遠くでビルの倒れる轟音が聞こえる。巨人兵士や巨大な歩行兵器、逃げ惑う愚民共の叫び声や雄叫び、そして血を零したような紅い空。
ラストミッション終了後。空は一面血のように紅く染まり、世界各地で謎の飛行物体が現れ始めたらしい。空から次々と降下する巨大兵器群と、空を覆う飛行物体。
「見ろよ…来たぜ、カタストロフィ」
俺達は今倒れたビルとは違うビルの屋上で胡座をかいて座っていた。隣には先程から黙ったまま、俺の肩にもたれ掛かる名前。彼女のスーツはラストミッション時の激しい戦いのせいでボロボロだ。
「核戦争かと思ってたけど、違ったな」
ま、誰もこんなモン予測出来ねぇだろうけど。そう続ける西の顔はいつもの、星人を前に見せる興奮した表情とは違っていた。
これまでの星人とは比にもならない程の相手と戦うことは、彼にとって代え難い程幸せなことだというのに。
「チッ……おい、いい加減起きろ」
そう言って隣の名前の体を揺らす西。それでも目を開けようとしない彼女に、その力も比例して強くなる。
「なあ、お前楽しみにしてただろ、カタストロフィ」
肩を揺すぶられバランスを崩し西の方へ身体が倒れても、名前は目を開けない。
彼女の胸には大きな穴が空いていた。
「…なンでこんな時に限って寝ンだよ、バカ名前」
西と同じくカタストロフィを心待ちにしていた名前。ラストミッション以前から西と戦いを共にし、性格の良さから彼女は他のガンツメンバーからも慕われていた。
「いつもあンな五月蝿せぇくせにな」
舌打ちをしながらも名前の膝の裏と腕に手を回し抱き上げる。そして最早動きもせず喋りもしない名前を抱えて彼が向かったのは、屋上の中でも比較的瓦礫の少ない貯水タンクの裏。
「お前はここで大人しく待ってろ。また後で迎えに来てやるから」
そう言って彼女の身体を静かに横たえる。西はコントローラーを操作しステルスモードになる為自身の手首に手を伸ばし――
ふと、その手が止まった。
「……行ってくる、」
最後に思い出したように名前の頭を軽く撫でつけ、西は歩き出す。
きらきらきら。紅く染まった雲と雲の間からもれる血を零したようなひかりは、酷く幻想的だった。
明るい歌は歌えない
(きみがいないと意味がない)