「寮に行く前に、また二言、三言、言わせて頂きたい」

お腹も満たされ心地良い眠気が降りてきた頃、ダンブルドアは生徒に注意事項を提示した。

禁じられた森には入らないこと。
四階の廊下には立ち入らないこと。

この時の名前は既に眠りの世界に半分ほど浸っていたため、注意事項はほとんど頭に入ってこなかった。ホグワーツ特急での長旅は、意外と体力を使ったらしい。監督生が彼女達新入生を誘導する時ですら、名前はあくびが止まらなかった。

ふと、ポンポンと肩を叩かれ、名前は警戒もせず振り返る。そこにはグリフィンドールの寮監・マクゴナガルが無表情で立っていた。驚きの余り名前も思わず目を覚ます。

「一緒に来てください」
「どうして?」
「ダンブルドア校長がお呼びです」

何故こんな新入生を呼び出すのか分からないーーマクゴナガルの瞳はそう語っていた。理由はどうであれ、きっと名前が二年遅く入学するという事実は、ホグワーツの教員には知らされているはずだ。それでも名前・名字という少女を理解し切れない部分は多い。当たり前だと名前は思う。自分の全てを理解してもらえるとは思っていない。これまでも、そしてこれからも。







「おお、よう来た、よう来た」
「遅くなりました」

ここまで連れて来てくれたマクゴナガルを見送り、ダンブルドアが勧める椅子に腰掛ける。ダンブルドアは名前の入学が嬉しいのか、にこにこと笑顔を浮かべていた。

「すまんの、こんな時間に呼び出してしまうとは」
「いえ、構わないわ。それにしても…直接会うのは、何年振りかしらね」
「君を何年もも待たせてしまったのう」
「マグル界で生活出来たことはとっても有意義なことだし、基本的には自由な時間が殆どだったから、気にしないで」

ダンブルドアはまず、二年も名前の入学を待たせてしまったことを謝ったが、名前はそれが彼の意思ではないことを分かっていた。確かに、今年になってやっと入学案内の手紙を送ったのは、ダンブルドアの意思だった。しかし、名前の入学が二年も遅れたのは、彼女がただ、二年早く生まれてしまったからというだけの理由なのだ。これだけはダンブルドアでもどうしようもない。

「ヴォルデモートが倒されてから立てた計画で、どうしても君とハリーは複雑に絡み合う。解けることのない、縁があったのじゃよ」
「縁、ね。確かに、縁があるからこそ、わたしは今此処にいるのかもしれない」

名前はほう、と息を吐き出す。話題に上がるのは、生き残った男の子。

「ハリーに会ったわ」
「ほう」
「入学前に偶然、ダイアゴン横丁で…」
「それも縁じゃな」

彼がホグワーツに入学したのに合わせて、名前も此処にやって来た。なにも起こらない筈が、ない。

「夜も更けた。今日はもう寮に戻って構わんよ。今ならまだ皆に追いつけるじゃろう」
「ここ二年間の詳細は後日、書面に起こすわ」
「礼を言う」

名前は椅子から立ち上がり、校長室を出ようと扉へ向かう。ふとその足を止めダンブルドアを振り返ると、彼もまた明るいブルーの瞳で名前を見ていた。

「わたしたちは選択しつづけている。だからわたしは、二年も待ったことを悔やんだりしない。生死を迫られたら、迷わず生きる。わたしは、迷わないわ」
「迷ったときは、きみはひとりではない。まわりをよく見てみることじゃ」
「あなたもね」

納得のいく言葉が聞けたのか、今度こそおやすみの挨拶を交わし、名前は寮への道を歩き出した。廊下の窓から覗く月が、こちらをじっと見ていた。











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