静かだった。
まるで世界から音という音がなくなってしまったかのように。
辺りにはぼんやりとした月明かりと、温い空気が取り巻くだけだ。
しかし彼は不思議とそれが心地よく感じていた。
「カイン」
無の沈黙を少し高めのソプラノが通る。
「見張り、替わるよ。」
そう言ってティファは片膝をつく彼の隣に腰を下ろすが、カインは全くその素振りを見せない。
「俺は大丈夫だ。それより明日はもっとキツくなる、十分に睡眠をとっておけ。」
「だったら尚更カインも休むべきよ、ずっと闘いっぱなしでしょ。」
私なんかアシストばっかり。
と、少し拗ねた様な口振りで話す。
事実、合流してからというもの彼はイミテーションに会う度真っ先に攻撃を仕掛けティファは殆どアシストに回っていた。
まるで彼女を闘わせないようにしているかのように。
「折角2人なんだから敵を倒すのもローテーションとか、せめて少しは……って、聞いてる?」
「…あぁ」
目も合わさずに此処でない何処かを見つめているカインは、どう見ても話が頭に入っていなかった。
今カインに何を言っても聞いてない。
そう思ったティファは何が何でも彼を休ませる為、此処に居座る事にした。
絶対カインが寝るまで諦めないんだから!
等と意地に近い心持ちで膝を抱いて、目の前に延々と続いて見える荒野を見つめた。
そうして再び沈黙が訪れる。
が―
「ティファ」
今度それを破ったのは、カインだった。
「…何?」
「ずっと、考えていた…」
今まで一切此方に向けなかった顔を少し傾け、それでも視線は交わさず続ける。
「何故…俺を信じる?」
彼は不思議に思っていた。
自分はイミテーションによる完全な消滅を防ぐ為、ひいては次の戦いへの希望を繋ぐ為に仲間を眠らせてきた。
他にも方法があったのかもしれないが、自分の出来る事はそれしかなかった。
勿論何があろうと仲間に手を掛けるのは決して許される事ではない。だがそれについて言い訳をする気もない。
裏切り者とされても自身の目的を果たす為には、それでも良いと思っていたからだ。
しかしティファは違った。あの時彼女は彼が仲間に手を掛けた事実しか知らなかった。
どうして彼がそんな事をするのか?その理由さえ知らされていなかったと言うのにティファはカインを信じた。
それが彼には分からなかったのだ。
「俺は…裏切り者と言われても仕様がないだろう。」
「……。」
その言葉に抵抗するように、カインをじっと見つめる。
「お前が眠っている隙に攻撃を仕掛けたかもしれない。」
「でも大丈夫だった」
「目の前で武器を向けるかもしれない。」
「今更そんな事しないでしょう?」
「だが、」
「カイン」
先に言葉を制したのはティファだった。
慈愛を含んだ声色にカインは思わず顔を見やる。
「例えそうであっても、私は貴方を信じてるから。」
確かに最初はどうしてあんな事をしたのか知らなかったし、信用して良い人物なのかも分からなかった。
しかしカインはアルティミシアから救ってくれたし、今はこうしてティファを眠らせることもせず彼女を守る為に戦っている。
ティファにとって、信じる理由はそれで充分だった。
傍にある彼の手に自分の手を優しく重ねて、語りかける。
「だから、ねぇカイン…大丈夫だよ」
まるで自身に言い聞かせているように。
何に対しての"大丈夫"なのか、言ったティファにすらよく分かっていなかったが今のカインに掛けてやれる言葉として、何故かそれを言わなければいけない気がした。
彼が、何かに苦しんでいる。
ならば少しでも救ってあげたい
そんな淡い願いを込めた一言だった。
「ね?」
「……。」
想いが通じたのか、カインは手を払いのける事もなくただただ伝わる体温を感じていた。
それが彼には酷く温かかった。
「お前は、」
強いな
「ん?」
「いや」
その心の呟きは紡がれることはなかった。何故彼女がこの逆境下で強さを持ち合わせているか、何となくだが分かっていたからだ。
ティファも深くは追及せずに微笑みかけるだけだった。
「……ティファ、俺は少し眠る」
「うん」
それだけ聞くとティファは目の前の荒野に視線を戻す。
先程より柔らかな静寂が疲労しきった体に染み込むようにして、睡魔が襲うのにそう時間はかからなかった。
おやすみ
子守歌でも歌うような優しい旋律を聞きながらカインは眠りに就く。
その手は、重ねられたままだった。
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カインに同行している最中こんな事があってもいいじゃない!と考えて一番最初に書いたカイティ。今頃書き終わった(^^;)DdFFの世界観に"明日"とかあるのかとか、夜は来るのかとか、こんな場所はあったかとか(一応月の渓谷?辺りをイメージして書きましたが)、そういった事は無視の方向性でっ!←
ティファの信じる強さとか優しさにカインは惹かれているといい…ていうか好きだろもう。こんな大変な時にけしからん!もっとやれ!←