「じゃあこーすけ君は、これをぐるぐるしてくれる?」
「んっ。」
「喜八郎、玉葱は…」
「しみるるるる」
「全っ然刻めてないわね…」

もういいから貸して、と無表情で大粒の涙を流すという不思議な状況の喜八郎から包丁を奪う。その隣でこーすけがおぼつかないながらも一生懸命ボウルの卵をかき混ぜている姿が可愛くて余所見をしていたら、うっかり指を切りそうになって改めて残った玉葱に集中し直す。


「喜八郎は冷蔵庫からケチャップ出して、フライパンに油ひいて。」
「るるるるる」
「わかったから、ほら早く!」


ただでさえ広くないキッチンに3人もいて狭いのに、突っ立ってても困るので彼にも指示を出す。
本当はリビングで座っててもらった方が圧倒的に効率が良いのだが、この2人が彼女から離れようとしないから仕方がない。

それに普段料理する際は1人でするタイプのトモミにとって、このように何人かでワイワイ料理するのは新鮮で楽しかった。
家族が出来たらこんな風に料理してみたいな、と思う程に。(これを言葉に出さないのも喜八郎が調子に乗りそうだからである)

そうこうしているうちに、先程から喜八郎そっくりな割には物事をテキパキとこなしているこーすけがボウルを差し出してきた。

「できたっ」
「お〜上手っ!ありがとう。」

頭を撫でると照れ臭そうにほんのり頬を染めるこーすけの愛らしさに我慢出来ず、トモミは玉葱臭い手で抱き締める。
隣で羨ましそうにする彼の視線が送られてくるが、「子供が出来たらこういう弊害が生まれるのかぁ…うーん。」と言う呟き共々、スルーした。





「はい、喜八郎炒めて!」
「あぁっ違う!玉葱が先よ!」
「生のトマトじゃなくてケチャップだから!」
「ケチャップ入れ過ぎっごはん足して!」
「ちょっ…それじゃスクランブルエッグ!!」













「か、完成〜…」


うっすらと滲ませた汗を拭うトモミの前には、3つの皿に盛られた、苦難の末出来上がったオムライス…になる予定だったもの。

いや、一応は普通のオムライスだ。
ブツ切れの(生焼け)トマトが入っていたり、ライスが焦げていたり、上に乗せられている卵がぼろぼろのスクランブルエッグになっている事以外は。


しかし、比較的調理しやすいオムライスをここまで見事に間違えるのはなかなか出来ない。それをやってのけた彼はある意味天才なのでは?それが分かっていたら確実に簡単な最後の工程ですら任せなかったと言うのに。

「(何で喜八郎にやらせちゃったのよ…私。)」
と悔やんでも悔やみきれない。





「こーゆーハプニングも家族ならではだねぇ」

本人反省の色ナシ。

思わずトモミはパイ投げの要領でオムライスをぶつけてやりたくなったが、こーすけが僅かに頬をゆるませて「美味しい」と言ったのを聞けたので、とりあえずは良しとする。






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まだまだ続きます…長い…
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