「ひかー!」
「…何すか名前先輩」


俺の先輩や後輩に当たる人は変な人が多い。寧ろ言い換えてしまえば、変な人しかいない。年がら年中変態な部長やスピードバカな金髪ダブルスパートナー、ジブリマニアやモーホーダブルスや師範やゴンタクレなどなど(以下略)。そしてそんな中でもマネージャーの名前先輩はずば抜けて変な人だったのである。


たまに何もない平地で転んで「…これは不慮の事故であって…」と言い訳する時もあれば、作り終えたドリンクに向かってうーうー唸りながら念を込めたり(勿論もう作り終わっているのだから今更味が変わるわけがないのだが)、俺のことを変なあだ名(「ひかるん」や「しらたま」や「後輩くん」など様々。いつか殺す)で呼んだりと、とにかく変である。あ、またこけた。


「…」
「…み、見たな白玉星人!」
「(白玉星人て…)見て何か問題でもあるんすか」
「いや、ないけどさ」
「…」
「…ちぇーい!」


ちぇーいって何やちぇーいって。それはともかく、変な掛け声と共に起き上がった名前先輩。すぐに起きたということは、前こけた時に暫く起き上がらず地面に寝転がっていたところ、飛んできた金太郎にの着地台になったのを彼女自身が覚えているのだろうか。いや、覚えていないと思う。この人は五分前に自分で言ったことを忘れるという記憶力を持つ人なのだから。つまり一言で形容すると、彼女は地球外生命体のようなものである。


「やあしらたま!今暇!?」
「暇じゃないっす」
「よっしゃ、じゃあこれから白石と千歳の試合見に行こう!」
「…」


そして人の話を聞かないところも相変わらずだった。彼女は水飲み場の縁に座っていた俺の手を取り立ち上がらせると、ずんずんと部長と千歳先輩がいるらしいコートに向かって先に歩き出す。


「へぶっ」


と思ったら、変な声とともに視界から先輩が消えた。どうやらまたこけたらしい。本当によく転ける人だと思いながら立ち上がるのを待つが、先程とは違って中々顔を上げない先輩に、俺はその隣に膝を追って問い掛ける。


「鼻でも打ったんすか」
「…」
「黙ってたら分かりませんけど」
「…ふん」


ふん、て何やふんて。返事か。確かに黙ってたら分からなって言ったのは自分やけど、まさかその一言で先輩の言いたいことを理解しろと。無理っすわ。


「…仕方ないっすね」


ぐい、と腕を掴み立ち上がらせる。小さい手、細い手足、決して高いとは言えない身長。何もかもが俺より小さい。そして顔を上げた彼女は何故か白眼を剥いていた。台無しである。


「…そんな顔さえしてなかったら、少女漫画的展開にでも持っていけそうなんですけどね」
「え、ぜんざい少女漫画とか読むの!」
「許容範囲っすわ」
「うっわーきも」
「…」
「えへ、うそうそ!」


そうしてまた駆け出す名前先輩。俺より細いし小さいし力はないし頼りないし意味不明なことばっかり言うし変なあだ名考えるしすぐこけるしどうしようもなく手間が掛かる存在ではあるが、


「名前先輩」
「んー?」
「そんな走ったらまた転けますよ」
「つまり?」
「はい、手ぇ繋ぎましょって話」
「えへへ、ひかる大好き」
俺はそんな先輩がどうしようもなく好きらしい。





(しかし嫌いではない)







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