片手にはトランク。そしてもう片方にはふくろうを乗せたカート。後ろには壁。そして目の前には壁に掛けられた巨大な駅構内地図。

「…凡ミス…」

嗚呼、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

今日は名前に限らず、多くの子供たちが新入生としてホグワーツに入学する日だった。此処はキングス・クロス駅。名前は9と3/4番線に行こうとしたものの、行き方が分からなかった。魔法使いの子どもじゃないかと言われても、そんなの困る。名前は純潔とはいえ、長い間マグル界で暮らしていたし、魔法使いの村と言えばダイアゴン横丁とノクターン横丁へしか出掛けたことがないのだ。

こんな時、見送ってくれる親がいたら良いのにーーー

名前はふるふると頭を横に振った。そんなことを考えても仕方がない。自分に付き添いなどいる筈もないので、渋々誰かに聞こうと思った。しかしこれがとんでもなく目立つのだ。駅で貸し出されている中で一番大きい、カートに収まらないほどの大量の荷物。極め付けは白ふくろうの入った籠だ。その上人が多い時間帯のキングズ・クロス駅。名前はうまく身動きを取れないまま、なんとか地図が記されている所までやってきた。

そこまではよかった。しかしここにきて、新たな問題が発生する。

(9と3/4番線なんて、どこにもないじゃない!)

そりゃそうだと自分で自分を説き伏せる。魔法界の存在は知られてはならないのだからーーーちらりとホームの時計を見ると、汽車が出る五分前を指していた。

「なあ、そこで何してるんだ?」

その時、ふと。名前の肩に置かれた大きな手と、彼女の髪にかかる赤毛。ひょろりと背の高い、赤毛にそばかすの少年が、名前の頭上から彼女の顔を覗き込んだ。

「う、え?」
「君、ホグワーツの新入生だろ?何でこんな所にいるんだーーって、聞いた所で答えは分かり切ってるけどな。9と3/4番線がどこにあるのか、分からないんだろ?」
「そ、そう!そうなの!」

どうやら、魔法界の人間らしい。近すぎる距離に口ごもりながら返事をするも、なんとかこの状況から逃れようと名前は一歩下がろうとした。しかし少年が彼女の肩に手を置いているので、それは叶わない。赤毛の少年は、名前の肯定の返事に満足したように笑みを浮かべると、彼女の腰に手を回した。

「ちょっくら失礼するぜっ」
「いっ…」

名前は自分の体が変な浮遊感に包まれたのを感じた。高くなる視線、行き場のない両足、胃袋が掴まれるような、奇妙な感覚。

「っあああああ!?」

どういうわけか、赤毛の少年は名前を自分の肩に担ぎあげたのだ。そして片手でカートを押し、歩き始めた。

「ちょっと待て、たか、たか、」
「鷹?」
「あっ…あなたの視界が高すぎて、困るわ!」
「ははっ、あんた面白いな!」

名前の焦った言葉に笑いながらも赤毛は歩くことを止めない。寧ろ歩くスピードを速めている気がする。名前の視界に掛け時計が写った。発車まであと五分だ。名前の素性を見抜いたということは、彼もホグワーツ生なのだろうか?と思いながら、更に歩みを早めた赤毛の巨人の上着をぎゅっと握ったその時。

「フレッド!さっきのチビ見つかったのか」
「…へ、?」

名前は自分の視力が悪くなったのだろうかと思い目を擦った。名前と少年の前方から巨人が現れたのだ。今フレッドと呼ばれた、名前を担ぎ歩いている赤毛と全く同じ顔と髪をした同じ背丈の巨人ーージョージと呼ばれていたーーが、フレッドの隣に並んだ。

「…ドッペルゲンガー?」
「ああ見つかった。ジョージ、後何分だ?」
「まあ待て…後五分だ。これはこれは」
「「いそがなければ!」」

急ぐ?ああ、走るのか。と思った瞬間、いきなり首筋をひやりと風が抜けた。ジョージが名前のカートを押し、先程と変わらずフレッドが名前を担いでいる。彼らは名前が叫ぶのも構わず走り出した。

チビと罵られ続けた名前が、赤ん坊や小学生位しか見下ろした事のない名前が、大の大人を見下ろしている。大の大人が何事かと名前を見上げている。その上3人は走っている。大事なことなのでもう一度。大の大人が皆名前の眼下でうごめいている。名前は今起きている現象に眩暈がした。

「ちょっと、ホームはどこにあるの!?」
「「あそこ!」」

そう言って赤毛ドッペルゲンガーズが指差す先。それは九番と十番の間だった。

「…そんな馬鹿な」










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