食満とトモミ

「へえ、これから留三郎と町に行くのか!」
「はい。楽しみです」
「羨ましいなあ!私」
「も一緒に行くなどと言うなよ、小平太…」
「あ、食満先輩っ!」
「待たせてすまないトモミ。小平太は帰れ」
「留三郎ってばさいてー!ぶーっ!じゃ、またなトモミちゃん!」

今日は久しぶりにトモミと町へ遊びに行く日だ。早朝から気合いを入れすぎたせいでとっくに待ち合わせ時間を過ぎてしまい、急いで支度を済ませて門まで来るとあろうことかトモミが小平太につめ寄られていた(実際は仲良く話をしているだけだが俺にはそう見えた)。俺に気付いたトモミは一瞬にして笑顔になり、少しの優越感に浸る。そしてなんとか無事に小平太を追い出すことにも成功し、ようやく出発の時間だ。それにしても小平太のやつ、山を目指しておもいきり走り去って行ったが本気で俺たちのあとをつけるつもりだったのだろう。そうでなければ私服のまま山なんかに走り去っていくものか。…とりあえず、微妙に後味が悪いながらもトモミの歩幅に合わせて出発した。

「わあ!この布の柄かわいくないですか?」
「そうだな、トモミに似合うと思う。俺が」
「私が買ってやろう」
「…せ、仙蔵…!?」
「立花先輩、偶然ですね。お買い物ですか」
「まあな。お前たちは…なるほど。朝から気合いが入っていると思えばこれか、留三郎」
「わっ馬鹿言うな!」

町までの道中、他愛もない話をするだけで微笑んでくれるトモミは相変わらずかわいらしかった。そしてようやく町に着くとこれまた楽しそうにお目当ての店屋を巡り、ますますかわいらしかった。しかし幸福感に包まれるのもほんの一瞬の出来事、またもや邪魔者が登場する。布を片手にどうしようかと問うてきたトモミとかっこいい一面を見せようとした俺の間に割り込んできたのは仙蔵だった。一段とやっかいなやつが現れたと二人にわからないように溜息を吐き出す。現に今日の朝、俺が気合いを入れて準備をしていたことを見られていたうえにさらけ出そうとしたのだから。間一髪で遮ったものの…危ない危ない。というかいつまで俺たちの邪魔をするつもりなんだ、しかも遠慮もなく必要以上にトモミに近付きやがって。

「トモミ、その柄もいいがこちらの柄もお前に似合うと私は思う」
「そうでしょうか?」
「ああ」
「んー…じゃあ今日はこの柄にしてみます」
「俺が買ってやるから今すぐ貸せトモミ!」
「ちょ、食満先輩!」
「仙蔵…悪いがさっさと帰ってくれないか」
「必死だな、留三郎。…次はこうはいかん」

さすが作法委員会の委員長である仙蔵は布の目利きも非常にいいらしく、確実にトモミに似合う柄を次から次へと選び抜いていた。俺はといえばそんな二人を虚しくも後ろから眺めるばかり…むしろどの柄もほぼ同じに見える始末。いやいや、あくまで今日は俺とトモミが楽しむ日であって、邪魔者が楽しむなどそれこそ言語道断である。俺がぐだぐだと考えている間にどうやら布の柄が決まったようだ。悩みに悩んで選ばれた細かい花柄の刺繍が施された布はトモミにぴったりだった。仙蔵に先を越される前に無理矢理布を奪い取り、素早く会計を済ませる。髪をなびかせながら去って行く仙蔵は珍しく悔しいという表情を全面にかもし出しており、あと少しでも遅れていたらトモミを奪われていただろう。何事も先手必勝とはこのことか。これで俺のトモミを死守できたぞ。





「なんだか今日はよく先輩方に会いますね」
「…疲れただろう。振り回してしまって…」
「そんなことないですよ。食満先輩とだから、とても楽しかった」
「言ってくれるな」
「あ、お団子もう一皿頼んでもいいですか」
「何皿でもいいぞ」
「やった!太っ腹!」

町から離れた場所にある小さな団子屋にて、今日初めてと言ってもいい二人きりの空間。なんの変哲もないただの団子がやけに美味く感じる。トモミと遊びに来るにあたって一番の強敵である仙蔵を退けほっと束の間を味わう暇もなく、伊作やら長次やら文次郎といったやつらがうじゃうじゃ現れ正直買い物どころではなかった。あいつらを退けることに必死になっていたからだ。もちろんなにも知らないトモミはそんな状況に振り回されてしまうわけで。しかしながら俺といて楽しかったと面と向かって言われるのはなにやらむず痒いというかなんというか。とにかく照れくさい。実際買ってやれたものは花柄の布と安い団子だけだが、今はそれでもよかったと思える。トモミとともに遊びに来れたことに真の意味があるのだから。

「食満先輩また一緒に遊びに来ましょうね」
「また近いうちにな」
「……」
「どうした?トモミ」
「あの」
「おう」
「…あの、その………こ、今度は!邪魔されずに!二人きりで!」
「………あ、ああ…」

愛おしくてたまらないトモミが、より一層愛おしくなった。学園に戻ったら散々邪魔をしてきたやつらの目の前で抱きしめてやろう。


(110514 奏瀬さんへ)

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