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バズりそうなモデル(予定)兼トレーナー(仮)
萌え 2020/03/03 01:31


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味
・一部、原作で絡みがない(はず)のキャラたちがいる





「ルイ君!!」

 優良健康美少女――サイトウちゃんというらしい――からのお言葉を「分かりかねますお客様〜」のノリで、失礼にならない程度にさらりとかわしてやり過ごしたその日の夜。ベッド代わりとして個室に入れてくれた元リビングのソファの上で、逆立ち腕立て伏せ(軽い鍛錬)をしながら手持ちポケモンたちと戯れていると、血相を変えたテオさんが飛び込んできた。ノックはしてくれているが、その直後にドアをぶち開けたのでノックの意味はない。テオさんの髪や肩、服の裾が濡れたままなので、夕方から降り出した雨の中を急いで帰ってきたのだろう。

「これどういうこと――ってこの状況どういうことかな!?」

 逆立ち腕立て伏せをする俺の両足には、それぞれミミッキュとヒトモシが乗っている。正直なところ重さは大したことがないが、彼らを落とさないようにバランスを取るのはちょうどいい具合だ。お嬢さんたちも楽しそうなので一石二鳥である。ゾルディックアトラクションをご愛顧いただきありがとうございます。ただし本場(実家)のアトラクション(拷問訓練)は普通に死ぬから勘弁な。

「ポケモンたちと交流しながらバランス感覚を鍛えてます」

「君、大道芸人にでもなるつもり!?」

 いえ、教師兼暗殺者兼ドアマンのモデル志望です。ちょっと意味が分からない。だが俺の場合、割と本気でモデルより大道芸人の方がスペック的に向いている気がしてきた。あれも観客に魅力的なアピールをするスキルが必要だろうから、一朝一夕にはできるものではないだろうが。

 開幕で面食らったテオさんは、しかしツッコミを一つ入れただけで気を取り直すと、自分のジャケットから赤のスマホロトムを引っ張り出した。

「どうして特技があるって教えてくれなかったの!? プロフィール設定するときに僕、聞いたよね!?」

「はい?」

「これ、ルイ君だよね!? こんなことできるなんて、全く知らなかったよ!」

 テオさんの手でビチビチしているスマホロトムは、「お気に入りから開くロト〜」と呑気な声を上げて動画ページを再生する。そこには、なんだかんだ手加減しつつもさくっと強盗二人を床に沈める俺の映像があった。俺の斜め後ろから撮った映像で、俺が左腕でミミッキュの入ったボールを投げているのがよく見える……一般的には早すぎる動作かもしれないが。服の間からの映像の様で、恐らくは俺があの時に見かけた隠し撮りスマホロトムのものだろう。

 動画はSNSらしきものに投稿されているようで、動画の下にはガラルで使われている文字がずらずらと並んでいた。もちろん読めない。

 俺は動画が一巡するところまで眺めたあと、とりあえず苦笑いした。

「……特技というほどでもなかったので」

 何しろ、俺が育ったのはかの魔境・ハンター世界である。祖父・父・弟という俺より強い人間が身近にいたし、なんなら知人(不名誉)に自称奇術師(殺人鬼)やら幻影旅団の団長(犯罪者)というクソ強い連中もいる。そんな環境で「特技は素手格闘です」と言おうものなら鼻で笑われる、どころか呆れを通り越して憐れまれる。そのため、自分の体術が特技に当たるという認識がこれっぽっちもなかったのだ。そのくらいできるよね? できなきゃゾルディック名乗れないよ?? 血反吐はいて修行やり直す??? という先入観の圧がヤバいので。俺の中では、胸を張って得意と全方位に言い切れるのは、感謝の正拳突き一万回を毎朝の日課に出来る域(要・音速越え)に到達した人間くらいだと考えている。ハンター協会会長、あなたです。

 しかしながら、俺のそんな修羅の国事情など露も知らないテオさんは、ずずいとスマホロトムの画面を俺に近付けた。動画がリピート再生されてとても恥ずかしいのでやめて欲しいが、言える空気ではない。

「これは! 特技と!! 言います!!!」

「ハイ」

 俺はソファの上に正座した。ミミッキュとヒトモシも空気を読んだのか、俺の両側にちょこんと大人しく座っている。可愛い。

「女性の! バストサイズ当てよりも!! よっぽどウケる特技です!!!」

「え? そうですか?」

 男性間ではそれなりにウケる気がしたのだが。……あ、ウケを狙う対象が違い過ぎたか? あと、そろそろスマホロトムとキスできそうな距離なのでやめて欲しい。仮にロトムがメスであってもさすがにキスは遠慮したい。うちの子だったら考える。ミミッキュとヒトモシならキスできるので。

