「…まだやっているんですか」











「悪いですか?」


昨晩決行された池田屋への討ち入り。要はそこで負傷した安藤と新田の看病に夜通しであたっていた。額を割った平助と血を吐いた沖田の看病は、手の空いている隊士に一時的だが任せてある。


そんな要がいる部屋の障子を開けたのは、忍び装束から普段の深緑色の着物に着替えた山崎。


「何故あなたは、会って間もない他人の生に固執出来るんですか」


山崎の質問にも要は手を止めることも顔を上げることもしない。


「…昔ね、救えなかった人が2人、いるんです」


要はぽつりと呟く。そしてその2人のことを語り始めた。


1人は自分が西洋にいた頃、初めて自分に声を掛けてくれた人物。優しかった、姉のような女性だったと。しかし自分を助ける為に、その優しさ故に彼女は自身を犠牲にしてしまったのだと。


そしてもう1人は、日本に来たばかりで何も分からなかった自分に優しくしてくれた人物。知識も医療道具も何も持っていなかった自分は何も出来ないまま、その人物を死なせてしまったと語る要に山崎は固く閉じていた目を開けた。


「だから、その人達を失った時のような思いは、二度としたくないんです」


額に滲んだ自身の汗がぽたりと床に落ち染みを作っていくが、彼女はそれに見向きもせずに心肺蘇生を続けていく。


「この人が生きている限り諦めない。絶対に」


山崎が動いた。今までただ要の話を聞いていただけだった彼が動いたのが意外だったのか、要は目を見開く。


「手伝います」


山崎は着物の袖を捲ると新田の治療を始める。普段は諜報の仕事をしていると聞いていたため、彼に医療の心得がないと思い込んでいた要は驚いた。しかし


「…有難う」


要がほっとしたような笑みを浮かべたのを、山崎が見逃す訳もなく。


「…いえ」


山崎も口元に緩く笑みを浮かべた。ほんの、ほんの少しだけ、要への偏見が無くなったかもしれないと思い乍ら。












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