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はぐれトレーナーの日常×2
萌え 2020/05/05 23:59


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味
・兄さんの手持ちがかなり育っている=未来の時間
・兄さんがラテラルタウンでオニオン君の保護者やってる
・短い話を2本立て





 そもそも、ガラル地方は現代におけるガラパゴス諸島のような側面がある。独自の進化を遂げたポケモン、あるいは原種のままの姿を残すポケモンが数多く生息しており、それらは大体俺の初代知識からズレた姿をしている。例えばバーバリアン系ニャースもそうであり、“鴨が葱を背負って来る”から生まれたであろうカモネギもそうだ。俺の知っているカモネギは、ぱっちりとした可愛い目をして、身の丈ほどの長ネギを手にした鳥だ。しかしこのガラル地方に生息しているガラルカモネギは、何というか……濃い。ごん太の眉毛と鋭い切れ長の目をしており、身の丈の二倍以上はあるぶっとい長ネギ(食用とは思えない硬さである)を引き摺るようにして装備している。その時点でもうお腹いっぱいなのだが、カモネギはいつの間にか進化するようになっていたらしい。

「それでは――お手合わせ願います」

 そう言って、ひと気のないラテラルジムの試合場で身構えるサイトウちゃんの前には、長ネギの茎(ブレード)と葉(シールド)を構える、やたらと濃い顔の鳥がいた。……ガラルカモネギの進化形であるネギガナイトである。進化というか、転職の間違いではなかろうか。切れ長の目は同じではあるが、何というかこう……荘厳な何かを感じる。悟りを開いてしまったというか。

(これは聖騎士ですわ)

 初見の際、どこぞの騎士王のようにエクスカリバーぶっぱされたらどうしよう、と思った俺は悪くない。鳥の癖にバスターゴリラだったら怖すぎる。後日調べたところ、エクスカリバーは無理だが、レベルが上がればスターアサルトなる騎士職専用技のようなものが使えるようになるらしい。蛮族から騎士まで揃えているとは奥が深いなガラル。

「臨時とは言えど、あなたにこのジムを任せられるか――試させていただきます!」

「――よろしくお願いします」

 対する俺のポケモンはミミッキュ。うちのお嬢さんは可愛い見た目に反して、戦意と自信に溢れているらしく小さな胸を張っている。

 事の発端は、サイトウちゃんが修行のためにカントー地方のとある格闘家に師事したがっていることにある。責任感の強い彼女は、任されているラテラルジムを放って他所に行くなどあり得ない。だが、実はこのジムにはもう一人ジムリーダー候補がいる。それがゴーストタイプ使いのオニオンだ。それでも彼はまだ幼いため、ジムリーダーになるとしてももう少し成長してからとなっていた。そこに来ての俺である。オニオンの保護者かつ同じゴーストタイプ使い(不可抗力)で、バトルの実力はオニオンに次いで折り紙つき(らしい。自分で戦った方が早いとは言ってはいけない)。人柄にも特に問題がなく、オニオンと一緒にサイトウちゃんのジムリーダー業務を見ていたので、オニオンが成長するまでの中継ぎとして都合が良かったようだ。

 しかし、だからと言ってはいそうですかと任されるほどジムリーダーは甘くないし、サイトウちゃんも無責任ではない。そのため、ポケモンバトルで実力を再度見るということになったのである。

(でも俺、サイトウちゃん相手だと特にやりやすいんだよなぁ)

 様々な格闘スキルを使いこなし、パワーと技術で相手を制圧するかくとうタイプのポケモンがサイトウちゃんの専門だ。サイトウちゃん自身も優秀な若き格闘家であるため、彼らとは相性がいいのだろう。ただ、かくとうタイプのポケモンに概ね共通していることがある。それは、“人型に近い形状のポケモンが多い”ということだ。ひいては、人間の体の使い方と似通っていることになる。ここまで揃えば分かりやすいだろう。俺はゾルディックの暗殺者だ。――人体の動きなど知り尽くしているので、対策を出すのも容易い。

 そもそも俺自身が準備を怠らない派であり、戦いにおいても事前準備が重要と考えている。こちらに有利な条件を揃え、相手には一切の仕事をさせずに封殺するのがベスト。かすり傷ひとつも貰わず、存在すら悟られず、必殺の一撃を確実に入れる。そんな俺がポケモンにバトルをさせようとすると、回避アタッカ―製造機と化す。さらには不意打ち上等、奇策上等のため、野生のポケモンやルールなしの野良試合、無法者の制圧だとほぼ敵なしだ。ルールでガチガチに縛られた試合だとそうはいかないが。だが、サイトウちゃんのポケモンなら動きが大体分かるし読める。予備動作で相手の動きを推測し、避けつつ反撃するのはミミッキュたちにかなり教え込んである。特に、ミミッキュには念入りに。

