「いいか、怖がるなよ。何なら目を閉じといても良い」
「ぶつからないから安心しろ」
「無茶言わないで!」

九と十番線の間の柱に向かって走る赤毛の双子、フレッドとジョージ。二人は名前を安心させるような言葉を掛けるが、フレッドの肩に担がれた名前は慣れない視界の高さと景色と周囲から注がれる視線で今にも失神してしまいそうだった。しかも怖がるな、なんて、そんな無茶な。

しかし此処は言われた通りにした方が良いと、今にも飛びそうな意識の中で名前はそう判断した。目を瞑り、半ば無理矢理平常心を保つ。

そして、スーッという奇妙な感覚を覚えた次の瞬間、名前のカートを押して前を走るジョージ、名前を担ぎながらジョージの後ろを走るフレッド、そしてフレッドに担がれた名前は、9と3/4番線に着いていた。

汽車が上げる蒸気と人混みで一杯のホームの上には、「ホグワーツ行特急11時発」の鉄のアーチ。

「し…心臓に、悪いわ…!」
「でもなかなかスリリングだったろ?」
「急ぐぞ相棒、お嬢さん!もうすぐ汽車が出る!」

そう言うなりジョージは名前の荷物を貨物車に放り投げ、名前はフレッドに担がれたまま汽車に転がり込んだ。その時に「あなた達!何してたんですか!」という女性の厳しい声が聞こえた気がした。

そして少し遅れてジョージが汽車に転がり込んだ瞬間に汽車が大きな汽笛を鳴らし、もう汽車が発進することを彼女達に伝えた。

3人が窓から顔を出すと、1人の女性と娘であろう女の子が此方に手を振っている。先程の声はこの人からのものらしかった。2人とも双子と同じ、燃えるような赤毛をしている。家族、だろうか。

「「やあママ、ジニー。元気かい?」」
「元気かい?じゃありません!ジョージ、フレッド!あなた達早速悪さして…って、あら、だあれ?その女の子」
「迷ってたから助けたんだ。な、相棒」
「ああ、相棒。…そうだ、忘れてた」

名前の予感は当たっていたらしい。とりあえず、部外者の自分が此処にいても迷惑だろうから、此処から離れよう。助けてくれたお礼は、また今度で良いだろう。そう思った瞬間、ジョージとフレッドが同じタイミングで此方を向いたので、その身体の大きさに思わず後ろへ一歩下がってしまう。

「「お嬢さん、お名前は?」」
2人の口から出た言葉に名前は拍子抜けしたが、ハッと我に返り、双子と母親、妹らしい女子に向けて名乗った。

「えっと…名前・リドルです」
「名前ね。私はモリー・ウィーズリー。この子達の母親です。この子は娘のジニーよ」
「こんにちは、ジニー」

母親にジニーと紹介された小さな女の子に声を掛けるが、彼女は顔を真っ赤にさせると、母親の後ろに隠れてしまった。それを見たモリーさんは怪訝な顔をする。

「変ねぇ、普段は人見知りなんなしない子なんだけど…」
「いえ、構いません」
「名前、2人と仲良くしてあげてね。ジョージ、フレッド、名前にはくれぐれも優しく、そして」
「「くれぐれも変なことは教えないように!」」

双子が声をそろえて言った時、丁度汽車のスピードが上がり始めた。

「「またなジニー!」」

双子が窓から身を乗り出して手を振るので、名前もそれに便乗し小さく手を振った。
















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