寮での部屋割で名前と同室になったのは、ハーマイオニー・グレンジャー、ラベンダー・ブラウン、パーバティ・パチルだった。入学初日ということもあり疲れていたので、自己紹介や挨拶もそこそこに四人はベッドにもぐりこんだ。

翌朝、名前が寮の自分の部屋で目を覚まして制服に着替えていると、ハーマイオニーが名前を呼んだ。

「おはよう、名前。昨日はびっくりしたのよ、寮に行く途中であなたが急に消えたんだもの」
「おはようハーマイオニー。昨日はちょっと…」

名前は昨日の校長室でのダンブルドアとの話のくだりを思い出し、曖昧に笑って誤魔化してみせた。話づらい話題だと気付いたのか、ハーマイオニーはさりげなく話を逸らしつつ、自分も制服に着替え始めた。

「朝食の時にふくろうが荷物を運んできてくれるんですって!」
「ハーマイオニーは初めてなのね、ふくろう便を見るの。新学期が始まったから、今日は荷物の量が多そうね」

自分の髪を梳かし終えた名前は眼鏡を掛ける。度は入っていない。目は悪くないのに眼鏡を掛ける理由、それはただ単に名前自身が目立ちたくないからだ。ドレッサーの鏡で身支度を確認すると、ハーマイオニーに視線を戻した。

「今日からいよいよ授業が始まるわね。ハーマイオニーは楽しみなんじゃない?」
「ええ、とっても!だって初めて学ぶことばかりなんですもの!」

名前は、ダンブルドアによって受講が必要ないと判断された科目は、授業を受けなくてもいいというお達しを受けた。ハーマイオニーとは、今日は変身術と魔法薬学が一緒の筈だ。魔法薬学は名前の得意中の得意だった。ダンブルドアは名前が魔法薬学を履修する必要はないと判断したが、名前は履修を決めた。ダンブルドアは勿論それを快く受け入れたが、彼女が魔法薬学を受けようと思った理由はただひとつ。スネイプの授業も受けてみたかったし、と、名前はそっと心の中で付け足した。

「「おはよう!」」

すると、背中に大きな身体がのしかかった。名前の小さな身体でそれを支えきれる筈もなく、彼女は呆気なく床へ崩れ落ちた。ちょっと!というハーマイオニーの怒号が聞こえ、首を回しなんとかその身体の持ち主を見ると、目の前に燃えるような赤毛がふたつ。

「おはようジョージ、フレッド…」
「おはよう名前!寝癖が酷いぞ!」
「我々が梳かしてやろう!」

ハーマイオニーが何か言う前に双子は名前を引きずっていく。髪ならさっき溶かしたわよ!と言う名前にも双子は笑うばかり。

「ハーマイオニー、寮の前でちょっと待ってて!すぐ行くわ!」

ハーマイオニーが頷いたのを確認すると、双子と名前は談話室の隅にしゃがみ込んだ。

「なんなの、悪戯の企画?」
「それもあるが名前、キミは僕らと同い年だ。つまり、ぼくたちと同じ授業を受けることもあるのかい?」
「ええ。占い学、マグル学、数占い…ってところかしら。三年生で必修ではないものなら受講しても構わないって。まだどれを受けるか決めてないけど」
「決まったらまた空き時間を教えてくれよ」

魔法薬学の知識も活かしてもらいたいしな、と言う双子に、名前はにやりと笑う。昨日の列車でのことを忘れてはいなかった。双子には彼女の魔法薬学の知識の豊富さに目をつけ、名前は双子の学園生活におけるいたずらのスタンスを気に入った。なら遠慮なく、と名前は手を差し出した。

「ヒマな時で構わないから、校内を案内してほしいの。どこに抜け道があるかとか、知っているんでしょう?」
「まあ、それは追い追いな。とにかく腹が減った、食堂に行こう」
「悪いけど、ハーマイオニーを待たせているの。またね」

双子に別れを告げ、名前は寮の外へ出るとハーマイオニーと合流する。大広間に出て朝食を終え、授業のある教室へ移動する。二年間学校へ通わず教育という概念からかけ離れた世界で暮らしていた名前にとって、授業を受けるということはとても新鮮なもので、とてつもなく強力な睡魔との戦いだった。

寮監であるマクゴナガルの担当科目・変身術のスタートは説教から始まった。マクゴナガルは眼鏡と同じ縞模様の猫に変身する様子を披露し、机を豚に変え、複雑な板書をさせた後、生徒全員にマッチ棒を配りそれを針に変えてみせるよう言った。名前とハーマイオニーがやっとこさ魔法を成功させた横で、バーパティはマッチ棒を五寸釘に変えた。

大多数の生徒が睡魔との戦いに陥る魔法史については、受講を免除されていたので、名前は思わずガッツポーズを決めた。特別扱いされることに優越感を感じている訳ではないが、有難いことだ。何せ、魔法史の睡魔は他のどの科目よりも強烈なのだから。

闇の魔術に対する防衛術では、教室中がニンニクの臭いで充満していたので生徒の大半が顔をしかめたが、名前には何の問題もなかった。にんにく臭など、薬の調合で爆発を起こした時よりも数段ましだ。しかし名前は教室に入った瞬間から、別の何かに顔をしかめていた。

何かを探られるような、奇妙な、そして嫌な感覚。
「名前、どうかしたの?」
「ううん、何も…ただ少し頭が痛いだけ」

本当は頭など痛くない。しかし名前にはその感覚がどのようなものなのか、他人に説明のしようがなかった。











第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -