※現代で幼稚園パロ。
「レディ!今日は雨でダメだったけど明日こそおれとデートしてくれよ!」
「ジタンくん、デートじゃなくてお散歩。それと、"ティファ先生"でしょ?」
「じゃあ愛しのマイレディ!また明日!」
「もう…はい、さようなら」
ひと通りの園児を見送り少しだけ肩の力を抜くが、まだ終わってはいない、と再び力を入れ直し園内に残る最後の園児に歩み寄った。
「スコールくん」
名前を呼べば返事こそ無いものの、ティファに顔を向けた。
彼は年長組である、スコール・レオンハートである。
「一緒に遊ぼう?」
「……」
スコールの迎えは大概父親なのだが、仕事やらなにやらの関係で他の園児達より迎えが遅い。
なのでこうやってティファが彼と遊ぶのは、もはや日課と言える。
だが、遊ぶと言っても特に何をするわけではない。
元々スコールは一人を好む傾向があり、よく一人でじっと何かを眺めていたり、もの思いにふけている事が多い。
その彼を邪魔しないように、ティファが傍に居るだけなのだ。
「……。」
ちなみに、今日は窓の近くに座って外の雨模様を眺める日のようだ。
園児がキチンとおもちゃを片付けていったおかげでする事のないティファも、スコールの隣に座った。
「スコールくん、雨は好き?」
なんとなく、外を眺める彼の顔がいつもより穏やかなのに気が付いて、聞いてみた。
雨。
なくてはならないものだが、晴れている方が好きだという人の方が多いだろう。
ティファもその一人だった。
しかし理由としては晴れが好き、と言うより雨が苦手だからだ。
ぶ厚い雲が空を覆い、光の差し込まない雨の日。
ティファの母は病で亡くなった。
それはまだ彼女が幼い頃の事であったが、外で降りしきる雨を何処か遠くに聞いていたことでさえ今も鮮明に思い出せる。
"良い行いをした人間は死んだら天国に行くんだよ"
と、父に教えられたティファは母も例に漏れず天国に行けるのだと考えていた。
けれど雲は天へと迎える一筋の光も差さない。
母は、天国に行けなかったのだ。
彼女はそう思った。
子供ながらに、その事がとても悲しかったのを今でも覚えている。
勿論、大人となった今ではそんなこと思ってはいないが、雨を苦手とする原因は恐らくそれだろう。
ティファは外を眺めて無意識に唇を噛み締める。
スコールはその様子を見て呟いた。
「…おれは、雨は嫌いじゃない。」
一言だけ言うとまた、外に視線を移し続ける。
「静かに…じっとしていると、分かる。」
「そうなの?」
言われた通り、息さえも潜めて視覚と聴覚に神経を集中させた。
ぴちゃん ぴちゃん
規則的とも不規則とも取れる雨音のリズムが耳朶を打ち、窓に伝う水滴は膨らみを持って景色を不思議に魅せる。
そして幼稚園の窓の近くに植えてある木の、葉の雫がその下の水溜まりに落ちて綺麗な波紋を描いた。別の波紋と交わる様は神が戯れで残したもののように美しかった。
静かに心の余裕を持って過ごすことで改めて発見出来る音や風景は、確かになんとも穏やかな気持ちにさせられる。
「それに雨は、何もかも、洗い流してくれる。」
大地に降り注ぐ雨はまるで母親の無償の愛のように優しかった。
それをこの幼い少年は知っていたのか。
「…本当ね。」
思わずティファの顔が綻んだ。
彼なりに何か察知して励まそうとしているのが分かったのもあるが、雨の違った一面を知ったから。
自分の半分の人生も歩んでいない、このやたら大人びた少年からは、これからも色々学ぶことが多そうだ。
―雨も、好きになれるかしら…
"これから"を想像して、ティファはまた笑った。
「いやぁ、スイマセンね。また遅れちゃって。」
「良いんですよ。私もとっても楽しかったですし。」
漸くやってきたスコールの父は通勤鞄と傘を片手にスコールの手を引いたが、あえなく拒否されていた。
残念がる父親をよそに、ティファはスコールに礼を述べた。
「素敵なこと、教えてくれてありがとう。」
「…他のヤツには」
「大丈夫、言わないよ。」
スコールとしてはこれをネタにからかわれる可能性があるため言ったわけだが、ティファは何だか嬉しそうだった。
「私と、スコールくんだけの秘密。」
小さくウィンクしたティファに対して、少しだけスコールの頬が赤くなったのは彼の父親だけが知っている。