斎藤、藤堂、そして要が御陵衛士として伊東と共に屯所を去ってから数日が経った夜。さて寝ようかと布団に潜り込んだ千鶴に来客の知らせが届いた。こんな夜更けに誰だろう。そんな思いを巡らせながら向かった広間。そこに新選組幹部と共にいたのは思いも寄らぬ人物だった。







「驚かせてごめんなさいね」

屯所を尋ねてきたのは、先日城下で知り合ったお千ちゃんだった。彼女と知り合いになった経緯は此処では多くを語らないでおこうと思う。それよりも今、私にとってとても大きな問題が転がり込んできたからだ。

彼女ことお千ちゃんが鬼であること。

私が純血の鬼の血筋、東で一番大きな鬼の家系、雪村家の生き残りであるということ。

風間さん達は危険なので、これ以上私を新選組には置いておけないということ。

そして

「要という子は此処にはいないの?」
「お千ちゃん、要さんと知り合いなの…?」
「知り合いも何も、彼女は私の…ええ、そうね。要と私は、姉妹関係というところ、かしら」

広間の一同が驚く。要さんとお千ちゃんが姉妹、ということは、要さん自身も鬼?だから鬼や羅刹について詳しいの?よく分からない。私が首を傾げると、お千ちゃんは苦笑した。

「千鶴ちゃんの様子を見て分かったわ。あの子、自分のことについて何も喋ってないのね」
「要さんが?」
「そう。新選組の方達にも言う必要があるだろうから、これはまた後でもう一度言おうと思ってるんだけど…市井要は」






「ぎ、義姉妹!?」

素っ頓狂な声を上げたのは新八である。

千鶴と千が会談を終え広間に戻った後、千は今は此処にいない女性、市井要について語り始めた。何故新選組に関係ないお前が要のことを知っている、という目も向けられる中、開口一番、千の口から飛び出したのは、要と千姫が義姉妹関係にあるということだった。

新八の声に千は肩を竦める。

「正式に契りを結んだ訳ではなく、あくまで、義姉妹のような関係にある…ということです。私の姉である大河という女性と要が江戸で経営していたのが、例の診療所です」
「大河って…あいつ生きてんのか」
原田は大河と面識があった。彼はこの場で多くを語ろうとはしないが、千は彼を疑うこともなく、大河の現在について述べる。

「ええ。今も医者として働いていると思いますよ」
「…そうか」
「…それはともかく、市井要という人間が何故羅刹に詳しいのか。それは私達鬼の一族と少なからず関わっているからです。彼女は元々、孤児だったと」

孤児という言葉に、思わず近藤が眉をひそめる。

「…捨て子、か?」
「ええ…彼女にもまた色々複雑な事情はありますが、一言で纏めるならその言葉が適当かと」

突如知らされた要の素性に、一同は驚きを隠せない。しかし筋は通った。ただの医者である要が何故鬼や変若水について詳しい知識を持っているのかーー主な理由は、鈴鹿御前の血を引く鬼、千姫と義理の姉妹関係にあったからだ。

一方で、疑問が解消されたにも関わらず、千鶴は首を傾げたままだった。どうした、と隣にいた土方が彼女に声をかける。

「いえ、お千ちゃんの言うことは分かったんですけど…ならどうして、要さんは不知火さんにあんなにも過剰に反応したのかなって」
「…何だと?」
「二条城の警備の時、三人の鬼が襲撃してきました。その時…何だか、不知火さんと要さんが、まるで旧い知り合いのように見えたんです」
「…そう。千鶴ちゃん、そこまで要のこと見てたの」

あなたがいてくれてよかった、と言って千は千鶴の手を握りしめ項垂れた。彼女の肩は微かに震えているように見えた。そして千は顔を上げると、幹部達にまっすぐ目を向けて、これだけは念頭に置いて聞いて頂きたいのですが、と言って口を開く。震えは止まっていた。

「これからお話することは、私と君菊が集めた情報を纏めたものです。真実は要しか知りません」






御陵衛士の屯所は、新選組の屯所とは比べ物にならない位狭かったけれど、それでも意外と居心地は良い。与えられた部屋も同様に狭く、新選組の屯所のような庭も無かったけれど、その代わりに星がよく見えた。特に今夜のような晴れた夜には星がよく見える。

「…」

以前平助としたように、縁側に寝転がり目を閉じる。きらきらと瞬いていた星の明かりは消えて、視界が真っ暗になる。

暗闇。幼い頃、私は暗闇にいた。それは心理的に言えること。そんな暗闇を切り開いてくれた、私を絶望の淵から救い出し、また新たな絶望の淵へ突き落とした男の名を、私は生涯忘れない。否、忘れられないだろう。




「晋作…」




今もその名を口にすると、彼が笑顔で小さな私の頭を撫でてくれるような気がするのだ。








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