西くんはわたしが学校に行ってる間、どこかへ出かけているときがあるみたいだった。学校から帰ると部屋の鍵が閉まっていて、わたしは西くんが夜遅くに帰ってくるまで待っていたことが一度だけあったので(僚艦にでも開けてもらえば良かったんだけど)、部屋の鍵は玄関前の鉢植えの下に隠すことになっている。ちなみに何故この話をしたのかというと、今日正に西くんが出かけているからだ。

「ただいまー」

と声を出しても返事はないのだけれど。なんだかなあ、と小さく呟いた。

座り込み靴を脱いでいると、玄関の扉ががちゃり、と音を立てて開かれた。そこに立っていたのは言わずもがな西くんである。わたしを見た西くんは目を丸くした。

「帰ってたんだ」
「うん、ちょうど今。西くんもおかえり」
「…ただいま」

ふい、とほんのり顔を赤らめて目を逸らす西くん。本人曰わく、こういう挨拶をすることにはあまり馴れてないらしい。やっぱりその時も、あまり深くは教えてくれなかったけれど。

(かわいいなあ)

わたしがそう言うと西くんは必ずムスッとするので、声には出さず心の中で呟く。靴を脱ぎ終えたわたしは西くんの邪魔にならないように部屋へと上がる―つもりだったのだが、何故か西くんに腕を引っ張られた。

「どうしたの?」
「名前、これ」
「…え?」

西くんが差し出したのは、一万円札。それも一枚だけじゃない。諭吉がひとり、ふたり、さんにん…

「えっ、え、え!?5人!?」
「5人って…あ、これはこの前の服とかのやつな。あとこっちは食費とか部屋代とか」

平然とお金を差し出し、てきぱきとその割り振りについて話し出す西くん。私はあわててそのお金を西くんの胸に押し返した。

「だ、だめだよ!こんな大金…」
「だって、名前には色々迷惑かけてるし。気にすんな」
「そういう問題じゃなくて…」

わたしはお金がほしくて西くんを部屋に泊めてるわけじゃない。だめだよ。それに、こんなお金どこから用意したの。生活だって苦しくないし、こんなお金、受け取れないよ。どれだけいらないと言っても、西くんはわたしの突き返したお金を受け取らなかった。

「名前が使いたくないんなら、とりあえず持っとくだけ持ってて」
「…」
「世話になってるのに何もしないのは、俺も嫌だから。だから、」

と言われ手に諭吉を握らされたけれど、心の中がモヤモヤする。当の西くんは 今日のご飯どうするー? なんて言いながら、わたしを通り越して部屋の中へと入っていってしまった。わたしは諭吉を破り裂きたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて、小物入れの引き出しの中に仕舞った。







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -