「部長、殴られたってほんまっすか」

3年2組の教室で白石蔵之助が殴られた。しかしそれには詳しい訳があるというのに、どうも人というものは好奇心や不安を掻き立てる噂を作るのが好きらしい。それは此処の生徒に限らず全人類がそうだと思う。だから、白石が殴られたとだけ聞き好奇心で保健室へやって来た財前は、彼が体の何処かに怪我を負ったものと想像していたに違いない。

ところがどっこい、これがまったくの見当違い。白石の所属する委員会の活動場所でもある保健室を訪れれば、そこには擦り傷1つすら負ってない部長・白石蔵之助の姿があった。体育の授業中だったのだろうか、学校指定のジャージを身に纏った財前は面白くないとでもいうような表情を浮かべ、白石を見て首を傾げた

「噂っちゅーんは不確かで曖昧や。やからこそ、その不透明さに人間は惹かれるんかもしれんなあ」
「部長?」
「俺は怪我なんてしとらん」

保健室のベッドに腰掛けたまま、白石は両手を広げる。制服のシャツにも一切の乱れがない。しかしその横では、椅子に座った謙也がぐったりとした様子で椅子の背にもたれていた

「でも殴られたんやろ名前に」
「殴らせたっちゅーんが正しい。名字さんに一切非は無い」
「何したんや白石は」

此処に通って3年。遅刻や欠席は一切無し。容姿端麗、成績優秀。その美しさから、入学してから3年間ずっとミス四天宝寺と呼ばれている彼女が、人通りの多い教室で白石蔵之助を殴るという信じられない行動に出た。しかし名前の幼馴染であり彼女を最もよく理解する1人である忍足謙也は確信していた。彼女が白石を殴る前に、確実に彼が名前に何かをしたのだと。謙也にそれを尋ねられた白石はしばらく黙り、一息ついてから朝の出来事について話し出した

「名字さんに触った」
「はあ!?」
「いつも通りや。挨拶して、適当にあしらわれそうになった時、名字さんに触れた。頬に。財前、そこに立っとらんと入ってきぃ」

事態が読み込めず、保健室の入り口の扉の所で立ったままだった財前に白石が声を掛ける。そしてその事情を改めて聞いた謙也は頭を悩ませた。その表情で、ブリーチのしすぎで痛んだ髪をがしがしと掻く。

「名前には男嫌いの気があるって話したよな、俺」
「話したな」
「つまり白石は、名前が相当な男嫌いっちゅーことを知りながらも、あいつの頬に触れた訳や」

謙也は眉間を指で解きほぐしながらじろりと謙也を睨む。その会話を聞き事実を把握したのか、やっと彼等が語る話の全体像が見えたとでもいうように財前が溜息を吐いた。

「部長、変態にも程があるんとちゃいます?」
「かもしれんなあ」
「どーりでさっきから人だかりがうじゃうじゃ出来てるわけっすね」
「人だかり?」








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -