昼休み。授業が終わった今、教室はガヤガヤと騒がしい。食堂へ向かう人や、今日は屋上で昼食を食べようなどと楽しそうに談笑するクラスメイトの中で、名前は頭を抱えていた。

「どうしたの名前。変な顔して」
「友達ちゃん…」

皆が笑顔を浮かべている中、今にも泣き出しそうな表情で眉間に皺を寄せる名前。ああ、と納得したように友達はぽんと名前の肩に手を置く。

「お弁当忘れたんだ?」
「ご名答…」

些細なことだった。今日は寝坊することもなく比較的順調に学校へ行く準備を進め、そしていつもより早めに家を出た。リビングのテーブルに、ぽんとお弁当箱を置いたまま。自分が作ったお弁当ならまだいい。夜に回せば良いだけだ。でも、と名前は溜息を吐く。

(今日のお弁当、西くんが作ってくれたんだよなあ…)

彼の作ったお弁当。あのほんのり甘い卵焼きが好きな名前にとって、今日お弁当を忘れたことは一生の不覚に値することだった。

(ああ、わたしの馬鹿…)
「学食行く?それか購買?」

友達の声を背に自己嫌悪に陥っていると、ふと外からざわめきが聞こえてきた。何かと思い名前と友達が窓から外を覗き込むと、校門の方にぽつんとひとり人が立っているのが見える。目を細めてみるものの、視力の悪い名前にはよく見えない。そんな名前とは反対に、友達は首を傾げた。

「あれ。あんたの幼馴染じゃない?」
「うそっ!?」
「や、多分そうだと思う。私視力2.0あるから」

名前は驚きのあまり窓からずり落ちそうになる。友達には、西のことは自分の幼馴染ということで納得してもらっている。おそらく彼女は名前が誤魔化していることに気付いているのだろうが、誰にも言いふらすようなことはしていない。

「ごめん友達ちゃん、わ、わたし、ちょっと行ってくるね!」
「いってらー」

友達は笑みを零した。どたばたと騒がしく走り出した友を見送り乍ら。










校門には人だかりができていた。西くんは綺麗な顔立ちをしている。好みは分かれると思うのだけれど、世間一般で言えばイケメンだ。そんな彼を女子校暮らしの女の子達が放っておくはずがない。

「と、通してっ」

わたしは西くんを救出するべく、野次馬の中を割って入る。やはりというべきか、その中心には西くんがいた。

「西くん!」
「あ、名前」

猫をかぶった西くんが、そこにいた。最近分かってきたことだけれど、西くんが何かに対し警戒しているやそれを嫌悪している時はだいたい猫かぶりだ。そして今がそうだった。

「名前お弁当忘れただろ。はいこれ」
「ちょ、こっち!こっち来て!」

西くんを女子の群れから引っ張り出しとりあえず歩き出す。とはいえやはり興味津々なのか、野次馬の女子達はわたしと西くんの後ろをぞろぞろとついてくる。

「着いてこないでっ!!」

無意識だったと思う。けれど、嫌だった。他の子が西くんに付きまとうことが。

わたしは女の子達にそう怒鳴ると、西くんの手を掴んで走り出していた。












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