「金ちゃんはたこ焼きで成り立ってると思う」

私は部室で着替える金ちゃんを横目に、部誌にペンを走らせながらそう呟いた。もうすぐ始まる新学期。新しいクラスに進路決定、そして新入生勧誘。

私達は四天宝寺中学の三年生になる。

義務教育とはいえ金ちゃんが三年生に進級出来たのは奇跡としか言いようがないと私は勝手に思っている。授業中あれだけ居眠りしていてテストの点数も散々、提出物もおろそか…だった金ちゃんが進級出来たのは、やっぱり財前部長の指導が大きかったんだろう。財前部長は三月に卒業し、白石先輩や忍足先輩のいる高校への進学を決めた。話を聞くに、あの人は試験でトップの成績を取ったらしい。

「金太郎の教育係はお前に任せるさかい、まあ気張りや」

私にはそんなことを言って卒業した財前部長。彼の役職を引き継いだのは言わずもがな四天宝寺のゴンタクレ・遠山金太郎こと金ちゃんである。一年の頃は私より背が低かったのに、そんな面影は何処へやら、ぐーんと背が伸びて金ちゃんは私を見下ろす程の身長になった。身長と同じくこのまま成績も伸びてほしいものである。

そして四月一日。本日の天気は快晴。新部長こと遠山金太郎の誕生日である。一日の練習を終えた金ちゃんはユニフォームから制服に着替え、マネージャーの私は部誌を書いている。金ちゃんは今日沢山の部員におめでとうと言ってもらって上機嫌だ。勿論私もおめでとうと言った。しかしこれで終わるわけにはいかない。私には重大任務が残されている。そう、昨日必死で焼いたこの、苺が沢山乗ったショートケーキを渡すという任務が…!

「たこ焼き食べたいわあ」

と意気込んでいた所に金ちゃんのこの一言である。なんというデッドボール。私は何故たこ焼きではなくケーキを用意したのかと撃沈し、真新しい部誌を床に投げ捨てたい衝動をなんとか抑えた所で、話は冒頭の私の言葉に戻るのだ。

「なんでワイがたこ焼きで出来てると思ったん?」
「口を開けばたこ焼き。朝も昼もおやつも、それと多分夜ご飯もたこ焼き。これをたこ焼き人間と言わずして何と言う」
「お好み焼きとかも食べるけどなあ」
「どっちにしろ粉もんやん」

溜息を吐くと、私は荷物を持って立ち上がる。職員室にいるオサムちゃんに部誌を渡しに行かなければならないからだ。まあオサムちゃんもそんな厳しくないから、ちょっとやそっと出すのが遅れたくらいで何も言われへんけど、陽も落ちてきたので何となく急かされる。

(くそう、今晩はやけ食いだ)

このケーキの行方は私の胃袋に決定である。というか、渡せないケーキなんて悲しすぎる。だからこそ、ケーキの存在に気付かれないうちに早く帰りたかった。

「じゃあ私職員室寄るし、また明日…」
「なあ、それケーキ?」
「えっ」

金ちゃんの言葉に、右手に持った部誌と左手に持ったケーキの入った袋を落としそうになる。確かにこの袋の中には私が作ったケーキが入っている。それは事実だ。しかし何故金ちゃんはそれが分かったのか

「今甘い食べ物食べたいねん」
「た…たこ焼き食べたい言うてたやん」
「たこ焼きはいつでも食べれるやん。今はケーキ」

部室の床に視線を泳がせていると、不意に床に影が入る。ゆるゆると顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべた金ちゃんが立っていた。

「わいの誕生日やから、名前が頑張ってケーキ焼いてきてくれたん、知ってる」
「な、んで」
「他のマネージャーが教えてくれた」

そう言って笑う金ちゃん。確かに他のマネージャーにケーキのことを話してはいたけど、まさか本人に教えるとは思っていなかった。くそう、今日に限って先に帰ったのもこれを見越してのことだったのか。今更ながらにあの友人の怪しい笑みの意味を理解した。

「あ、味見はしたけど、味の保証はないで?市販のケーキの方がよっぽど」
「わいは名前の作ったそのケーキが食べたい」
「…今?」
「今や」
「フォークないんやけど」
「手で掴んで食べる」

これぞまさに押し問答。段々と顔を近付けてくる金ちゃんに危機を覚え後ろに後退するも、部員用ロッカーにぶつかってしまう。後ろにはロッカー、前には金ちゃん。逃げ場はなくなってしまった。

「で、他に何か言うことない?」

ロッカーに両手をついた金ちゃんは、にっこりと楽しげに笑みを浮かべている。そうしてとうとう観念した私は彼に言うのだ。

「誕生日おめでとう。好きです」








金ちゃん誕生日おめでとう!

20120401












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