わたしは一体どうすればいいのだろう。この場所にいることがすごく恥ずかしくて、変な感じがする。というかわたしはここにいても良いのだろうか。
「でさー、私の彼氏すっごいエッチ下手なんだよね。だからこの間元彼としちゃった」
「私の彼氏も下手だけど、バイブとか使ってくれるから気持ち良いよ」
どうして今こんな話になっているかというと、それはさかのぼること十数分前。
*
昼時。平日である今日は勿論学校がある訳で、そうなると、学生である私は必然的に学校にいる訳で。
「名前ちゃん、友達ちゃん」
「ん?」
がたがたと音を立てながら机を動かしていると、わたしと友達ちゃんのそばに立っていたのは同じクラスの女の子。と言っても女子校だから女の子しかいないのは当たり前だけど。
「今日さ、一緒にお弁当食べない?普段あんまり喋ったことないから、ずっと二人と喋りたいなと思ってたんだ!」
「あ、うん。全然良いよ」
普段わたしは友達ちゃんとお昼を食べているから、クラスの他の女の子と食べることは今までなかった。だから内心喜んでいたし、色んなことを話せたら良いなあ、なんて思っていた。
そしてまたしてもわたしの考えは甘かったことを思い知らされることとなり、話は冒頭に戻る。
*
「でさ!友達ちゃんの彼氏さんってどんな人なの?」
「それわたしも気になってた!」
わたし達をお昼ご飯に誘ってくれた女の子は、どちらかというとちょっと派手なグループの子で、ぶっちゃけてしまうとわたしはあまり得意ではなかった。ただ友達ちゃんは誰とでも平等に接することができる人だから、そういう話にも普通に返している。
ちなみに此処だけの話、友達ちゃんの彼氏さんはかなり格好いい。
「普通の人だよ」
「どこまで進んだ!?」
「んー…そこはあえて言わないでおこうかなあ」
「え〜」
女の子同士の会話は何だかすごいなあ。
(あ、わたしも女の子だけど。)
そんなことをぼんやり思いながら卵焼きを口に運ぶ。西くん特製の、ほんのり甘い卵焼き。卵焼きだけに留まらず、今まで西くんが作った料理は何でも美味しかった。言うまでもなく、今日のお弁当も。
「名前ちゃんは、彼氏とかいないの?」
誰かは分からないけど、ある一人の女の子の言葉で、友達ちゃん意外の女の子が一斉にわたしの方を向いた。友達ちゃんは何事もないようにウインナーを口に運んでいる。冷静な友達ちゃんとは違い、びっくりしたわたしは卵焼きをご飯の上に落としてしまった。
「えっ、あ、えと、」
「ああ、この子すっごい人見知りで女子校育ちだからさ、あんまり男子に慣れてないみたいで」
焦るわたしの代わりに淡々とした言葉で答えてくれたのは、隣に座る友達ちゃん。
「え〜、名前ちゃんかわいいのに」
「あ、ありがとう…?」
「名前、そこは疑問形じゃなくて素直に喜べ」
「う、うんっ」
別にわたしだって、そういうことに興味がない訳じゃ、なかった。兄弟だっていないし、昔から男のひとといえばお父さんで、小中高と女子校育ちで。ただ、男の人という存在に慣れないだけで。
「大丈夫だって!名前ちゃんかわいいから、すぐに彼氏出来るよ〜」
「焦ることないって」
「あ、はは…」
どういう風に返せば良いか分からなくて、わたしはとりあえず苦笑いを浮かべておいた。
(…あれ?)
そんな女の子同士の会話の中で、ふと浮かんだのは西くんの顔。
(どうして、わたし今、西くんのことを思い出したの?)
「…名前、どうかした?」
声を潜めて友達ちゃんがわたしに話しかける。他の女の子達は既にお弁当を食べ終わり違う話に移っていたようで、友達ちゃんは放心状態だったわたしの目の前で手を降っていた。「あ、うん、大丈夫…」
「…?ま、無理しないで」
*
「あれ、名前早いな。早退?」
部屋の扉を開けると、すぐにリビングが見渡せる。西くんはその中心にあるソファに、いつものように座っていた。
「名前?」
生まれて初めての、早退をしてしまった。友達ちゃんに心配を掛けたくはなかったけれど、あのお昼の会話からわたしの中の何かがおかしくなったのは確実だった。
いつまで経ってもリビングに入って来ないわたしを不思議に思ったのか西くんは首を傾げ、玄関で立ちっぱなしのわたしの前までやって来た。
「名前、大丈夫?」
「ふ…」
西くんはわたしの額に手をあてる。熱はないけれど、初めて早退したことや友達ちゃん達とのお昼の会話が頭をぐるぐる回って、少しふらふらする。
「名前が早退って珍しいな…とりあえず早く寝ろ。水入れてやるから、」
「…にし、くん、」
「?」
わたしは先を行こうとする西くんの腕を引っ張り、それを制止する。ああ、不思議そうな表情をする彼とは裏腹に、きっとわたしの顔は今真っ赤に違いない。
「お願いが、あるの」
「えっちな、 こと」