っていた。

「――うちのスタッフに何か御用でも」

 安室さんもかなりの長身だが、リンさんはさらに高い上に不愛想の達人である。おまけに冷たく固い声色を出しているため、威圧感が半端ない。……オーラ一つでこの二人を床に沈められる俺の存在は無視して欲しい。

「ええ。そちらで設置しているカメラや録音機材の位置を教えていただけませんか? 麻衣さんにあちこちに設置してあると聞いて、僕の持っている機器と干渉しないように努める必要があると思いましたので」

 リンさんは安室さんの申し出に、たっぷりと十秒ほど黙った。いや黙り過ぎだよ。俺はもう慣れたけど、普通の人にはかなり圧迫を与える沈黙だ。安室さんは全く動じていないが。やがてリンさんは「……どうぞ」と安室さんをベース内に入れ、資料などを完全に片づけてあるテーブルの上にマップを広げた。きちんと教えてくれるらしい。俺は安室さんの対応をリンさんに任せると、ほぼ自分用になっているノートパソコンに観測データを打ち込み始めた。

 程なくして機材の設置場所を伝え終わると、リンさんはさっさと安室さんをベースから追い出しにかかった。

「我々には守秘義務があります。こちらの仕事では部外者であり、かつ私立探偵のあなたとみだりに会話を深めるのは、依頼者に対して不誠実に映る可能性があります。不要であれば控えてください」

(めっちゃ喋ってる)

 こんなに喋って酸欠にならないだろうかと心配するくらいには喋っている。安室さんは申し訳なさそうな顔をして謝罪すると、俺に笑顔を向けてから退出した。うーん、最後まで顔と性格がいい。それはともかく、俺のフォローをしてくれた形になるリンさんにお礼を告げた。

「ありがとうございます、リンさん」

 リンさんは椅子に腰かけた俺を見下ろすと、ため息をついた。

「……経験上。あなたに話しかけたがる人間は年齢性別問わず、おかしな性癖持ちである可能性が高いです」

「アハハ」

 否定のしようがない。実害のある奴は片っ端から仕留めて通報してきたが、居合わせたリンさんが対処してくれたこともあるので大口を叩けない。クソ汚いおっさんならともかく、綺麗なお姉さんに襲われるのは役得だと思わなくもないが、実際は瞳孔かっぴらいた状態で迫られるので役得とか言ってられない悲しい現実がある。百合は温かく見守りたい派であり、自分が体験したいとはあまり思わない。あまり。ほんのちょっとは興味あるだろというツッコミは控えて欲しい。

「笑い事ではありません。私立探偵とは言えど、気を付けなさい」

「そうですね。ありがとうございます」

 どうやらリンさんの中で、安室さんは変質者予備軍にされたようだ。工藤君のような立ち位置ではないので、リンさんの誤解が解ける日は一生来ないかもしれない。頑張れ安室さん。



+ + +



この世界線の麻衣兄さんは、ビルの屋上から落ちてきた成人男性を華麗にお姫様抱っこでキャッチするという偉業を達成しています。クトゥルフ関係ない世界なので物理で助けました。やったねスコッチ、女子高生に抱っこしてもらえたよ!(白目)髭のお姫様とは。

安室さんはさすがにそこまでは知りませんが、なんやかんやで幼馴染が麻衣兄さんと同居してそうなことを突き止めたので、どうにか麻衣兄さんとお近づきになりたい。麻衣兄さん的には安室さんは結構どうでもいいのですが、景光さんとはだいぶ仲良くなってるので、一人暮らしに戻るとなると少しだけ寂しいかもしれない。

リンさんから麻衣(兄)に矢印出てるかはご自由に。面倒見の良い人なので、矢印の有無に関わらず助けてくれる気がします。


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