 というのも、攻撃を食らって外側――いわゆるばけのかわがほつれてしまった時のミミッキュの怒り様と嘆き様が、それはもう凄まじかったのだ。元々ミミッキュというポケモン自体が、ばけのかわを剥がした相手を容赦なく追い詰め、差し違える覚悟で殺しにかかるらしく、可愛い見た目でゴリゴリのゴーストタイプである。うちのようきな性格のミミッキュにも、その本能はしっかり受け継がれている。俺はミミッキュの外側をこまめに洗濯してやったり、色々な生地で新しい外側を作ってやったりしているだけに、それらを傷つけられた時のミミッキュの殺意の波動がヤバかった。バトルの範疇を飛び越えて相手を殺しかねなかったので、俺は彼女にそもそも攻撃が当たらないような立ち回りをがっつり仕込んだのだ。そこまでショックを受けるのならバトルするなよ、と言われそうだが、うちのお嬢さんは結構好戦的なところがあるのだ。最近はほぼ攻撃が当たらないし、穴を空けられても諦めがつくようなものをバトル前に着せたりするようにしている。

 ともかく、回避に関してはトップエースのミミッキュである。しかも相手がかくとうタイプとくれば非常に有利だ。もちろん、サイトウちゃんも素晴らしいジムリーダーなので、俺と何度もバトルをする中で新技を身に付けて対抗してくる。例えばこのネギガナイト、シールドバッシュをしてくる。本来防具である盾を武器として使って殴りかかる技だが、普通のネギガナイトはそんなことしない。当然ながら、そんなポケモン技も存在しない。さらには、長大なブレード部分ではなく柄の部分で殴ってくることもある。ネギガナイトは主に身長よりも長いネギ剣で斬りかかってくるため、懐に入り込まれると弱い。だが、サイトウちゃんはそれを学習し、懐に入られても柄で殴るか盾で殴ってくる。なんなら鳥の足で蹴り上げて牽制もしてくる。もちろん、ネギ剣は手足のように扱って斬りかかってくる。控えめに言ってもネギガナイト最強の騎士である。やっぱり騎士王じゃねーか。

「ネギガナイト、リーフブレード!」

 一撃目から急所を狙って斬りかかるネギガナイトに、ミミッキュは小さな目をきらりと光らせた。



+ + +



 もう間もなくリーグの開幕式を迎えるナックルシティには、各地から多くの人が集まっていた。大通りは人とポケモンで賑わい、楽しそうな声があちこちから聞こえてくる。俺はその雑踏の中で、彼の小さな右手をしっかりと握った。

「オニオン、どこか行きたいところはあるか?」

「ん……」

 開会式に出席するサイトウちゃんの付き添いのような形で、オニオンとその保護者である俺もまたナックルシティに来ていた。俺とオニオンは黒と紫を基調としたお揃いのゴーストタイプ・ウインドブレーカーを着ているので、傍から見ると年の離れた兄弟のように見えるかもしれない。いや、もしかすると若い父親と息子に見られるだろうか。どちらでも構わないが。なお、オニオンが常に被っているお面は、今だけミミッキュのお面に変えている。最初はいつもと同じお面を被っていたのだが、コアなファンから声を何度も掛けられて委縮していたため、変えてみたのだ。意外と先入観があったらしく、お面を変えただけで声を掛けられなくなった。一方、俺の方は自分である程度気配を薄められるので、ほどほどにやり過ごしている。念能力者は便利なものである。

「キュッキュー!」

 オニオンの腕の中で、お面ではなく本物のミミッキュが鳴く。これはうちのお嬢さんではなく、オニオンの手持ちのお坊ちゃんである。うちのお嬢さんとも仲が良いのでそのうち結婚するのではと勝手に思っていたが、今のところ二匹の関係は一ミリも進展する様子がない。すまないなお坊ちゃん、うちのお嬢さんは俺にメロメロなんだ……(人間にモテるとは言っていない)。まあ、お坊ちゃんがお嬢さんより弱いのも原因かもしれないが。オニオンの手持ちのエースはゲンガーであり、俺のところのエースはミミッキュである。

 その微妙に不憫系なミミッキュは、黒い手を伸ばしてちょいちょいと通りの一部を指した。目を向けると、そこには行列が出来ている。先にあるのはクレープ屋だ。

「ルイ兄さん。ミミがクレープ食べたいって……」

「じゃあ並ぶか」

「うん……!」

 嬉しそうにオニオンが頷くと、その腕の中でミミッキュも嬉しそうに体を揺らす。可愛い一人と一匹に顔が溶けそうになりながらも、俺たちは行列の最後尾に並んだ。ちなみに、ミミというのは俺のミミッキュと差別化するためにオニオンがそう呼んでいるので、バトルの時はミミッキュ呼びに戻る。

 俺たちが並んでいるクレープ屋は、マホイップが楽しそうに働く人気店だ。店の名物はマホイップベリーのふわふわクレープなる商品で、イチゴとバニラアイス、生クリームがふんだんに使われたクレープに見える。生地のモチモチさが売りだとか。

