「ラドゥったらまたこんな所で寝て」
高めのソプラノに目覚めるなり、紅茶色が目に入る。
ここには月も太陽もない人工的な僅かな光だけだと言うのに彼女の周りは光輝いて見えて、思わず目を細める。
「…おはよう、エステル。」
とりあえずご機嫌斜めな様子に優しく微笑んでみたが、やはり目のつり上がりは一向に下がらない。さて、どうしたものか
「せめて何か掛けて寝ないと風邪ひくわよ?」
肌触りは決して良くないが暖かな毛布を掛けられる。触れた肩も微かに暖かく、おおよそこの季節には不釣り合いな温度だ。
「大丈夫さ、私の身体は君とは造りが違うのだから。」
「それでも!私が心配になるからやめて」
柔らかな光を宿した瞳が一瞬だけ揺れ動いた事は、我等からすれば分かり易すぎるぐらいの変化で見逃すはずもない。
それと同じくらい彼女の首を掻き切るのは容易だが、あえて実行しないのは奇妙な事に長生種である私と短生種である彼女の間に不安定ながらも存在する"愛"とやらの所為だろう。
彼女が傍らの窓を開け放して私に紫外線を浴びせかけないのもまた然りだ。
「あぁ、悪かった。」
謝罪の意味を込めて私の冷たい指を彼女の頬には寄せれば許してくれたのか、くすぐったそうに目尻を下げる。
その仕草が酷く愛おしくて、形の良い美味しそうな唇にそっと重ねた。
私が先程まで寄りかかって寝ていた机には使いかけの阿片。
抱きしめているのは愛しき聖女。
外は朝日が燦々と輝き、この部屋はただただぼんやりと薄暗い。
そして私と、彼女という種。
矛盾だらけのこの空間は、不思議と成り立ち今も尚進行している。
(……眩暈がしそうだ。)
彼女から香る匂いが鼻孔を通り抜け肺を満たす。その甘さに酔いしれながらも、殺さず愛する。
異常、と言えば異常なのかもしれない。
だがこの気怠ささえ感じるこの瞬間がたまらなく幸せだと思えるのだ。
「次は…何処へ行こうか」
「貴方が一緒なら何処でも、」
異常でも良い、異端でも良い。
私は彼女と居たかった。誰にも邪魔をされたくなかった。
しかしそれは私が私である限り、彼女が彼女である限り叶いはしない。
だからせめて、許された時間を2人で
絵空事
どうせいくなら、一緒に逝こうか。
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はいまた出た勝手な設定!
聖女エステルと帝国貴族ラドゥ。2人は恋に落ちますが何らかの理由で若干追われてます。で、まぁ流石にずっと逃げ続けるのは無理だろうけど少しでも長く一緒に居たい2人は各地を点々としながら逃げ続ける…みたいな(^ω^)
ラドゥエスはびっくりするぐらい書きやすい!