『やからあんな男止めとけって散々言うたやんけ』


私が中学時代好きだった男、一氏ユウジから電話が掛かってきたのはつい今し方。私がお風呂から上がってチューハイをぐいっと一口飲んだ瞬間だった。


「だって、その時はそんなの分かんないもん」


私は今日、結婚を前提に付き合っていた彼氏にふられた。悲しすぎて理由はよく覚えてないけど、「お前うざい」的なことを言われた気がする。


「…私、そんなに重いかな」
『なんで』
「だって、うざいが理由でふられたんだよ?」


電話越しに聞こえてくるのは踏切のカンカンという音。ってことはユウジ、今日は仕事終わったのかな。お互い忙しくて最近会ってないけど。


「…ひっく、」
『おま…また1人で飲んどんのか』
「失恋したから誰も隣にいないんだもん。やけ酒だよやけ酒」


私が借りているアパートの一室。ひとりきりの部屋は広く、そして静まりかえっている。何故か、誰かがいないだけで、普段より一人分だけ広くなったような、普段より静かになったような、誰かが欠けてしまったような、そんな気がしてならなかった。


(1人が寂しい、なんて)


「久々に思った」
『何が?』
「…んーん、何でも。で、さっきの話だけど」
『なあ、』
「?」
『お前、彼氏が一緒におってくれんかったから寂しいんか』
「え、」


突如ユウジから発せられた確信を付く言葉。ユウジは普段鈍いのに、こういう時だけ少し鋭いから不思議な感じがする。


『俺やったらお前に寂しい思いさせん』
「ユウジ…」
『やけ酒も付き合ったる』
「…」
『うざいとか、思わん』


ピンポーン


私がユウジの次の言葉を催促しようとした丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。


「誰か来た、」


こんな夜中に誰だろう。不謹慎だなあと思いつつも、ユウジに一言断って玄関に出ることにする。


『絶対幸せにしたる』


ガチャン


『やから』


扉を開けた先。立っていたのは


「俺にしとけや」
「ユ、ウジ、」
「中学の時からずっと好きやった」
「…」
「俺と、付き合って下さい」


ムードとかやけ酒とか時間帯とかはもうどうでも良い。玄関先に現れたユウジに思いっきり抱き付いて、泣いて、ユウジを部屋に上げて、チューハイの缶を手渡して。


告白の返事をするのは、それからでも遅くないだろう。



(返事は勿論、「私も好き」)






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