「ミステリアスキャラで行きたいと言っていたのに! バストサイズ当てられますと言われた時の! 僕の気持ちが分かりますか!?」

「その節は大変申し訳ありませんでした」

 クールなミステリアスキャラの特技がバストサイズ当てって、イメージ台無しにも程があるな。それを考えると申し訳ない。大人しく頭を下げると、テオさんはようやくスマホロトムを俺の顔から離した。

「この動画をサイトウさんとメロンさんがポケッターで取り上げてくれたお陰で、一気に拡散し始めているんだ。ナックルシティにすごいドアマンがいるってね」

 ポケッター……ツイッターのことだろうか。どうやら優良健康美少女とメロンさんは有名人だったらしい。俺がピンとこない顔をしていると見て取ったテオさんが、「サイトウさんはラテラルのジムリーダーで、メロンさんはキルクスのジムリーダーだから!!」と説明してくれた。マジか……マジか……。最近のジムリーダーってツイッターやってるんだな。ガラル地方だけなのかもしれないが、やはりエンタメ色が強い。ガラルリーグはこの地方の一大興業として成立しているようなので、ジムリーダーにもそういった面での順応性が求められるのだろうか。

「明日になったらすぐ仕事用のスマホロトム、買いに行こうね」

「え?」

「このままバズりそうだから、こっちも公式アカウントをつくってSNSをするんだよ! プロダクションのサイトにはルイ君のプロフィールを載せてるけど、それだけだと弱いからね」

 俺は今、この世界で使える携帯電話を持っていない。文盲なので、通話機能以外をまともに使えないと思われるし、何より買う金がないからだ。連絡先が居候先以外にないのは大問題なので、通話だけしか使えないとしても初任給で購入予定だった。職場に提出した連絡先はテオさんのスマホナンバーで、今のところ使う機会がないのが幸いだがなかなか迷惑を掛けていた。

 そんなわけで、給料前借扱いで購入するのに異存はないが、さすがにSNSはできない。俺が文盲であることは、テオさんと書面でのモデル契約を交わした時点で彼の知るところとなっている。それなのにSNSとはと思っていると、テオさんはあっさりと告げた。

「文字のことは心配しなくて大丈夫だよ。ちゃんとロトムが入っているスマホを買えば、ロトムが全部やってくれるよ」

「そうなんですか?」

「もちろん! スマホに入り込んだロトムは、特に人の言葉をよく理解できるからね。僕たちが話すだけでその通りのことをしてくれるし、文字の入力だってしてくれる。文字を読んでもくれるから、君にとってはいい通訳になってくれるはずだよ」

 なるほど。道理で「金が溜まったらスマホロトムを買いなさい」とテオさんが口を酸っぱくして勧めてくれていたわけだ。

「まあ、全部のスマホロトムが喋れるわけじゃないから、喋れるのを選ぶとそれなりのお値段だけどね……」

 現実なんてそんなものである。ロトムすら入っていないスマホは安いが、それではSNSまでできない。

「正直、ある程度モデル業ができるようになってから話題になって欲しかったんだけど、この流れを完全に捨ててしまうのももったいない。今、ネットに参入するしかないよ」

 おっしゃる通りでしかないので、俺は粛々と従うのみである。SNSなんてまともに使いこなした記憶がないし、文字が読めないので不安がさらに増すが、そこはロトムとテオさんに助けてもらうしかない。

「話題性の大きさに、君のモデルとしての実力が全く伴っていない。それが悔しくて仕方ないよ」

「テオさん……」

「でも、利用できるだけしてみせる。せっかくバズりそうなんだから、何か仕事の一つくらいは取ってきてみせるよ。君は僕が持ってくるチャンスをモノにして、それから普段の生活でモデルとしてのイメージを崩さないように心がけてね」

 テオさんは本当に真面目に俺を支援してくれているので、どうにかして応えたいという気持ちはある。はっきり言ってミステリアスでクールなキャラと俺は結び付かないのだが、それがいいというならやってみようと思えるくらいには。とりあえず日常生活上、人前でおっぱいの話をするのは控えようと思います。いや、今までもしてきたわけではないけれど。

 それはそうとして。

「テオさん、お願いがあるんですが。明日のスマホ、ロトムが入っていない安いものを買ってもらえませんか?」

「え?」





 ロトムはプラズマポケモンと呼ばれており、でんき・ゴーストタイプらしい。……そう、ゴーストタイプ持ちである。今のところ俺は、同じくゴーストタイプ持ちのミミッキュとヒトモシをホイホイし、バトルなしで手持ちに加えている。だからもしかすると、ゴーストタイプのポケモンならワンチャンあるのではないか? というせこい考えが脳裏を過ぎったのだ。

 翌日午前、通常のスマホを給料前借で購入した俺は、その足でワイルドエリアに足を踏み入れた。雨が降り続いているので雨合羽を羽織った状態で、黙々と歩く。目指すはナックルシティの南西すぐ傍にあるげきりんの湖を越えた先にある陸地だ。普段のブーツなら湖の上も歩けるのだが、それは実家に置きっ放しなので、湖の外周をぐるっと迂回する。無関係の野生のポケモンは、視線を合わせずさっさとスルーした。無用なバトルは避けたい。

 スマホを始めとした様々な家電製品に入り込んでいるらしいロトムだが、もちろん野生のロトムも存在する。彼らの生息地がナックルシティに近いと聞いたため、俺は直接スカウトしに向かうことにしたのだ。ロトム入りが高いのなら、ロトムを現地調達すればいいじゃないという某土木系アイドルグループ的な発想である。ワイルドエリアは危険な場所だが、テオさんには特に止められなかった。その代わりに「昼食までには帰ってくるように」と言い渡されたのだが、俺は小学生か?

