「…」


先のフロンティア襲撃でパイロットを失ったVF-25F。それに乗り、その操縦席で膝を抱えうずくまっているのはこの機体の専属整備士である名字名前であった。VF-25Fに乗っていたギリアンの遺品は既に整理され、S.M.S所属のパイロットや整備士による追悼も済んだ。しかし名前の心はギリアンが死んだこととは別にもう一つ、別のモヤがかかっていた。


(こんなのは、異例だ)


そう、異例なのだ。次にこの機体に乗るという人物が、もう既に決まっているということが。


ギリアンはオズマ隊長の妹を守った。守った末に、バジュラによって殺されたのだ。そしてVF-25Fに乗せろと志願したのが


「おーい名前ー」
「…何、ミシェル」


聞き慣れた声に名前の思考が途切れる。見下ろしたそこにいたのは、さして彼女と年の変わらない、隊服を纏った眼鏡の少年。VF25に乗る腕の立つスナイパー、ミハエル・ブランである。


「飯食わないと死ぬぞー。それとも何だ?俺に迎えに来てほしくてわざと何時間もそこに」
「うるさい黙れ絞め殺すぞ変態」


ミハエルの冗談を一刀両断で斬り捨てる名前。苦笑いを浮かべていたミハエルだったが、狭い操縦席の中で膝を抱える彼女の姿を見ると、その表情がさっと変わる。


「複雑だよな」
「…」
「自分が整備してた機体のパイロットが殉職して、その日の内に次に乗るパイロットの有力候補が現れたんだから」


確かに複雑だ。自分が整備担当の機体の、しかも割と仲の良かったパイロットが亡くなって、その日の内に次の候補、というのもある。しかし


「別に、すぐに次の乗り手が決まるのは悪いことじゃない。VF-25Fに新しい相棒が出来るのは喜ぶべきことだろ」
「まあ、普通はな」
「…その人選なんだよ、問題なのは」


そう。このVF25Fに乗りたいと志願したのはミハエルやルカ、そして名前と同じ美星学園飛行科に通う友人の早乙女アルトだったのだから名前は頭を抱えるしかない。しかし


(ランカちゃんやシェリルさんがどれだけ止めても彼は乗ると言って聞かないだろうし、彼を危険に晒すようなことはしたくないけれど)


すると名前はふっきったように自分の両頬をぱんぱんと叩き、操縦席から立ち上がった。そして下にいるミハエルに呼び掛ける。


「…父さんや」
「ははっ、何かな母さん」
「降りるから手を貸しておくれ」
「はいはい」


名前に父さんと呼ばれたミハエルは笑いながら腕を広げる。名前がこうしてVF-25Fに籠もって考え事をするとき、彼女を迎えに来るのは、必ずと言っていいほどミハエルの役目だった。それは彼等が出会った時からずっと変わらない。


「見極める。あいつが本当に、このVF-25Fに乗る覚悟があるのかどうか」
「…あるならあるで、アルト姫が名前の指導に耐えられるかも見所だがな」
「それを慰めるのがお前の役目だ」
「2人飴と鞭、ってところか」
「相変わらず例えが上手い」


名前は機体の下で腕を広げるミハエルににやりと笑みを浮かべながら、今までうずくまっていたVF-25Fの操縦席から彼の胸へと飛び込んだ。ぽす、と軽い音がして、ミハエルは姫抱きのような格好で名前を受け止める。


名前はミハエルの首に手を回す。その表情は終始楽しそうに笑みを浮かべていた。


「楽しみじゃないかミシェル。私は今、我が子の成長を見守る親になった気分だ」
「じゃあ俺が父親で、名前が母親のポジションってところだな」
「悪くない」





(二人二役で丁度良いのです)







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