「迷うなぁ。オニオンはどうする? 昼ご飯が入らなくなるから、ミミと分けて食べるだろ?」

「うん……。ミミ、どれがいい?」

「キュウゥ〜」

 ミミッキュが悩ましい声を上げる。どうやら、店の名物クレープとチーズクリームを使ったクレープで悩んでいるらしい。オニオンもどちらにするか決めきれないようだ。

「じゃあ、俺がチーズクリームの方にするから、二人はマホイップベリーな。あとで分けよう」

 俺がそう言うと、お面で隠れていても分かるくらいオニオンの雰囲気が明るくなる。ミミッキュも尻尾代わりの木の棒をぶんぶんと振って喜びを表した。こういう可愛い反応をされると、どこまでも甘やかしたくなるから困ってしまう。俺は繋いでいた手を離すと、一人と一匹の頭を撫で回した。

 その時、不意に通りの向こう側がざわついた。どこか不穏な雰囲気がする。こちらにその雰囲気が近づいてくる気配はないが、通りの一本向こう側に向かっているようだ。俺はオニオンにお金を握らせると、ミミッキュと一緒に並んで待っているように言いつけてそちらへ向かった。





「……へへっ」

 細い路地に入ってしばらく行ったところで、痩せぎすの男が嫌な笑い声を上げている。彼の手にはモンスターボールと、小さな金属製の工具らしきものが握られていた。

 この世界にもスリが存在する。一つ違うのが、財布目的ではなく、ポケモン目的のスリも存在するということだ。トレーナーのボールの持ち運び方は様々だが、俺やオニオンのように腰にボールホルダーを下げてすぐに取り出せるような持ち方をする者は多い。もちろん、ボールはきちんと固定されているので正しい手順でなければ外れないが、それでも手先の器用さや工具を使ってボールをスリ取って行く輩もいる。それが恐らくこの男だろう。ボールを翳して中を見る割に、一切そこから出そうとしないのが怪しいことこの上ない。自分のポケモンではないので、当然ながらボールから出せば攻撃されるか逃げられるからだろう。

「あっさりスられやがって、ちょろいトレーナーだぜ」

(わざわざ声に出して言うかね)

 犯罪者確定である。俺は気配を殺したまま足音を立てずに男に接近すると、彼の右手を捻り上げた。捻り過ぎると普通に骨が折れるので、程々にしなければならない。前腕を外側に捻られて物を握っていられなくなった男が取り落としたボールを宙でキャッチした俺は、それを自分のウインドブレーカーのポケットに突っ込んだ。

「なにをっ……!」

 続けざまに、こちらに振り向こうとした男の首側面に手刀を軽く一発。すると男はあっさりと意識を飛ばした。その隙に男の靴から靴紐を抜き、後ろ手にして手首を親指を縛って地面に転がしておく。本当に軽くしか手刀を入れていないのですぐに目を覚ますだろうが、これで碌に行動できないだろう。

 ウインドブレーカーからモンスターボールを取り出したところで、大通りの方から足音が近づいてくる。ボールの持ち主だろう。ボールを足元にそっと置いたところで路地の入口に到着したようなので、俺はさっさと踵を返してその場を去った。背中に声を掛けられたが、振り向かなかった。

 細い路地を何度か曲がる間、俺は下ろしていたフードを上げ、“全面が紫色の”ウインドブレーカーを脱いだ。素早く裏返して羽織ると、それは黒と紫のゴーストタイプ色に戻る。リバーシブルタイプの上着は簡単な変装に使えて便利である。犯人の男も追いついてきた被害者らしき人も、俺のことを紫色のパーカーの人間だと記憶しているので、大通りに戻った俺があっさり見つかることはないだろう。

 クレープ屋の前まで戻ると、オニオンがたどたどしくクレープを注文しているところだった。一生懸命に話している様子が何とも微笑ましい。俺は店員からクレープを受け取ると、オニオンたちと一緒にナックルシティをのんびりと見て回った。



+ + +



サイトウちゃんはゾル兄さんと何度もバトルする予定なので、不意の一撃とかにやたらと強い手持ちに育っていきます。ネギガナイトが真面目に騎士王。ギルガルドと覇権争いしそう。
なお、カントー地方の某格闘家は四天王のシバです。名前を聞いた時、ゾル兄さんは内心で「ああー! イワークの人!」という雑過ぎる歓声を上げました。何故彼はイワークを二匹パーティに入れてるんだ。

オニオン君の手持ちのミミ君は、ゾル兄さん家のお嬢さんにキュンキュンしてますが、当のお嬢さんは兄さんの嫁に行くことしか考えてないので割と茨の道です。ゾル兄さんが甘やかすから……

なお、身内を甘やかすのが好きなのは全兄さん共通なので、親友もリドルも甘やかされてる。



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