リョーマが帰ってきた。正確に言うと、彼は今飛行機に乗っていて、彼の乗った飛行機がちょうど空港に着いた所だ。

全国大会が終わってから突然リョーマは姿を消した。部員の人には知らせてなかったらしいけれど、リョーマはまるで秘密をこっそり教えるように私に言った。

「あのさ、俺」
「うん」
「海外、行ってくる」
「うん」

表には出さなかったけれど内心ではすごく驚いていた。リョーマが、外国に。私はリョーマに抱き付いて、行かないで、なんて言いそうになったけれど、それを堪えて言った。

「リョーマ、いってらっしゃい」

あれから早いものでもう3ヶ月。一年のうち4分の1が過ぎた頃、アメリカにいたリョーマは電話で、また秘密をこっそり教えるように私に言った。

「今度、さ」
「うん」
「日本に、帰る」
「うん」

それを聞いた私は携帯を持ちながらその場で飛び跳ねた。翌朝マンションの下の部屋の人に怒られるのも気にせず飛び跳ねた。私はリョーマに聞いた、いつ帰ってくるのと。そして彼は言った。もう今飛行機に乗るところだと。

アメリカから日本まで約13時間掛かる。因みにそれは日本が夜9時、あちらが朝の8時の時の話だった。此方に着くのは日本時間で朝9時。つまり、今だった。

「リョーマ、おかえり」

リョーマを見つけた私は、パスポートのチェックを受け終わりロビーへ出てきた彼に駆け寄る。3ヶ月離れていただけなのに、リョーマとの目線が高くなった気がして、また背が伸びたんじゃないかと思ったのは内密にしておきたい。教えたら調子に乗るから。でもやっぱり言っておこうかな。よし、そうしよう。

「久し振りだね」
「久し振り」
「縮んだ?」
「…ふーん、名前は帰国した早々、俺に張り倒されたいんだ?」
「ごめんなさいうそです冗談ジョーク。はい。背、伸びたね」
「だと良いな。…名前は太ったんじゃない」
「し、失礼な!」
「うそ。冗談」

容赦ない言葉、だけどそれは相変わらずのリョーマで、私は安心した。

立ち止まり、彼の服の裾を掴む。それに影響されるかのようにリョーマの足も止まる。

「…」

リョーマはこれから山に籠もる。らしい。今回彼が帰ってきたのは「なんとなく」ではない。U-17という合宿所からお呼びが掛かったからだ。高校生の為のテニス合宿で、今回特別に、全国大会で活躍した中学生50名が招待されるらしい。勿論優勝校である青学レギュラーも

私達は再び歩き出す。もうすぐ空港の出口だ。またこれから離れなければならない

「ねえ」
「なに」
「外国の人、強かった?」
「んー…まだまだだね」
「そっか。でも、楽しかったでしょ」
「それなりに」

曖昧な返事しかしないところは相変わらずで安心した。でも彼の口調と、口角の高さから察するに、どうやら外国もなかなか楽しかったらしい。そう思うと少し寂しい。私はリョーマがいなくなってから、普段の生活がカラーからモノクロになるように色褪せてつまらなかったのに、リョーマはそうじゃないのかと思うと、そう。重い女にはなりたくないから絶対に言わないけれど

「元気にしてた?」

気付いたらそんなことを聞いていた。ありきたりで平凡すぎる質問。何を聞いているんだ私は馬鹿か。しかしふとリョーマの足が止まる。不思議に思い、リョーマの背にぶつからるのを回避するべく私も足を止めた。そして彼はくるりと、後ろを歩いていた私を振り返り、何事かと首を傾げる私の頭に手を乗せ、今の私にとってこのうえない最高の言葉を言ったのだ。



「今、元気になった」








20120312












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