 げきりんの湖を越えた先に生い茂る草むらに、確かに彼らはいた。ちょうど雨の日に活動的になるらしく、赤い電球のような形をしたポケモンがあちこちを飛び回っている。直線的にジグザグと移動する速度はなかなか素早く、一般人が追いかけようとしても追いつけるものではないだろう。

 ふと、一匹のロトムがこちらに気付いた。彼(性別はないらしい)はジグザグ飛行でこちらに近付いてくると、興味深そうに周囲をウロウロと飛び回る。体長はミミッキュと一回り大きいくらいで、30p程度だろうか。敵意は見られないが、ソワソワしているようだ。初対面の時のヒトモシが思い出される。するとそれを皮切りに、次々と草むらからロトムたちが顔を出してこちらに近付いてきた。降りしきる雨の中、蒼白い電流を帯びた赤い電球が周囲をピュンピュンと飛び回るのは異様な光景だろう。

 こちらに殴り込んでこない時点で掴みは上々とみなし、俺は防水加工バッチリのスマホを掲げた。

「誰か……俺のスマホに入って一緒にお話ししながら暮らしてくれる素敵なロトムさんは一匹ほどいませんか!?」

 一瞬の空白後、恐らく一番最初に俺に寄ってきたロトムが唐突にカンカンカン!! と甲高いサイレンのような爆音を鳴らし始めた。思わずギョッとしてそちらを見ると、それに触発されたのか他のロトムまで同じようにカンカンと騒ぎ出す。爆音×爆音で耳をつんざく凶器である。お前らうるせーよ! 鼓膜破れるわ!

「あ」

 もしかするとその騒音は、ロトムなりのアピールだったのかもしれない。最初に騒ぎ出したロトムが、隣で騒ぐロトムに跳び蹴りのような体当たりをした。電球に浮かぶカートゥーンな顔がキレていたのを俺は見た。「おめー横入りしてんじゃねーよ」と言いたげな顔だった。それが試合開始のゴングとなったらしく、周囲のロトムたちは一斉に近くの草むらに雪崩れ込むような形でリアルファイトを始めた。サイレンは止んだものの、草むらからとんでもない音量の放電音が鳴り響き、辺り一帯に電撃が飛び交いまくる。……ここは「俺のために争わないで!」って言うべきか?

 30分後、ロトム同士の熾烈な争いを勝ち抜いた一匹の猛者が、フラフラとしながら俺の方へ飛んできた。何となく予感するものがあったので、「もしかして一番最初の子?」と尋ねると、ふらつきながらも嬉しそうな顔をした。お、おう……最初に仲間に喧嘩売った奴か……。あまりにも傷だらけだったので、スプレータイプのきずぐすり(ミミッキュとヒトモシ用だった)を軽く吹き付けてやってから、テオさんにもらったモンスターボールに入ってもらった。すぐにでもスマホに入ってもらう予定だったが、ポケモンセンターで休養してからの方が良さそうだ。

 なお、辺りに漂う焦げた臭いに申し訳なくなった俺は、持っていたきずぐすりを全てその場で焦げ付いているロトムたちに吹き付けて回った。俺とロトムのバトルになる可能性は考えていたが、まさかロトム同士で俺を巡って争われるとは思わなかった……本当にすまない……。え? ロトムとバトルになった場合のでんきタイプ技の対策? 俺は実家ででんきタイプ技の耐久訓練したことがあるので問題ない。むしろ買ったばかりのスマホが爆発しないか心配だった。

 こうして俺の手持ちに加わったロトムはなかなか図太い性格をしており、情報化社会の波にも負けずに俺の手助けをしてくれるようになった。ところでテオさんが俺のことをミステリアスゴリラと言い始めたのだが、抗議した方がいいのだろうか。



+ + +



兄さんのロトム:ずぶとい性格。さわぐを覚えているのでLvは最低でも55以上。
心配しないテオさん:ワイルドエリア宿泊歴・体術・発想のヤバさで思考を放棄。軽く人外扱いしているだけです。
ミステリアスゴリラ:テオさん的には妥当。交流が深まると、ゴリランダーの方が兄さんより繊細に見えるようになります。ゴリランダーは調和を望む穏やかなドラマーです。



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